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※星盤遊戯

「ふむ。反応が薄いね。なら回復するまでこれの説明でもしておこうかな」


アストはフレイク達の様子を確認した後、先程と同じように虚空で指先をくるくる回した。

すると今度はアストの背後に氷の板が出現した。


「さてと、まずはこれを引き起こしている力についてかな?これは僕が授かっている天恵。〈星盤遊戯〉の力だよ」


アストがそう言うと、アストの背後にある氷の板に星盤遊戯という文字がひとりでに刻まれた。


「フレイクは天恵を知ってるかな?一般的に本人の行動をトリガーに獲得出来る技能(スキル)とは別枠。だいたい生まれた時から所持している特定の個人専用の特殊な力。地球系列の異世界人からはチートやユニークスキルなんて呼称されることもある力だね」

「・・・」


アストがそう説明すると、狼フレイクは顔を上げてアストを見た。


「そして僕が所持している天恵の名がさっきも言った〈星盤遊戯〉」


アストはまた指先をくるりと回す。

すると今度はテーブルの上に貴族がするようなボードゲームの遊戯盤。そして何かを模した無数の駒が現れた。


「僕の天恵である〈星盤遊戯〉の第一の効果は駒の作成」

「・駒の作成?」

「そうたよ。人や動物、魔物。あるいはジョブ自体や武器なんかを模した駒を作成出来るんだ」


アストはそう言うと、今度は狼を模した駒を手のひらの上に出現させてフレイクに見せた。


「?それだけなのか?なんて言うか、地味だな」

「まぁ、この状態ならね」


フレイクはアストが手のひらに乗せている駒を見て、なんだか地味というか、あまり特別感がないように見えた。


「もちろん天恵がただ駒を生産するだけの力なんて片手落ちはないよ。《駒顕現(リアライズ)》」

「うおっ!?」「「「!?」」」


そんなフレイクの様子を見たアストは、もちろんそこで終わりではないと証明して見せた。

アストの持っていた狼を模した駒が一瞬輝き、次の瞬間にはアストの足元に茶色い毛色の狼が出現していた。


「とまあ、こんな風に駒を実体化させることが出来るんだ。そしてもちろん、動かすことも出来る」


アストがそう言うと、足元の狼はその場でくるりと一周回って見せた。


「うおっ!本物みたいだな!」

「そうでしょ」

「だけどそれとあれがどう繋がるんだ?」


フレイクは狼の駒の動きに驚いた後、それとこの森?がどう繋がるのか不思議に思った。少なくともさっきアストは駒を出したりはしていなかった。ならこれとあれは別物なんじゃないかとフレイクは思った。


