28. 再び君と
この世界に喪に服するという考え方はないから、結婚式はすぐあげても構わないのだが、準備もあるから早くて来年の春頃だろうか。とりあえず式はまだ先だし同居は急がなくてもいいと思っていたのだが、アベルはすぐにこちらに引っ越してきた。引っ越し当夜、寝室に入るとアベルがソファでうれしそうな顔で待っていた。最近やっと気づいたのだが、アベルとシモンは笑った顔がそっくりだ。
「ヴィンテージの赤ワイン持ってきたわ。引っ越し祝いにちょっと飲まない?」
「それ、リリのおすすめ?俺ワインとか全然詳しくなくて。」
興味津々といった様子でアベルがラベルをみている。
「そうなの。しかもこれ当たり年のとっておきよ!」
用意した2つのグラスにワインを注ぐ。黒みがかったガーネット色だ。鼻を近づけるとスパイシーで芳醇な香りがした。それから私たちはワインを飲みながら、お互いの7年間でまだ話してなかったことを話した。とくにシモンの話は盛り上がった。初めてつかまり立ちした時のこと、初めて歩いた時のこと、初めて話した言葉が『アン (アンヌ)』だったこと、初めて魔法を暴走させた日のこと。
「これからは全部一緒にみれるな。」
うれしそうにはにかむアベルは、まるで大きな犬みたいだ。ほんとにかわいい。思わず目を細めた。
「リリ、俺のこの顔好きでしょ。」
うん好き。でもそれ以外の顔も好き。全部理想だし全部好き。
「もう、うるさい。そういえばあなたシモンに何か誕生日プレゼントをねだられて、急すぎるって前言ってたじゃない?あれってなんだったの?男同士の秘密って濁されたけど。」
アベルが顔を赤らめて、ちょっと視線をそらした。
「…シモンに、兄弟が欲しいって言われた。」
「え!?」
「だから結婚したら、一晩でも早く閨を共にしようかと思って。じゃないと次の次のシモンの誕生日にも間に合わないだろ?」
そういうと彼は私をギュッと抱きしめて、深い口づけをした。
「大好き、リリ。愛してる、愛してる、愛してる!」
そこから寝台に移動して、私たちはその日朝まで肌を重ねた。アベルは大型犬かと思いきや夜は獰猛な狼で、私はそれから毎晩のようにおいしく頂かれるのであった。




