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『ああ、ああ。ようやくだ。ようやく一人目だ』

『・?』


アストの言葉にベールの人物は疑問を覚えた。

ようやくということは待っていたということ。一人目ということは二人目三人目もいるとこと。

あの子供は自分か自分達と何らかの確執がある?

そんな風に推察することは出来たが、明確な答えに行き着くには情報が圧倒的に足りなかった。なら…。


『お前は誰だ?ここは何処だ?いったい何が目的だ?』

『僕が誰か?此処が何処か?何が目的か?どれも知る必要はないでしょ?ここで終わるあなたには…』


そうして会話による情報収集を試みてみるも、アストの方はまったく取り合おうとはしなかった。


『アスト、俺達は向こうに行かないのか?』

『フレイク、先手はスピニン達に譲りなよ。あんな怪しい。未知の相手と初見で戦うのは、なるべく避けるべきだよ。どんな手札を持っているかもわからないんだからね』


しかし、同じように天から聞こえてくるフレイクの声には普通に答えていた。


『せいぜいスピニン達には相手の手の内を暴いてもらおうよ。スピニン達が勝って復讐出来るも良し、負けてもスピニン達のことはどうにかしてあげる』

『どうにか?あいつらのこと、どうにかしてやれるのか?』

『フレイクが望むのならね。それよりもほらっ、始まるよ』

『・!?』


アストのその言葉が合図になったように、攻撃を中断していたスピニンやシュナイデン達が目の前にいる敵。ベールの人物に向かって攻撃を再開しだした。

シュナイデンの斬撃が足元の氷を両断し、スピニンの口撃が氷塊に数穴を開けていく。

それをベールの人物は氷に足を捕られながらもなんとか回避する。そして避けた先で糸を伸ばして反撃するわけだが、そのことごとくがシュナイデンに断ち切られて意味をなさない。



『なぁアスト、そういえばなんでスピニン?とシュナイデン?は、お互いを攻撃しないんだ?仲間なのか?』

『・』


ベールの人物とスピニン達が互角?の戦いをしていると、またフレイクの声がした。そしてその内容はベールの人物も気になっている点だった。見た目からして二種はまったくの別種だ。なのにスピニン達は一番近い相手ではなく、離れていたアスト達とベールの人物にターゲットを固定して攻撃を仕掛けていた。そして今もベールの人物だけに攻撃を仕掛け続けている。

それを不自然だと思わないわけがなかった。


『同じ異変に巻き込まれた仲間ではあるだろうけど、本来は仲間でも味方でもないね。なにせスピニンは紡糸世界の住人で、シュナイデンは接切世界の住人。住んでいた世界がまったく違うんだからね』

『ならなんであいつらはお互いを攻撃しないんだ?』

『それはベールの奴のせいというか、シュピーゲル達のせいだよ』

『・!?』


そしてアストの口からその理由が語られると、ベールの人物はどういうことだと当然の疑問を抱いた。


『そいつとあの蟻みたいな奴らのせい?それってどういうことなんだ?』

『・』

『あいつは最初空間の綻びに干渉してたでしょ?』

『ああ、なんか糸で巣を作ってたよな?』

『あいつはあれで綻びを拡大させ、複数の世界の境界に亀裂を入れた。そしてシュピーゲル達をこの世界に引き摺り落とした』

『たしかにそう見えたような…』

『・』

『そしてあの糸でシュピーゲル達を括ろうとした』

『括る?』『・!?』

『あの糸を鑑定してみた結果、どうやらあの糸には生物や物に巻き付くことでその巻き付いた対象を操れる力があるみたいなんだよね』

『へぇー、そうだったのか!』

『・!?』


アストの説明にフレイクは普通に納得し、戦いながら二人の会話から情報を探っていたベールの人物は自分の手の内を理解されていたことに驚愕した。


『うん?でも全然操れてないよな?今も襲われているわけだし?』

『そうだね。そこでシュピーゲルが出てくるんだよ』

『ここでか?それってどういうことなんだ?』

『・』

『シュピーゲルの特性については説明したよね?覚えてる?』

『・たしか、攻撃の反射とかだったよな?』

『・!』


フレイクの回答にベールの人物は何かに思い至った。


『そう、反射。完全体のシュピーゲル相手には使ってないけど、バラけた状態のシュピーゲル達を糸で絡めとっていたからね。あいつが気づかない内に操作が反射されて、オーブの方に操作がかかった。その上シュピーゲル達と同時にスピニン達も糸で絡め取っていたから、スピニン達の変質の影響も一緒に受けてしまった。結果スピニン達の方の操作も乱れ、操り利用するどころか逆にスピニン達が最優先で排除する対象になっちゃったんだよねぇ』

『なるほど、そういうことだったのか!』

『・』


アストから自分の予想を裏付けされ、ベールの人物は自分の失敗に頭を痛めた。利用しようとして丸っと失敗。仲間にはとてもではないが報告したくない事実であった。


『ならあいつが倒された後はどうなるんだ?蜘蛛と蠍で潰し合うのか?』

『おそらく僕が何もしなければそうなるね』

『アストが何もしなければ、か。そういえばアストは俺が望めばどうにか出来るみたいなことをさっき言ってたよな?具体的にはどう出来るんだ?』

『・』


フレイクがアストに振った話題にベールの人物は頭を切り替えることにした。


『そうだねぇ?選択肢はいくつも用意出来るけど、選ぶとすれば元に戻す、倒す、利用するの三つが大枠になるかな?』

『倒すはわかるとして、元に戻すって、あれを戻せるのか?というか、元のあいつらってどんな奴らなんだ?それに利用するっていうのも想像がつかないんだが…?』

『・・・』


それはベールの人物も想像がつかず内心でフレイクに頷いた。


『元のスピニンはあんな硬い針金の塊じゃなくて、強靭な糸で綺麗に編まれたヌイグルミみたいな蜘蛛だね。性質は臆病で大人しいね。変質したせいで硬く獰猛になってるけど…。シュナイデンの方も本来はあんなに尖ってはないよ。こう、何でも切断するような鋏じゃなくて、ペーパーナイフみたいに紙とかをメインに切るような感じ?それにあの鋏にしても本来は物理的に切断するだけであんな遠距離攻撃は出来ないはずなんだよね。これも変質の影響だね』

『へぇー、結構変わってるんだな!』

『だね。そんな風に変質された結果苦労しているんだからあいつも馬鹿だよねぇー』

『・・・』


ベールの人物はアストの言葉に怒りを覚えたが、内容がもっとも過ぎてすぐに怒りが萎えた。



『それでスピニン達を元に戻す方法だけど、変質前の本来の姿を知っていればやりようはいくらでもあるんだよ』

『そうなのか?』

『うん!知らないものはどうしようもない。だけど知っているのならそれに近づけるようにすれば良い。完全に元に戻すことは出来ない場合でも、それなら元の姿に近づけることは出来るからね♪』

『言いたいことはわかるような気がするが…』

『・・・』


そんなことが本当に可能なのかとフレイクもベールの人物も思った。


『それじゃあ最後に利用するについて。これは実演してみせるよ』

『おっ!こっちはもう良いのか?』

『・(こっち?)』

『うん!向こうが遊んでいる間に空の亀裂の均しは完了したよ。後は世界各地にいる空間系列の神様に頑張ってもらうよ!』

『・!』


アストの言葉にベールの人物は何故アストが今まで口しか出していなかったのかようやく理解した。自分を隔離している間に自分が開いた亀裂の対処をしていたのだ。

・しかし、閉じたではなく均したとはどういう意味だろうとベールの人物は思った。



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