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※目覚めの鐘の六時

『そしてフレイクの拘束術式もだいぶ弛んだ。その状態ならあいつをフレイクの手で打ちのめせる』

『?あいつの手の内を見るとか言ってたけど、糸と回避ばっかで全然見れてないよな?なんで言い切れるんだ?』

『・』

『そりゃあ、最初からあいつの所属も名前も能力も把握してるからだよ』

『えっ!?』『・!?』

『手の内を見る為なんて、あいつに手の内を隠させて戦闘を長引かせ、こっちの準備を整える為の時間を稼ぐ、ただの方便だよ。本気でやればああも一方的に攻撃を受けなかっただろうに、あいつは僕を警戒して自分の手の内を晒すのを避けた。おかげで全て僕の思惑通りに進んだ。本当、馬鹿じゃない相手の行動は予想がついて楽だよ。安定思考で突飛な行動も博打もしない。だから簡単に採りうる選択肢を予想出来る』

『・・・』


自分がアストの言葉に踊らされていたことにベールの人物は内心舌打ちした。


『さぁさぁ、それじゃあそろそろ本当に手の内をフレイクに見せるように仕向けようか!』

『・!?』


そうしてベールの人物が内心苛立っていると、とうとうアストがこの戦いに介入することを宣言した。

それを聞いたベールの人物は一気に警戒度を引き上げた。

今まで言葉だけで転がされていたのだ、実際にアストが手を出してきたら対処しきれるのかも怪しかった。


『まずは数を増強しようか』


ベールの人物が警戒していると、スピニン達の周囲の氷から水が吹き出し、それが霧に変化して渦巻き無数の繭のようなものを形成しだした。


『・!?』

『なんだ?これからどうなるんだ?』

『さぁさぁ、出ておいで、デコイ達!』


そして繭が完成すると、その霧の繭の中から継続的にスピニンやシュナイデン達がその姿を露しだした。


『・!?』

『蜘蛛に蠍!?どうなってるんだよこれ!?』


そのある意味悪夢な光景に、ベールの人物はもちろん、フレイクも自分の目が信じられなかった。


『この世界のものは全て原初の海。創造主の内に内包されていた。そしてそれを最初の生命たる星樹が吸い上げ地上に産み落とした。ゆえに、水はこの世界の全てを内包しているとも言える』

『そうなのか?』

『・(いや、それは違うだろ!)』


フレイクはアストの説明に納得しそうだが、ベールの人物はその説明を違うと思った。たしかに神話的にはそうだったとしても、それがイコール普通の水までそうだということにはならないからだ。


『そうだよ。だから水と生命の在り方。血なんかの設計図さえ用意出来れば、水から生命の模造品を作り出すことも不可能じゃないんだ』

『おっー!』

『・(そんなことが本当に可能なのか?)』


フレイクは感心し、ベールの人物は疑った。また言葉で何か誘導されている可能性があったからだ。


『そして生み出したのがこのデコイ達だよ!・まぁ、皮だけで中身はないから生物とは言えないんだけどね』

『皮だけ?じゃあ、あいつらの中はいったいどうなっているんだ?それにあいつらを生み出すには血なんかがいるんだよな?いつの間にあいつらの血なんて手に入れたんだ?』

『・(たしかに。あいつらは血なんて流していない。というか、血なんてものがあるようには見えない)』


ベールの人物は増えゆくスピニン達の姿を見て、アストの説明がどう着地するのかと思った。


『見た目はスピニン達の姿をそのまま模倣しているけど、この世界の枠としてはモンスター枠なんだよね。だから普通のモンスターと同じで中身は魔力。倒されるとそのまま霧散して、せいぜい魔石が残るくらいだね。あと、血は手に入れてないよ。でもアストは見てたてでしょ。僕がシュピーゲル達の破片を拾っているところを…』

『あっ!?』『・!?』


フレイクはたしかにアストが異なる三つの破片を回収しているところを見ていた。


『本来はもう少し後で利用するつもりだったんだけど、もうさっさと切ってしまおうってね。さぁ、一気に追い詰めろ!』


シャッキンッ! シャッキンッ! シャッキンッ!


アストがそう命じると、デコイのスピニン達も一斉にベールの人物に向かって攻撃を開始した。

無数の斬撃が氷を割き、無数の口撃が密度を増してベールの人物へと襲い掛かる。


『・!?』


それを見たベールの人物は今までは徒歩だけで回避していたのを、糸で足元の氷をつり上げて盾にしたり、そのまま投げつけて目眩ましに使ったりなど対応を増やしていった。


『やっぱり回避タイプは面で制圧するのが一番だよね。さぁ、どんどん行ってみよぉ!』


アストはベールの人物が手札を見せてきたなぁ、っと思いつつ、さらにデコイの数を増やしていった。最初数体だけだったスピニン達の数は瞬く間に十数体に増え、時間経過でさらに増えて攻撃の範囲がどんどん広がっていった。

そして斬撃で割かれた氷は段差を生み、氷に刺さった鉄糸はベールの人物の移動を妨げる障害物として機能し始めた。

避けるということはその今までいたスペースを放棄することに他ならない。

ベールの人物はだんだんと逃げ道を塞がれていった。


『・・・』

『もうそろそろその姿はやめて飛んだらどうです?目覚めの鐘の六時(ゼクスゥーア)

『・!?』


そのことに焦りを覚えていたベールの人物は、不意にアストから名を呼ばれて驚愕した。

本当に自分が誰なのか知っていたのか、と。あれはブラフの類いではなかったのか、と。

そんなことがベールの人物。ゼクスゥーアの頭の中でぐるぐる回った。


『ふふ、残念。あなたのことを知っているというのは本当のことだったんですよ。だからあなたの本当の姿ももちろん知っています。そろそろ正体を見せないと、その仮初めの姿で終わることになりますよ?』

『・・・』


アストのその言葉に、ゼクスゥーアは本気を出すことを決めた。

もうそこまで知られているのがわかった以上、これ以上手の内を隠す必要がなかったからだ。というか、手の内を隠したままでは全力を知っている向こうの想定を上回ることは出来ない。


「・どうやらそのようだ」


ゼクスゥーアはちゃんとした肉声でそう言うと、全身に力を込め始めた。


「そこまで知られているのならこちらも全力を見せよう!」


その直後ゼクスゥーアの身体から濃紫色のオーラが溢れだし、ゼクスゥーアの身体の線が変化し始めた。

聖職者のようなヒラヒラとした服が内側からボコボコと盛り上がり、背丈は一気に二倍近くまで伸び上がった。それにともない服は破れ散り、黒毛の獣毛に被われた鋼のような筋肉質な上半身と蝙蝠の羽がその姿を現した。

そしてゼクスゥーアは下半身に残っていた服の切れ端を鋭い爪で剥ぎ取り弾き捨てた。すると蹄の脚や鏃のように先端が尖った細長い尾が露になった。


「これが俺。目覚めの鐘の六時に座すゼクスゥーアの真の姿だ!」


最後に顔を隠していたベールを剥ぎ取ると、捻れた角を持つ山羊の頭を曝してゼクスゥーアはそう宣言した。


『なっ!?』


その異形の姿にフレイクは驚きの声を上げた。





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