26. 殿下の気持ちとエリカの気持ち
「つまり殿下はまだ王太子の座を狙っているから、エリカには本気になれないってこと?」
アベルからの報告を一通り聞いて、なんか呆れてしまった。
ファム・ファタール―男を破滅に向かわせる魔性の女
とはよく言ったものだ。正直、ヴィクトル殿下が王太子に返り咲くのは難しい。まず決闘を申し込んだとしても、アレクサンドル殿下の方が実力が上だ。それにもし勝ったとしても、一度地に落ちた評価をもとに戻すのは難しい。そもそも王宮での評価を少しでもあげたいなら、今辺境にいるべきではない。早く王都に帰るべきだ。
「でも俺は、殿下が完全にエリカ嬢に絆されるのは時間の問題な気がする。それに大丈夫だよ。エリカ嬢はああ見えて結構ちゃっかりしているだろう?本当に殿下に脈がないと分かったら、すぐ割り切って次の婿を探すだろう。それに辺境とはいえ次期侯爵だ。貴族の次男坊、三男坊からしたら、これ以上ない優良物件さ。」
「そうかしら?」
エリカの話では私が失踪したあと、隣国との抗争が激化し、"婿探し"の方は困難を極めたそう。ようやく見つけた子爵令息の婚約者にも学園時代に浮気された。婚約解消について『私がわがままだったのよ』と彼女は言うが、浮気した彼からは『王都を離れたくない』と言われたらしい。ただでさえ辺境だ。王都周辺で育った貴族の令息からしたら、こんな辺鄙なところに閉じ込められたくはないだろう。
「ならいいんだけど。心配ごとが増えたわ。」
そういうと深いため息をついた。
***
今日も父のもとに顔を出す。アベルとシモンも一緒だ。
寝ているのかな?目を閉じている。一応声をかけてみたけどだめそうだ。
「シモン、アベル、ありがとうね。」
「問題ないよ。だってこれが今回の旅の目的だろ。」
「うん。」
父の部屋を出て離れに戻ろうとすると、ガゼボに異母妹のエリカがいるのを見つけた。そういえば、この前はドラゴン討伐から殿下が戻られて、話が途中になっていたんだ。アベルに事情を伝えて、またシモンを預かってもらう。
「エリカ、今大丈夫かしら?」
エリカは領地経営に関する本を読んでいるようだった。
「あら、お姉様。」
「この前の話の続きをしようかと思って。」
それから私たちはお互いの近況報告をした。
「そういえば、殿下のこと、あなたはどう考えているの?あんな形で家を飛び出した私が言うことでもないけど、嫡子になっているのなら、あなたはいつか婿を取らないといけないでしょう?」
少し核心をついた質問をしてみる。
「うふふ。心配はいらなくってよ。殿下はもう私から離れられないわ。実際遊びのつもりならとっくに王都に戻っているでしょ?それにしても、王位を完全に諦めてもらうには、どうしたらいいかしらね。――私にも赤ちゃんができたら、真剣に婿入りを考えてくれるかしら?とにかく、結婚式にはお姉様たちも招待するから、必ず来てちょうだいね。」
天真爛漫そうに見えて、したたかなエリカに少し驚いた。




