第11話「征服戦(コンクエスト)」
九人のプレイヤーが室内で思い思いのことをしながら、その時を待っている。
個性あふれる格好をしたプレイヤーは、クラン<キャリバー>の人たちだ。
青色の軍服の上からタクティカルベストを着て、両手持ちタイプの大型修理銃の点検をしているクランリーダーのサクヤさんの姿が見える。
どうしてこうなったんだろうか。
ここは制圧戦の待機エリアなのだ。
そう、何故か僕もここに居る。
「サクヤさん、僕、役に立ちませんけど」
「気にするな。楽しんでくれればよいのだ」
「そう……ですか」
すごくクールな笑顔で言うサクヤさんに、もう言い返す言葉はなかった。
「とても経験値が稼げてレベルアップできる方法があるよ!」
ログイン直後、シャルケにそう言われた僕が連れて行かれたのは<キャリバー>のたまり場だった。よくわからないうちに一時的にギルド入りをして征服戦に挑戦することになっていた。
「ほら、経験値もたくさん入るし、いいじゃん」
「だからこそ役に立たないのが気になるんじゃないか」
何も考えてない顔で笑うシャルケに、僕は胡乱な目を向けた。
「ここに居るのは新人ばかりだ。私とブルームを除けば君とレベルが近いメンバーばかりだよ。コンクエスト慣れのために来ているのだから、失敗など気にするな」
「そう、ですか」
苦笑して言ったサクヤさんに、僕はいまいちな返事を返すしかなかった。
あらためて見渡してみると、緊張しているプレイヤーが多い。そうか、彼らも初挑戦だったりするのか。
パーティ表示されているウィンドウをちらりとチェックする。
【突撃兵】三名。ベリーショートの女性プレイヤーがヨシモさん、ゴーグルにヘルメットの男性プレイヤーがCOLLさん、馬のかぶりものをしてハードプロテクテターを装備しているニグティさんは性別すらわからない。
【機甲兵】二名。シャルケ、完全にロボットの見た目のブルームさん。
【狙撃手】一名。山岳兵のような緑迷彩で、同じ緑迷彩のバンダナを巻いている森造さん。
【工兵】三名。サクヤさんと対爆スーツを着ているせいでもったりした体型になっている男性プレイヤーがミミルさん。もう一人はもちろん僕だ。
けっこう工兵が多いな。そして突撃兵の人気の高さよ。やっぱり戦いやすいからだろうか。
「よし集合」
サクヤさんの声がかかり、メンバーが思い思いの姿勢で視線を向ける。
全員の視線が集まったのを確認してから、サクヤさんが話し始めた。
「今回のマップは<月のクレーター>。だいたいクエストは大型の敵を倒す【撃滅】か、護衛対象を目的地まで届ける【護衛】のどちらかだろう」
このBPOというオンラインゲームは、かなりの部分秘密にされている情報が多い。公式が公開しているモンスターや武器、クエストは多くあれど、それを上回る隠しクエストやイベントが用意されているのだ。一説によると、この隠し要素を多く作りすぎたために会社がティターニアオンラインから手を引かざるを得なかったという噂まで立っている。
コンクエストもマップを選択することはできても、どんなイベントが起きるかマップによって変わってくる仕様になっているのだ。しかも、同じマップでも同じイベントが起きるとは限らない。
「慣れるのが目的だからな。やられてもあまり気にするな」
そういってサクヤが締めくくる。コンクエストでは通常マップとは違い、一度やられると復活ができない。試合終了まで待つことになるのだ。
表示されたカウントダウンタイマーが、開始時間を告げる。
僕たちは一斉にコンクエストマップに転送されていった。
コンクエストマップ<月のクレーター>。
月にあるような大きなクレーターの内部にある廃墟街。まわりをかこむ大きな壁のように見えるのは、クレーターの壁面だ。
転送された僕達はまとまって移動を始める。先頭を機甲兵のブルームさんが進む。
ちょうど十字路にたどり着いたときに、サクヤがハンドサインで全員の動きを止める。
「よし、ちょっとバラけて進もう。ヨシモ、ミミル、森造は私と来い。ブルームとCOLL、ニグティが組め」
すぐに指示に従ってみんなが動く。見えないがすでに相手となるクランも同じマップ入りをしているはず。固まっていては危ない時もある。
「あ、僕はどうすれば?」
「シャルケと進んでくれ。何かあったら連絡をする。クエストが開始すればパーティ全員に通達されるはずだ。行くぞ」
手を軽く振って挨拶しあい、三つに分かれたグループがそれぞれバラバラの方向に進み始める。
僕とシャルケは顔を見合わせた。まあ、自由にやっていいってことだろう。
さっそく無人機を顕在化すると【無人機索敵】を使う。ミニマップには機甲兵器の表示はない。
「それにしても、二つのクランが同時にクエストを進行するってどうなるのかな」
「ええとね、敵対ミッションと協力クエストがあるよ。協力の時は、おっきな敵とか大量の敵とかを二つのクランが力を合わせて撃退。敵対の時は相手を全滅させるとクリアだよ!」
へえ。そんなものなのか。協力クエストのほうが気分が楽でいいかもしれないな。
「ただ、協力クエスト中でも相手クランの攻撃は命中するから、そのあたりは注意かな」
ダメージはもらうのか。けっきょく敵も相手クランも気にしてないとだめなのか。
話をしながら歩いていると、いきなりクエストウィンドウがポップアップした。どうやらクエスト開始のようだ。
パーティ通信を表すウィンドウがポップアップすると、僕が見やすい位置に開いた。サクヤさんの顔が映し出されている。
『クエスト開始を確認。大型機甲兵器を倒すのがクエスト目標だ』
「大型ってどんな形をしているんです?」
『ランダムだ。どんな形のが出てくるかはわからないな。まずザコを倒さないとボスは出てこない。私たちは対ボスの準備をする。遊撃でザコを叩いてくれ』
サクヤさんからの通信が切れた。
同時にミニマップに何体も機甲兵器の表示が出現し始める。
「よおし、いっちょやろう! ユニくん!」
「先にやられたほうがマガジンおごりでどう?」
「のったよ!」
にやっと笑うとシャルケが走りはじめた。ホルスターから熱線銃とナイフを抜くとすぐに追いつく。
通りを曲がるとすぐに機甲兵器の姿が見えた。<アーマードプロウラー>。アーマー強化されたタイプの人型機甲兵器。
アーマードプロウラーが持っていたエネルギーライフルの銃口を僕に向ける。すでに僕は弧を描くようにして高速で接近。
エネルギーライフルが火を吹いた。緑色をしたエネルギーレーザーがすぐ横をかすめていく。
僕は地を蹴ると上方向に急激に方向を変えた。空中で熱線銃を連射。よろけたところをナイフで攻撃。
アーマードプロウラーが僕を追いかけて後ろを向いたところで、シャルケのエネルギー弾が直撃した。
「うん。やれそう」
「いい感じだね!」
通りの角から、さらに増援のアーマードプロウラーが姿を見せた。僕とシャルケは獰猛な笑みを浮かべると、新たな獲物に襲い掛かっていった。




