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辺境護民官ハル・アキルシウス(改訂版)  作者: あかつき
第3章 北方辺境動乱
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第17話 西方帝国と西方諸都市国家の動静

 シレンティウム市内


 ルキウスとアルトリウスの連携が戻り、シレンティウム市内から帝国側、ダンフォード側、それにシルーハの間諜が排除された。

 また同時に無頼や与太者の取締りに時間を割けるようになった治安官吏達が、不眠不休の取締りを実施したことで一気に治安が向上する。

加えて大神官エルレイシアの回復とシレンティウム行政府の政策維持宣言が出され、シレンティウムには再び人が集まり始めた。

 北のダンフォードと、東南のシルーハが敵対関係にある情勢は変わらないものの、東の東照と西のオラン、南の西方帝国とは友好関係が維持されており、シレンティウムを巡る政治情勢はひとまず落ち着いたのである。

 特に西のオランとの緊張関係が完全に解消されたことは大きく、オランの民がシレンティウムへ多数訪れるようになり始めていた。





 シレンティウム行政庁舎、2階ベランダ



 一時は火が消えたかのように鎮まり返っていたシレンティウムの大通りに再び活況が戻り、その喧騒を耳にしながらハル、身重なエルレイシア、アルトリウスの3人が集まった。

 3人の前にはハルが淹れた香草茶が用意されている。


『やれやれ……一時はどうなることかと思ったのである』

「お陰様で私もハルも無事今ここに居られます」

「すいません……私が不甲斐ないばかりに」


アルトリウスの言葉にエルレイシアが礼を述べ、ハルが謝罪を口にした。

 その2人の言葉を聞いたアルトリウスが微妙な笑みを浮かべて口を開く。


『まあ……その、なんである。我が油断したのもあるのでな?まさかシルーハがあのような手を打ってくるとは思いもよらず、封じられてしまう羽目になった』

「まあ……それは」

「でも、ですね……」


 ちょっとその辺については口を挟めない2人。

 情けなくもアルトリウスが封じられたことに気付かず、そのまま戦争に突入して負けてしまったのでは合わせる顔が無い。


『まあ、あの情勢下では致し方あるまい。シレンティウムの面々はよくやったであると思う。どちらも見捨てることが出来ぬ重要な主邑であるし、ハレミアの蛮人を撃破したばかりで余力が無い所を狙われたのも痛かった』

「そうは言っても……先任がいなくちゃ何も出来ないと言うことになってしまいます」


 アルトリウスの言葉にも納得出来ない風にハルが答えると、少し考えてから偉大なる先任者は口を再び開いた。


『それは違うのである。我が居ろうが居るまいが、実際に物事を進めているのはお主達今の世を生きる人間なのである。我はただ少し助言をしているだけで有るから、聞くも聞かぬもお主ら次第である上に上手くいく時は上手くいくし、上手くいかぬ時は上手くいかぬ。今回の敗北など我が居ったとしてもどうしようも無いのであるぞ?』

「それはそうかもしれませんが……でも」

「ハル、先任の優しさに感謝しましょう」


 ハルが尚も言い募ろうとするのを押し止めるエルレイシア。

 確かにエルレイシア自身が襲われたこと以外にアルトリウスの存在が関与する要素は無いのであるが、今まで順調に物事が進んでいただけに今回の大失敗がハルには相当堪えているのだ。

