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※力を示す蛇

『アスト!なんだよあの化け物は!?』

『目覚めの鐘のゼクスゥーア。種族は魔族。種別は獣悪魔。瘴気を撒き散らし、呪法を用いて生者を苛む者。そしてこの世界を滅ぼさんとする者。この世界に生きる全ての生きとし生きる全ての者達の敵。まぁ、僕にとってはどうでもいい相手だけどね』

『いやいや、世界を滅ぼそうとしてるとか完全にヤバい相手だろ!?なんでどうでもいいんだよ!?』


山羊頭の化け物に変化したゼクスゥーアを見たフレイクは、その変化に驚きの声を上げた。

それにアストはスラスラゼクスゥーアの解説をしていくが、最後は本当にどうでもよさそうに付け足したことにフレイクは酷く驚いた。


『なんでって、どうでもいいからとしか言えないんだけど?』

『どうでもよくない!よくない!』

『そう?フレイクがそう言うなら少しは真面目に対応しようかな?』

「!?」


アストがそう言うと、周囲の空気が一変するのをゼクスゥーアは感じた。

なんというか、本来の姿を曝してこれから全力を出せるにも関わらず寒気を覚えるような…。


『出来ればフレイクに始末されるまでは五体満足で生き延びてね♪』

「・!?」


それを合図に()()()()()()()()()()()()()()()()


『「なっ!?」』


まずゼクスゥーアの足元の氷が割れ、そこから無数のつららが吐き出された。


「ぐっ!?」


ゼクスゥーアはそれを空に舞い上がることで回避するが、横から何かに弾かれ地面に叩きつけられた。


「いったい何が…。なっ!?」


地面からなんとか身体を起こし、いったい何が起こったのかとゼクスゥーアが空を見上げて確認すると、自分を見下ろす氷の蛇と目があった。


『凍てつけ』


そしてその蛇がアストの声でそう言うと、蛇は口から白い吐息をゼクスゥーアに向かって吹き掛けた。


「くっ!?」


ゼクスゥーアは咄嗟に横に転がりそれを避けるが、横から流れてきた白い靄に触れて身体の一部が瞬く間に凍り付いた。


「このっ!」


ゼクスゥーアはその凍り付いた部分を慌てて抉り取ると、その部分を即座に放り捨てた。

捨てられたゼクスゥーアの一部は落ちた先で完全に凍り付き、氷のオブジェと化した。


『『『ほらほら、もっと頑張らないと駄目だよ♪』』』

「げっ!?」


そのオブジェを見て対応が遅れていたらどうなっていたのかとゼクスゥーアが内心振るえていると、今度は複数のアストの声が上

から落ちてきた。

ゼクスゥーアが上を見上げると、先程見た氷の蛇がその数を増やして自分を見下ろしていた。


「ちっ!」


それを認めたゼクスゥーアは急いで氷の蛇達よりも高い位置に飛び上がった。

そのまま地面の上にいて、囲まれて先程の白い吐息を吹き掛けられたら防げないと判断したからだ。


『判断は悪くないね』

『でも残念』

「なんだと!?」


その判断を悪くないとアストは評価しつつ、だが嘲笑った。

飛び上がったゼクスゥーアの頭上で急に黒雲が発生し、それが蛇のように渦を巻いた時点でゼクスゥーアは嫌な予感を覚えた。


『ちゃんと防いでね♪』

「くっ!?」


そのアストの言葉で次にくる何かを回避は無理なのだと判断したゼクスゥーアは、自分の身体の中から濃紫色のオーラを引き出し、それを盾の形にして黒雲の前に構えた。

その直後、黒雲から無数の拳大の雹が豪雨となってゼクスゥーアに降り注いだ。


「ぐっ!がっ?ごっ!?」


それはゴカッ!ドカッ!などの重い衝突音を響かせながら構えた盾ごとゼクスゥーアの身体を青アザだらけに変え、その身を下方へと押し流してそのまま地面へと叩きつけた。

そして雹はゼクスゥーアを地面に叩きつけた後も氷の大地に降り続け、やがて大地に雹の小山が出来上がるとようやく雹の豪雨は降り止んだ。


『・・アスト、やり過ぎじゃないか…?っていうか、アストってこんなこと出来たのかよ!?』


その容赦のない攻撃を見たフレイクは、さすがに化け物で世界の敵でもゼクスゥーアに同情した。

そしてアストがここまで凄まじいことが出来るんだと知ってかなり動揺した。


『出来るよ。というか、これでも結構手加減してるんだよ』

『はっ?嘘だろ!この惨状のどの辺りが手加減してるんだよ!?』

『それでもしてるんだなぁ、これが』

『・・・ちなみに手加減してなかった場合はどうなってたんだ?』

『手加減しなかった場合?・そうだねぇ?そもそも戦いとして成立しないかな?』

『戦いとして成立しない?』

『うん!手加減している今は回避や防御が出来るけど、本気を出さなくても手加減をしないだけで相手は詰むね』

『その心は?』

『さっきは氷を使った物理や冷気による凍結をメインに攻めたけど、本来はそんなことをしなくてもいいんだよ。ただ向こうの気温を絶対零度に近づけるだけであいつは凍死するし、重酸性の水を溢れさせて溶かしても良い。上から新しい氷の大地を落としてプレスすることも出来るし、さっきの雹の豪雨を全方位から降らせて圧殺しても良いね。ほらっ!簡単に相手を詰めるでしょ?』

『・・・』


フレイクはアストの挙げた例に、聞いたことを後悔した。

アストの言うとおり、その攻撃。その現象はすでに攻撃ではなく天災の域だった。それだとたしかに戦いとして成立しない。少なくとも自分は戦いと言える程の何かをすることすら出来ないだろうとフレイクは思った。


『ねっ、戦いにならないでしょ?』

『そう、だな…。ちなみにだけどさ、これって外でも出来たりするのか?』


出来て欲しくはないが、フレイクは聞かずにはいられなかった。


『もちろん出来るよ♪他のバリエーションもいっぱいあるから、後で見せようか?』

『いや!見せなくていい!!』


予想通りで恐ろしいことをアストは楽しそうにフレイクに訊ねてきた。フレイクはそれを強く拒否した。この空間でもかなりアレなのに、外でなんてやられたら堪らないとフレイクは思った。



『・・・アスト、お前は何者なんだ?』

『何者って?僕的にはフレイクの幼なじみのアスト以上でも以下でもないけど?』

『いや、それは俺もわかってる。アストが俺を中心に行動していることも。だからさっきの言葉に嘘がないことも。だけど、それなら、俺以外に対するアストの立ち位置は?俺の幼なじみや親友以外の言葉を使うとなんて名乗るんだ?』

『へぇー、珍しいね。フレイクがそういう回りくどいことを聞いてくるなんて。だけど、良いよ。フレイクが聞きたいのなら答えるよ。形式はゼクスゥーアを説明した時と似た感じで良いかな?』


アストがそう言うと、フレイクはごくり唾を飲み込んだ。

氷の世界にもある種の緊張感が漂い出した。


『僕は泡沫の夢のアストォルフィーラ。原初の海よりい出し影。始まりの大樹に巻き付く尾。夢を写す鱗。叡智を囁く舌。宙を廻る星。原初と終焉を結ぶ円環。闇から水底に通ずる道。青の色彩を担う頭。昔日を宿す器。走馬灯を抱く揺り籠。旅の始まりであり終着点。そして勇者の傍らに寄り添う賢者。それら全てがこの僕、迷宮に潜む多頭の蛇。星明かりの虹蛇(アスト)だよ♪』




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