「まあまあ、もうちょっと第一の説明をさせてよ。すぐに第二、第三の方も説明するからさ」

「おう!わかった」

「うん、良い返事だね。なら一気に説明するね」


アストがそう言うと、氷の板の星盤遊戯の下の空白にすごい速度で何かが刻まれていった。


「これを読んでもらうとわかると思うんだけど、この駒が実体化出来るのは僕の半径二十メートルくらいの距離までなんだ」

「そうなのか?」

「うん、あまり離れると実体化が解けて駒の状態に戻っちゃうんだよね。そこで重要になるのが第三の効果である遊戯盤の展開だよ」

「第三?第二じゃなくてか?」

「遊戯盤の方は第三なんだよね。ちなみに第二の方は駒の付与なんだけど、それは後でね」

「おう」

「それで遊戯盤の展開についてだけど、それは今見せているこれだね」

「この森?か?」

「うん」  


アストが頷くと、狼フレイクは自分の周囲を見回した。


「より正確に言うと、今展開しているような疑似環境のことかな?」

「疑似環境?」

「そう。今のこの森も駒と同様遊戯盤というものを実体化させているものなんだ」

「へぇー、駒が実体化するだけでもすげぇのに、森なんかも実体化?させられるのか」

「うん、そうだよ。他にもいくつか種類があるんだけど、結局は双六とボードゲームの盤を足したようなやつが遊戯盤だね」

「双六?それって異世界から伝わったっていうあれか?」

「そう。無数のますめを縦に伸ばしていって、分岐や駒がそのますめに止まった際に何をするかなんかを自由に書き込んでいって作るあれ」

「それとボードゲームを足したようなのっていったいどんなやつになるんだ?」

「こんなやつだね」


アストが指先でテーブルをトントンと叩くと、テーブルの上にいくつものボードゲームの盤が出現した。


「最初に出したやつの色違いか?」

「まぁ、見た目はね。盤に描かれている模様や色が展開する遊戯盤の地形や属性を表してるんだ。例えばこれなんかだと…。展開せよ、〈氷樹の谷〉」

「うおっ!?今度は氷か!?」


アストは白の下地に青い樹と渓谷が描かれている遊戯盤を手に取り展開した。

するとアストの左側の空間がさらに広がり、そこに氷で出来た樹木の並木道と高低差の激しい氷の岩場が現れた。

フレイクがキノコの生えている辺りと氷の樹が生えている境目辺りまで行って覗いて見ると、岩場の底まで数百メートルはありそうだった。


「とまあ、あの盤がこんな感じになるんだ。そして遊戯盤の方に罠なんかを記載しておけば、展開した際にこっちの同じ場所に記載した罠が実際に設置される。行け!」

「アスト、何を…?」


アストは説明をした後、足元にいた狼の駒にある場所に行くように命じた。


「なっ!?」


命じられた狼の駒は高低差をものともせずに岩場を駆け、跳躍し、やがてある地点に到達した。

すると岩場から突然氷の棘が無数に飛び出して狼の駒を貫いた。

その突然の出来事にフレイクが驚いていると、狼の駒は一瞬光った後に元の駒に戻ってその場に転がった。


「と、こんな感じに罠が設置され、ますめに入るとこういう感じに敵を仕止めるんだ」


アストはそう言うと、いつの間にか手に持っていた狼の駒をテーブルの上に置いた。


「・いや、凄いとは思うけど何も狼で実演する必要はないんじゃ…」

「うん?ああ!フレイクも今は狼だもんね。別のにしておけば良かったね」

「いや、それもあるけどさ…」

「うん?見た目以外?ああ、駒のことを気にしてるの?大丈夫だよ、いくら本物みたいに動いても駒は生きていないよ。それに実体化が解除されても元に戻るだけだし、すぐに僕の手元に帰ってくるからね」


アストはテーブルに置いた狼の駒を弾いて見せた。


「それで少し話しを戻すけど、この展開した遊戯盤が重要な理由。それはこの遊戯盤を展開した疑似環境の中なら駒の距離制限が解除されるんだ」

「つまり、二十メートル以上離れても駒に戻らないってことか?」

「そうだよ。やっぱり駒はボードの上でこそその本領を発揮するものだからね」

「へぇー、天恵も実際のボードゲームみたいなんだな」

「そうだね」


「さてと、それじゃあ最後に第二の力。駒の付与についてだよ」

「おう!それで駒の付与っていうのは何が出来るんだ?」

「そのまんま駒の付与だね」

「うん?何に付与して、付与するとどうなるんだ?」

「付与する先はなんでも。そして付与するとどうなるかというと、付与した対象が付与した駒の力を使えるようになるよ」

「?」

「やっぱり口頭だとわからないよね。だけどフレイクに体験してもらうには相性が悪いし、他の三人はまだ回復しきれていないし」 

「「「・・・」」」

「今回はお預けかな?近々誰かで実演してみせるよ」

「わかった!・だけどなんで俺だと相性が悪いんだ?」

「今のフレイクは全力を出せないようにしているからだよ。わざわざ抑えているのに新しく付与したら意味がないじゃん」

「ああ、なるほどな」


フレイクはアストが出した理由に納得がいき頷いた。


 





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