 恐らくハル自身もアルトリウスの不在を敗戦の理由にして自分の責任を免れようとする心がある事には気付いてはいるのだろう。

 でもエルレイシアの良人はそんな邪な考えには負けない。


「……すいません、私の責任です」

『うむ、いずれにせよお主にはこの地に住まう者や北の民の期待が乗って居るのだ。責任からは免れ得ぬのである』


 ようやく出た、しかし自分から出したハルの言葉にアルトリウスは満足そうに言い、エルレイシアが微笑む。


「私の期待も一身に背負っているのですからね?」

「わ、分かってますって」


 身体を寄せてくるエルレイシアに、ちょっと驚きながらも微笑みながら答えるハル。

 エルレイシアはその口に素早くついばむようなキスをした。


「!エル……」

「ハル……ああ、私心細かったです……」

「え、あっ」


 再び交わされる、今度は熱く長いキスに、アルトリウスが呆れて言う。


『何時ものことであるが……我もここには居るのであるぞ?』







 帝都中央街区、皇帝宮殿皇帝執務室



「……協力出来ないとは如何なる事か?」


 マグヌスの怒気を含んだ声に。ルシーリウスは両手を広げて答えた。


「私たち貴族としましては、皇帝陛下の無謀な作戦によって帝国が受けました損害補填の協力は致しかねるという見解でございます」

「馬鹿な……西方諸都市国家やシルーハに乗ぜられかねませんぞ!」


 その言葉に執政官のカッシウスが憤りも露わに言うが、それをどこ吹く風と流し、ルシーリウスは言う。


「それを何とかするのが帝国行政府では無いのか?」

「何とかしようとして協力を依頼して居るのだ」


 マグヌスが言葉を発するものの、ルシーリウスは頭を左右に振った。


「受け入れられません」

「……そうか。分かった下がって良い」

「では無駄な時間を有り難うございました。失礼致します」

「不敬な!」


 普段は冷静なカッシウスが激高して言うのも無視し、ルシーリウスは皇帝執務室から退出した。

その後ろ姿を忌々しげに見つめるカッシウスと、表情を変えないマグヌス。

 しかしルシーリウスの足音が遠くへ去ると、2人はため息を吐いた。


「陛下……これでは」

「うむ、上手く話を持っていったつもりであったが……」


 帝国軍の弱体化を理由に貴族派貴族から兵士と資金を供出させ、その力を多少なりとも弱めようと狙ったマグヌス帝と中央官吏派のカッシウス。

 利害関係の一致による共闘であったが、ルシーリウスにまんまと躱されてしまった。

負担としては軽くも無く重くも無いという設定をして話を持ちかけたのであるが、けんもほろろに断られてしまったのである。


「しかし、実際問題と致しまして、貴族派貴族の協力が得られねば、軍の再建は3年から5年程度は必要です」

「うむ……金銭的な問題か?」


 カッシウスの言葉に重々しく頷いたマグヌスが問うと、有能な執政官は首を左右に振った。


「それもありますが、人員的な問題が一番です」

「人員とな?」

「はい、臨時登録退役兵がシレンティウムへ大量に転居しておりまして、緊急召集も出来ません」


 マグヌスの問いに淡々と答えるカッシウス。

臨時登録退役兵とは、退役兵で未だ体力を残し軍務に耐えうる者を一定期間登録し、緊急時に帝国軍へ召集できるようにしてある者達のことである。

 しかし帝国外へ移住してしまった者や、他の国家任務に就いている者は自動的に除外されることになっているのだ。

 シレンティウムの開発事業は辺境護民官主導の国家事業に位置付けられているので、彼の地へ移住してしまった臨時登録退役兵達は召集適用除外となる。


「……そうか」


 現在帝国軍は国境警備隊を含めて少なく見積もっても7個軍団に匹敵する兵士を失っている。

 この再建には相応の時間と費用が掛かるであろうが、その負担は貴族が拒否した以上全て帝国が担わなければならない。


「いずれにしましても地道に兵を鍛え、補充してゆくしか道はありません。ようやく連絡の取れた南方戦線のカトゥルスからは援軍要請も来ています。今しばらく兵の補充は思うように進みませんでしょう」

「……ヒルティウスはどうした?」

「カトゥルスから西方へ脱出したという報告が上がっておりまして、その以前にアルテアからそれらしき軍兵2000が内陸へ向ったという報告が来ておりますけれども、連絡が取れません」

