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※様子見と響く音

「さてさて」


ラビットを送り出し、迎えの準備を終えたアストと朝の鍛練を終えたフレイクはラビットに話していたとおり魔の森とは反対側にある森に来ていた。


「それで様子見ってなんの様子を見るんだ?」

「そろそろ先触れというかフライングがあるんだよ。それの様子見だね」

「フライング?フライングってなんだ?」

「うーんと、戦なんかで指示がくる前に仕掛けちゃうことかな?元々は異世界の言葉らしいけど」

「そうなのか!それで、何が仕掛けて来るんだ?」

「異世界からの何かだよ」


フレイクは意味の方には納得したが、今度は何に対して言ったのか疑問に思った。するとアストはフレイクが予想していなかった相手を告げてきた。


「自分が予言しておいてなんだけど、やっぱり一番可能性が高いのはアビスかな?この国と縁があるし、昔繋がったことがあるから境界も他よりも薄くなってるし」

「ふーん。一番ってことは他の可能性もあるのか?」

「結構やらかしてるから他が出る可能性はそれなりにあるね。上に確認してもらって大規模なのはアビスで確定だけど、次元の綻びみたいな小さな接点からだと何が来てもおかしくないよ」

「例えばどんなのだ?」

「人間か、動植物か、魔物か。変異を起こしていなければその辺りはまだ被害はマシかな?逆に変異していたりその三種以外の。アビスみたいに一つのカテゴリーを形成している奴が来たらかなり不味いね」

「不味いのか?」

「不味いね。下手をするとアビスよりも被害が出る可能性もゼロじゃないからね」

「・そうか」


フレイクは何かを考えるように目を伏せた。


「まぁ、フレイクは気にしなくて良いよ。誰が来てもそれはフレイク()以外のせいだから」

「俺達以外?その達はアストや婆ちゃん達のことか?」

「違うけど?」

「えっ!?」


フレイクはアストのいつもとは違うニュアンスに引っ掛かりを覚え、それを確認した。するとアストはきょとんとした顔をしてそれを否定した。

その為フレイクはその達は自分と誰のことを指しているんだと思った。


「それじゃあいったい…」

「今はまだ秘密。だけどフレイクと彼らは必ず出会うよ。そう、必ず、ね」


アストはそう言うと、門から続いている森の中の道を歩き始めた。



そうしてしばらく二人が歩みを進めていると、森の中にちらほら冒険者や兵士の姿が散見されるようになってきた。


「ふむ。冒険者が魔の森からこっちに流れて来るのは予想していたけど、兵士もこっちに来ている、か。周辺全域を警戒しているのか、一応配備しているだけなのか。・それともこっち側にも備えなければならない何かがいるのか?さて、どうなんだろうな」


アストはそれを見て、その理由をいろいろ考えてみたが答えは出なかった。


「なぁなぁアスト、何処まで行くんだ?」

「とりあえず相手が来そうな場所までかな?まぁ、今日来ないかもしれないから少し確認したら帰ろ」

「そうか。なら帰りに少し何か狩って帰らないか?」

「別に構わないよ。依頼っていう制限もないから日が暮れる前までは好きにすると良いよ」

「良し!昨日の鎧イノシシみたいな奴はいねぇかな?」


フレイクはアストについて行きながら帰りに狩る獲物の物色を始めた。


「やれやれ。力を抑えてるんだから程々の相手にするんだよ」

「おう!わかってる!」


フレイクは大きく頷くと、よりいっそう獲物探しに力を入れた。

アストはそんなフレイクの様子を探知術式などで確認しつつ、虚空を見上げながら歩を進めた。


ー ー ー

「うん?」

「どうかしたの?」

 

