夜になった
八時をすぎても、僕はまだベランダにいた。
というより、ここからがベランダにいるべき時間だ。
「ただいまです先輩」
「あ、おかえりー」
ヘッドライトを頭につけた深結芽がお手洗いから帰ってきた。
「全然バレる気配ないですね。もう多分見回りの警備員さんとかもいないんじゃないですかね」
「そうか」
深結芽は僕の隣に座った。
ベランダは少し砂があるのでシートを引いている。
星をちゃんと観察してみた。
南の低いところに明るい惑星が二つ。
前もって調べた情報の通り、左が木星で、右が土星なはずだ。
後で望遠鏡で覗いて写真撮れたらいな。
そして西の方には、夏の大三角が見える。
少し遅れて七夕が開催されてるみたいな感じだ。
織姫と彦星もわんちゃん会ってるんじゃないの? 知らないけど。
他にもまだ星が見える。
「いやー、今日泊まりにしてよかったですね先輩」
「うん」
深結芽と僕は、暗い中うなずきあった。
暗くてもちゃんとうなずけば、お互いおんなじ意見だってわかる。
「……深結芽、ごめんね」
「……謝るの突然ですね。突然流れ星が流れたみたいですよ、先輩」
深結芽が指で流れ星の軌道を描いた。
「いや、でもさ、なんというか、こういう暗い中じゃないと謝れないっていうかね」
「先輩が謝りたいことって、なんなんですか?」
「……色々とさ、ほら今年、天文部がちょっとしょぼくなっちゃって、ごめんっていう話で」
「……なーんだ。先輩、そんなんなら、もうただ先輩が勘違いしてるだけなんで、解決ですよ」
「解決ってマジですか?」
「マジですよ。ここからは太陽より明るく見える星がないくらい、マジですよ。……明るいといえばですね。天文部って夜とかプラネタリウムとか、暗い中で活動することが多いのに、この天文部は明るいですよね」
「まあお昼だらだらしてるもんな」
「いやそういう話じゃないんですよねー」
「あ、そうなの?」
「部活の雰囲気が明るいってことですよ」
「そっか。ありがとう」
「……前も話したと思うんですけど、私、入学して早々まさかの不登校になったんで」
「そうだったな。だけど、あそこでたまたま僕と会ったんだもんな」
「そうですよ。だからあれから私にとって、暗すぎる夜ってのはないんですよねー」
「そうか」
僕はゆっくりと良さげなところだけ思い出してみた。きっと深結芽も思い出している。
そう、少し明るくて星の見にくい空を見上げていた僕と、深結芽が出会った春を。