「そうか……ヒルティウスには軍再建の指揮を執って貰いたかったが」

「反乱、という事も考えなければなりません……」


 暗い声がマグヌスの耳に届く。

 カッシウスはヒルティウスに南方作戦失敗の責任を取らせたいのだろう。

 それが果たせないとなれば責任は準備に関わった自分にのし掛ってくる。

 彼としてはヒルティウスを何らかの形で帝都に召喚し、元老院の場へ引き摺り出したいと言う思惑があった。


「うむ……」

「いずれにせよ軍命を離れているのは間違いありませんので、一度帝都に召喚致しましょう」

「分かった、手配しておくように」


 カッシウスの言葉に鷹揚に頷き、ヒルティウス召喚へ許諾を与えるマグヌスだった。






 元老院、議員控え室



 豪奢な大理石で出来た、歴代元老院議長の彫刻が並べられた元老院議員控え室。


 この部屋はその時代で最も力のある元老院議員に使用が許されている、権威のある部屋であったが、今、権勢はあっても思想の無い走狗、貴族派貴族の巣窟と成果てていた。


「……全く、危うく失政の補填をさせられる所だった」

「有り難うございます、ルシーリウス卿。お陰で我々の先祖伝来の土地や資産を失わずに済みました」


 ルシーリウスが皇帝宮殿から戻って疲れた素振りを見せながら椅子に座ってそう言うと、すかさず議員の1人が阿るように言った。


「そうだな……こんな所で躓く訳には行かない」


 ルシーリウスがつぶやくように言うと、もう1人別の議員が声を掛ける。


「北の王子との連携は如何しますか?そろそろ切り時だと思いますが……」

「そうだな、後はシルーハとの連携だけを維持しておけば良いだろう。北の王子は切れ」

「分かりました……無駄金を使うことはありませんからな」


 ルシーリウスの答えに満足そうに頷きつつ言うと、その議員は早速と言わんばかりに部屋を出る。

 北の謀略や援助を主に任せていたので、今まで相当金と資材をつぎ込んだのだろう。

 これで北の王子とは連携を切る。

 今まで続けていた闇の組合員の派遣を止め、武器と資金の援助を切るのだ。

 再度別の議員が質問する。


「……反発して攻め寄せてくるかも知れませんが?」

「心配ないいずれにしてもアイツらの攻め口は北方関所しか無い。東部諸州は多少荒れようとも関係ないからな」

「なるほど……深謀に敬服致しました」


 ルシーリウスの説明納得したその議員はそう答えつつ敬礼を送って下がった。


「諸卿も帝国の要求には応じないように……このまま帝国軍の再建を遅らせておくことこそが明日の我らの権力取得に繋がるのだ」

「「「ははっ」」」


 最後に締めくくったルシーリウスの言葉に、誰もが頭を垂れるのだった。






 西方帝国領西方、中西属州、州都イオロニア



 イオロニア市の行政庁舎で、周辺の軍団長や国境警備隊長に自派への参加を呼びかける書状を認めていたヒルティウスは、従卒が入室してきたことに気付いて顔を上げる。


「なんだ?」

「執政官からの召喚状と現状報告要請書が来ていますが……」

「分かった、そこに置いておけ」

「はっ」


 ヒルティウスの命じられた通り、机の端に2通の書状を置いて従卒が下がる。

 ヒルティウスはちらりと自分の書いていた書状に目をやり、それを書き上げるべく再びペンを取った。

 しばらく紙の上をペンが走る軽い音だけが部屋に立ち、ヒルティウスはその音を背景に1人言葉を紡ぐ。


「……何が召還状か、どうせ私を南方作戦敗戦の責任者に仕立て上げて処刑するつもりだろう、如何にもカッシウスあたりが考えそうなことだ」


 再び沈黙してペンを走らせるヒルティウスだったが、少しして再び口を開いた。


「その手には乗らん、ここで勢力を養い、帝都が無視出来ない力を付けてから帝都へ帰還すれば私にはおいそれと手出し出来なくなるはず。今は沈黙して力を蓄える……!」


既にカッシウスの手には、直卒していた2000の帝国軍団兵以外に私費を投じて雇った兵士5000がある。

 また、イオロニアに駐屯している第12軍団7000名と、西方諸国との国境関所を守る西方城の第13軍団7000名及び西北関所の第11軍団7000名はヒルティウス傘下に入ることを承諾した。