そしてさらに進んでいると、突然フレイクが足を止めた。

アストはそれを不思議に思い振り返ってどうかしたのか問うた。


「いや、今何か聞こえなかったか?」

「うん?今回はまだラビットの時のような悲鳴はしてないけど?」

「・そうか。アストが気づいていないのならたんなる気のせいか?」

「ちなみにどんな音が聞こえたの?」

「こお、なんて言ったらいいんだろうな?何かがひび割れたというか、ぶつかり合ったような音がしなかったか?」

「ひび割れた音にぶつかった音?ぶつかった音はともかく、こんな森の中にひび割れたような音を出すものなんて…。!」

「アスト!?どうかしたのか?」


アストはフレイクが聞いたらしい音の正体がなんなのか考えていると、不意に何かに気がついたように向かっていた先の空を見た。

フレイクはアストのそんな様子にどうかしたのかと怪訝な顔をした。


「・・ビンゴ!これがフレイクの野性の勘ってやつか!」

「俺の野性の勘?アスト、何か見つけたのか?」

「うん、今日の探し物をね」


アストはそう言うと、フレイクの手を掴んで来た道を帰り始めた。


「おいアスト!急にどうしたんだよ!探し物が見つかったんだろ?そっちにあるのか、その探し物って?」

「ううん、探し物はさっき見ていた方」

「ならなんで俺達逆走してるんだ?」

「場所がわかったからだよ。様子見なんだから安全第一でいかないとね」


そうしてさっき見ていた場所がギリギリ見えるか見えないかの位置まで来るとようやくアストは立ち止まった。


「ここらで良いかな?フレイクが音を聞いたのならそろそろだろうし」

「アスト?・!?」


ピキィ ピキィ


フレイクがアストに話しかけようとした直前、今度は先程までよりも大きな音がフレイクの耳に届いた。


「アスト!?」

「今度は僕にも聞こえた。どうやらもうすぐみたいだよ」


アストはそう言うと空のある一点に視線を固定した。

フレイクもアストの視線を辿り、アストが見ている場所を自分も見上げた。


ピシッ ピシッ ピシリ


音はどんどん大きくなっていく。それにしたがい二人が見ている空の様子にも変化が起き始めた。


「なんだ?空が黒くなっていく?」


青かった空の一部がゆっくりと。しかし確実にその濃さを増していき、青から紺。紺から黒へとその色彩を変化させていった。

やがて変色した空の下に、雲で出来るような影とはまったく違う黒さの影が落とされた。


「黒、か。シュピーゲル辺りかな?ある意味当たりでハズレなのが来たか…」

「シュピーゲル?」


ガリガリ! ギシリ! ギシリ! 


フレイクがアストが言った名称らしきものを繰り返すと、今までとは違う。何かがぶつかり削れるような音が森に。いや、周囲の街や村にまで大きく木霊した。

その結果森にいた動物や魔物達は恐慌状態に陥り、我先にと音の発生源から逃げるように移動しだした。

逆に森にいた人間達。兵士や冒険者達は音のした方に確認に向かう者。街に向かった魔物を止めに行く者。街に異変を知らせに行く者。ただ逃げる者。それぞれが個別に別々の行動を選択していった。


「誰も彼もが道を選ぶ。さて、僕達はどうする?」


そんな様子を探知と視界で確認しつつ、アストはフレイクにどうするか聞いた。


「どうするって、アストが様子見をするから来たんだろ?俺じゃなくてアストがどうしたいかなんじゃないのか?」

「うーん、まぁ、そうなんだけどね。もう()を確認出来たからもう良いかなって」

「色?」

「そう、色。近い世界と繋がり。後は色さえわかれば一番厄介なのはだいたい特定出来るんだよね。だから直接確認する必要もない。僕としてはもう終わりで全然構わないんだよ。なんで、後はフレイクがどうしたいかなんだよね。幸い相手は一番厄介な奴でもシュピーゲルだから、見たいなら見学くらいはしても良いんだよね」

「見学ねぇ?まぁ、異世界の奴に興味はあるな」

「そう。なら少しだけ覗いて帰る?」

「そうだな」

「なら決まり」


アストはフレイクの答えに頷くと、少しだけ笑った。

 

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