※蛇は問いかける
『・あー、聞いといて悪いんだが、意味がわからない。なんだよその肩書き!というか、アストの正体って蛇なのか!?』
アストから無数の肩書きを教えてもらったが、共通性があまり見出だせなくてフレイクには結局アストの正体がよくわからなかった。
『うーんと、正体ってなると違うかな?ただ、端末としては蛇とか龍。ドラゴンの姿かこの人間形態でよく行動するね』
『端末?正体が違う?なら本体とかがあるのか?今目の前にいるアスト以外に?』
『うーん、そっちも微妙かな?たしかに本体と呼べるものはあるけど、中身は本体も端末も同じなんだよね。だからフレイクにとっての僕は僕のままかな?』
『・・・』
いろいろと複雑らしく、結局フレイクにはアストの正体がよくわからなかった。ただ漠然とアストはアストだという感じで納得した。
『さてと、そろそろ向こうも良いかな?』
『向こう?』
『そう、向こう。ゼクスゥーアの方。今のお喋りでそこそこ回復の時間はあげたから、そろそろ攻撃を再開しようかなぁって、ね』
『またあんな攻撃をやるのか?』
先程の容赦のない攻撃を思い返し、フレイクはゼクスゥーアを応援したくなった。
『うーん、さっきも言ったけど別パターンがあるからそっちでも良いかな?というか、ゼクスゥーアなんてどうでも良いから本来ならここまでするつもりはなかったんだよね』
『えっ!』
『本来ならスピニンとシュナイデン達に頑張ってもらって、ゼクスゥーアと接戦を演じてもらうつもりだったんだよね。その方がゼクスゥーアの手の内をフレイクに見せ易いし』
『・・・』
そのアストの言葉にフレイク内心嫌な予感がした。
アストは最初からゼクスゥーアのことをどうでもいいと言っていた。言われた時は世界の敵がどうでもいいなんてどうなんだって?と思ったが、さっきのアストの攻撃の威力や苛烈さを思い返す限り本当にどうでも良かったのだろう。アストにとってゼクスゥーアなんて嵐に翻弄される木の葉とたいしてかわりなかったから。なのにアストはさっきのような攻撃を仕掛けた。俺がどうでもよくないと言ったから。
そのことに気がついたフレイクは、ゼクスゥーアに対して申し訳なくなった。そして、これからは言動には気を付けようと思った。アストは外でも同じことが。他のことも出来ると言った。不用意に似たことを言ってアストに外で天災を巻き起こさせるわけにはいかない。アストは俺以外に無関心だ。だからアストは俺の言動でいくらでもやる。例え敵ではなくても、味方であってもゼクスゥーアのようにどうでもよく蹂躙する光景がありありとフレイクには想像出来た。
『アスト…』
『なに?』
『俺を喜ばせる以外で好きなことってあるか?』
『急にどうしたの?』
『いや、いつも俺の世話を焼いてくれてるからさ、他に好きなことはあるのかって、な。当たり前にし過ぎていて少し気になったからさ』
『ふーん。そうだねぇ?フレイクを喜ばせること以外にかー。うーんと、・・・フレイクが直接喜ばないので良いなら一応あるかな?』
『俺が直接喜ばない?・とりあえずそれはどんなことなんだ?』
『フレイクを不快にさせるものを踏みにじること!』
『えっ!?』
予想外の回答にフレイクは固まった。
『やっぱ僕的にはフレイク以外はどうでもいいんだよねぇ。それでもあえてフレイク以外に焦点を当てようと頑張ると、好きなことはそれぐらいなんだよ!』
『・・ちなみにその俺を不快にさせるものを踏みにじるってのは、具体的には何をどうするんだ?』
『そうだねぇ?例えば、フレイクが気分の悪くなること。弱いもの虐めとか、虐待。酷使、搾取、無関心、弾圧、貶めるとか貶すことをする相手の肉を割き、骨を折り、精神をなぶり、魂や尊厳を踏みにじることかな?』
『いやいや、悪者相手でもそんなことをするのは駄目だろ!!』
アストの具体例にどっちが悪者なんだかフレイクはわからなくなった。
『なんで駄目なの?』
『なんでって…、当たり前だろうが!』
『当たり前?』
『そうだろ!』
『でもそれって所詮は綺麗事というか、たんなる理想や夢物語だよね』
『いやいや綺麗事って…』
『人は正義とか好きだけど、たいていの場合正義を掲げてやることは悪がやることとどっこいどっこいなんだよねぇ』
『・・・そうなのか?』
アストの落ち着いた返答にフレイクの方が逆に不安になった。
『そうだよ。正義を掲げて侵略戦争とか普通にするし、人種差別とか生物淘汰なんかもやる。そもそも正義に対するのは他人の正義で、負けた方が悪になるなんてのはよくある話しだよ』
『・そう、なのか?』
『そうだよ。食料がない貧しい国が国民を助ける為に隣国に戦争を仕掛けることもあるし、敵国の軍人を、民間人を虐殺した者が故郷では英雄と讃えられることもある。戦争が毒を撒き散らすこともあれば、その戦争の後に豊かさを得ることもある。結局立場が何処かでいくらでも見え方も見方も変わるものなんだよ。だからフレイクの言う当たり前は僕には刺さらない。そもそも人間の当たり前の範疇外だしね、僕』
『・・・』
フレイクはアストの言葉を否定出来るだけの情報を。現実に起こった事実を知らなかった。なのでアストをどう止めれば良いのかわからなかった。
『それでも僕に人間の当たり前を望むのなら、そうしようか?もっとも、僕の知る人間とフレイクの知る人間の当たり前の差異は絶望的だと思うけどね』
『・・・』
フレイクはどう答えるべきかわからなかった。少なくともアストの方が自分より多くのことを知っているのは確かなわけで、よく知らない自分がアストの行動を制限してもそれから上手くいくのかわからなかった。
『ああ、そうそう。せっかくだからフレイクが悪者扱いした目覚めの鐘の奴らの主張もこの際教えておくね』
『あの化け物の主張?』
『そう。あいつらいわく、この世界は偽物で、外に本物の世界がある。だからこの世界を滅ぼして自分達がいるべき本来の世界に帰る。これが目覚めの鐘の奴らの主張だね』
『世界が偽物って…。どんな主張だよ、それ』
『何をもって偽物扱いしているのかは知らないけど、こういう奴らは何処の世界でも一定数必ずいるんだよねぇ』
『そうなのか?』
『うん。それで何処の世界でも世界を滅ぼそうとしているわけ。でも他の人達にとってはその世界は本物で現実。さて、目覚めの鐘は悪なのか?フレイクはどう思う?』