国境警備隊2万は未だ去就を明らかにしていないが、引き抜かれている第10軍団を除いた帝国領西方の北半分に駐屯する帝国軍がほぼ味方になったのである。


 西方帝国と敵対的な西方諸都市国家群と国境を接しているため、国境警備の必要性から自由に動かせる兵は少ないが、それでも遣り繰りすれば1万4千程の兵を帝都に向けられるようになったのだ。

 いずれはある程度領土や交易関税で譲歩して西方諸都市国家群と講和若しくは休戦を結ぶことも考えているヒルティウス。


 そうなれば更に動かせる兵を増やすことが出来るだろう。


 後は属州総督と各都市の参事会を掌握すれば戦費の問題も解決する。

 属州総督達はイオロニアでの粛正による惨劇を見て反発を強めているが、軍を掌握したヒルティウスに対して抗う術は無く、最終的には従う他無いのだ。


「見ているが良い……私はそう簡単にはやられんぞ!」


 暗い声でつぶやいたヒルティウスは、力が入りすぎて折ってしまったペンを投げ捨て、反故になった草茎紙を破り捨てた。







 西方諸都市国家群、エリアス通商会議議長国、エリアス



 西方諸都市国家地域の中北地域に属する都市国家エリアス。


 西方人が拓いた最古の都市の一つであり、最西方で力を持つ10同盟の1つであり、大小合わせて20余りの都市が加わるエリアス通商会議を主催する都市の公会堂では、盛んな議論が繰り広げられていた。

 その議論の主題は、西方帝国の北に出来たシレンティウム同盟からの1通の書状への対応についてである。


 黄みを帯びた大理石で築かれた半円形の階段式議場に、声が響き渡っていた。


「私はこの話に乗るべきだと考える。彼のシレンティウム同盟と結び、友好関係を結ぶことは我がエリアス通商会議の理に適う」

「交易関係だけで考えれば我が会議に利は薄いのではないか?未開発の航路を拓かねばならん上に、オラニア海は島のオラン人共の領域であろう」


「しかし東照産品や北の珍しい物品はその投資に見合うだけの価値がある」

「航路については西方帝国の助力が得られるのではないか?我が通商会議は西方帝国とは対立していないのだから、港の使用は出来るだろうし、その海軍の助力も得られるはず」

「しかし西方帝国は貪欲だ。最近では内乱の兆しもあるという……頼みになるのか?」

「それに我がエリアス通商会議は西方帝国と敵対はしていないが、今後の事を考えれば西方帝国と誼を通じるような真似は慎むべきだ。隣接するエクヴォリス連合は西方帝国と敵対している。この事を理由に戦を仕掛けられかねない」


