29. エピローグ
穏やかな春の陽光の中、私とアベルはマールで結婚式を挙げた。この日のために頑張って髪の毛を伸ばし、何とかアップヘアにしてもらった。メイクも何回かリハーサルをして好みの色合いに、ウェディングドレスは王都でオーダーメイドした。たっぷりと布地を使ったデザインで、特にデコルテ部分のレースが美しい。お腹周りは少しゆったりめに作った。実は赤ちゃんできたのだ。いまはちょうど妊娠5か月でつわりも落ち着いている。今年シモンの誕生日には間に合いそうにないだけど、とても喜んでくれた。今までシモンが兄弟が欲しいなんて言ったことがなかったから、アベルからその話を聞いた時はちょっと驚いた。こっそり兄弟というものに憧れていたのかも知れない。
結婚式のヴァージンロードはマール伯爵にお願いした。父も天国から見守ってくれているとうれしい。
「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい誓います。」
「はい誓います。」
アベルが私のベールをあげ、唇に誓いのキスをする。一番前の席にちょこんと座っているシモンがキラキラと瞳を輝かせながらこちらを見あげていた。
披露宴は、アレクサンドル王太子殿下夫妻を主賓として招待した。ボナパルト家からは侯爵夫妻とアベルのお兄様のシリル様が参列してくれた。兄嫁のカトレア様は先日生まれたばかりの赤ちゃんと領地でお留守番だ。ブロワ家からは、ブロワ侯爵になったエリカが遠路はるばる来てくれた。エリカをエスコートするためヴィクトル殿下も一緒だ。二人が婚約したとはまだ聞かないけど、殿下がエリカに絆されて彼女から離れられないというのは本当なんだろうな。あと、散々お世話になったネモフィラ。彼女にも感謝だ。ラウルをはじめとしたマール沿岸警備騎士隊の皆さんは今日もにぎやかだし、私の大切な仲間たち、フルール商会取引先と商会従業員もにこやかに私たちの門出を祝福してくれた。
***
それから数か月後のある夏の朝。
「おぎゃあ、おぎゃあ。」
丘の上の伯爵家別邸で大きな産声が上がった。夜に陣痛が来てから約10時間くらい経っただろうか。第2子の方がお産は楽と聞いていたが、大きな違いはないように思った。産声を聞いてアベルとシモンが部屋に入ってきた。
「おめでとうございます。カワイイ女の子ですよ!体重は 3,040 g、身長は 49.3 cm。この子も珍しい髪色ですね。」
そういうと産婆は生まれたばかりの子をバスタオルに包んで渡してくれた。胸の上で抱く我が子の髪は薄緑色。ああそっか、ボナパルト家の髪色は魔力で変化するんだ。この子は風属性だから、ヴェントスと同じ緑色なのか。
「リリ、お疲れ様。とってもかわいい子だ!本当に本当にありがとう!」
「ははうえ!体調は大丈夫?はじめまして、ぼくのかわいい天使。この子は風属性かな?」
不安に押しつぶされそうだったシモンの出産の時とは対照的で、今はアベルとシモンがいる。自然と涙がこぼれた。名前はシモンの案を採用して、デイジーになった。
デイジーがお腹にいることが分かってから邸の使用人の数を増やしている。アベルが来て、使用人が増え、今度はデイジーも来てくれて…。シモンは今のにぎやかな邸が大好きだという。私もだ。
私が学園から去った時、まさかこんな幸せな日が訪れるとは思わなかった。子はかすがいというけれど、アベルとやりなおすことができたのは、間違いなくシモンのおかげだ。この幸せがまた逃げないように、手放さないように、ギュッとシモンを抱きしめた。
小説を書くのは初めてだったので、途中、読みにくいところもあったかと思いますが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。本編はこれにて終了です。
この作品のスピンオフとして、別作品『ねえ殿下、私に堕ちてきて?ポンコツと噂の廃嫡王子を籠絡したい』の連載を始めました。こちらはR18指定のため、ムーンライトノベルズ(女性向け)に掲載しています。ヴィクトル殿下とエリカの関係に焦点を当てた小説です。
一応頭の中にはアマリリスを主人公とした前日譚の構想があるので、いつか気が向いたらまた別の作品として挙げるかもしれません。
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よろしくお願いします。
志熊みゅう