「エクヴォリス連合だけなら支障は無いが……南のユナイオン共和同盟や南東のアナトリアス共和国が敵に回る可能性があるぞ……」

「この提案は西のカルヴノ同盟や南西のスティノス協定にも送付されたとある……ここはこの2つと協議を持ってはどうか?」

「しかしそれでは親西方帝国派の談合と受け取られかねない。それこそエクヴォリス連合を刺激することになるぞ」


「そうなれば反西方帝国の談合もあり得るか……」

「それに先程言ったが西方帝国は今動揺している。期待した助力が得られるかどうか分からんし、親西方帝国と標榜してその西方帝国が転けては元も子もない」




 エリアスの都市評議員のみならずエリアス通商会議に参加する各都市から派遣された外部評議員も加わり、議論は白熱する。

 次第にその議論は熱を帯び始め、西方諸国の政治状況や近隣の同盟や連合の動向分析も加わり収拾が付かなくなり始めていた。


 じっと議論を聞いていた議長席に座る、50代も半ばの男がため息をついた。


 理知的な光を湛えた灰色の目、短く刈り揃えた白髪に深い皺を刻んだ四角い顔。

 この都市国家エリアスの評議長を勤め、またエリアス通商会議の会頭を兼ねるその男、ティモレオニスは静かに手を挙げて言葉を発した。


「議員諸兄に申したい」


 場が静まる。

ゆっくりと立ち上がったティモレオニスは、半円形の議場に座る議員達を見回し、徐に口を開いた。


「……私はシレンティウム同盟と通商協定を結びたいと思う」

「理由は……ありますか?」


 シレンティウムと結ぶことに反対意見を述べていた議員の1人が問うと、ティモレオニスは頷くと言葉をゆっくりと継ぐ。


「まず、政治的な問題。西方帝国と直接結ぶのは、近隣の反西方帝国派の各同盟を刺激するので得策ではないが、何らかの繋がりは持っておいた方が良い。シレンティウム同盟はその良き仲介者となり得るであろうと言うこと」

「……利益面では如何ですかな?」


 東照産品に造詣の深い議員が尋ねると、苦笑を漏らしつつティモレオニスは口を開いた。


「北の産品や東照物品は魅力的だが、独占すれば嫉妬を買う。嫉妬は争いを生む。私としては航路途中に当たる反西方帝国派のエクヴォリス連合にもこの話を通し、共にシレンティウム同盟と通商するべきと考える……最も我が通商会議の利益はどこかで回収するつもりではある」

「しかし……エクヴォリス連合は乗ってくるでしょうか?」


 近隣勢力の動向を気にしていた若い議員が問うと、これまた静かにティモレオニスは答えた。


「エクヴォリス連合とて一枚岩では無いし、西方帝国は巨大だ。万が一に備えて交渉の窓口を増やしておくことに損は無いはずだ、と普通の政治家であれば考えるであろう。私がエクヴォリスのエレクテウスに話そう。私の話はエクヴォリスの議員達に伝わるだろう」

「島のオラン人共は如何しますか?オラニア海のみならずこの近隣にも現れて海賊行為を働いていますが……」

「そろそろ討たねばならんだろう。海軍を出す」


 ティモレオニスの言葉に議場がどよめいた。

 ここ数十年、対外的に派兵をしたことがないエリアス通商連合であったが、海賊退治とは言え域外に海軍を派遣するというのである。

 もちろん国境などで小競り合い程度の衝突はしょっちゅうであるが、本腰を入れての軍派遣は無かったのだ。

 加えて今海軍を派遣した所で攻め込まれるような対立関係にある都市や同盟が無いと言うのも大きな要因である。


 数年前まではエクヴォリス連合と参加都市の境界を巡って深刻な対立が生じており、アスファリフというシルーハ人の傭兵将軍に散々に破られたエリアス通商会議であるが、ここ数年は融和的になっており、今年末にはティモレオニスの努力の結果停戦条約を発効する予定である。


「都市造営の依頼については如何しますか?」

「これは然程の難事では無い。シレンティウムと通商したい都市が均等に費用を負担し、その都市での自由通商権を取り付ければ良いのだ。西方諸国中に呼びかければおそらく費用負担はぐっと下がる。執政権と資材集めはシレンティウムに任せよう……我々は商売と交渉窓口が出来れば良いのだ」


 にやりと笑みを浮かべたティモレオニスの発言に、議場が笑いで満ちた。


「では?」


 議事録を採っていた書記官の言葉にティモレオニスは力強く応じる。


「シレンティウムに通商協定の話しを諾と返事せよ。近隣の都市連盟にも参加を呼びかけて話しをとりまとめてからエレール河畔の都市造営に参画する」


 ティモレオニスの言葉に議員達が賛同の拍手を送った。


「諸君!我々は新しい良き同盟者を見付けられるかも知れん。だがこれはあくまで希望的観測に基づくものであるから、同盟及び通称協定締結の権限と合わせ、我らの理と利に適わぬ相手であることが判明した時はこれを破棄する権限を私に与えて欲しいが如何か?」


 再び賛同の拍手が送られた。


「では……辺境護民官の為人を見極めるため、私直々にシレンティウム同盟との交渉を行おう。私が不在の間は副会頭に政治を託す」


 最後に立ち上がった議員達から盛大な拍手が送られ、西方諸都市国家群、10大同盟の1つ、エリアス通商会議はシレンティウムとの連携に動き出したのだった。



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