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※踏み倒し注意

「まぁ、アビスの相手をすることが秘薬の対価なんだから手間暇は変わらないけどね」

「魔力茸以外の対価。後払いの労働ってそのアビス?退治だったの?」

「そうだよ。アビスはストーリア聖国と縁があるからね。キリキリ先祖の尻拭いを頑張ってください!」

「先祖の尻拭いって…。私達のご先祖様、そのアビス?に何をやったのよ?」

「少なくともかなり恨まれても仕方がないことを。ついでにまったくの第三者が話しを聞いた場合、全員がストーリア聖国の方を悪だと罵倒するレベルだね」

「そこまでなの…。いったい何をやらかしたのよ、ご先祖様」

「確かにな。第三者が全員ストーリア聖国の方を罵倒するとか、どんなレベルの悪行だよ…」


ローザもアインも昔のストーリア聖国の人々が何をやったのかに頭を痛めた。というか今回起きる災厄っていうのはアビスからの復讐?その点も正義の勇者パーティーの一員としては許容し難いことであった。



「あのー、アスト君?」

「うん?何?」

「ちょっとした疑問なんですけど、もし勇者パーティーの人達が魔の森の魔物の相手なんかをしていてアビス?と戦えなかった場合とか、意図せず対価?を支払えなかった場合とかはどうなるんですか?」

「対価を払えなかった場合?その場合は対価と釣り合うまでは繰り越しでアビスの相手をしてもらうことになるね。対価は借金じゃないから利息とかで増えてくこともないし。だから一定の回数戦ってくれれば勝敗なんかはどうでも良いかな?対価はあくまでアビスの相手をすることだし」

「そうなんですか」

「ちなみに意図して対価を払はなかった場合。つまり踏み倒そうとした場合は…」

「「「「場合は?」」」」

「ランダムに世界から強制徴収されるね」

「「「「ランダムに世界から強制徴収?」」」」

「それって実際には何が起きるのかしら?」


踏み倒すつもりはないが、万が一それを選らばざるをえなくなった時何が起きるのかローザは気になった。


「今回の場合だと、勇者と勇者パーティーのメンバー一人の命を救ったことに対する対価だから、単純な等価なら勇者ライハルトと救ったメンバー以外のメンバー一人の命」

「「「「!!」」」」

「分割の場合だと救った命の価値。本人のスペック、社会的地位、その人物が生きていた場合為せる偉業等々の合計が釣り合うようにその二人が今まで救ったもの。これから救うものを等価になるまでランダムに強制徴収されるね」

「強制徴収されるとどうなるの?」

「それはもちろん、命の対価なんだから命を失ってもらうよ」

「「「「!?」」」」


アストの言葉にローザ達の顔が一斉に青くなった。


「それと具体的な交換例を上げるとすると、勇者の立場なら王一人か王族数人。巫女か神殿関係者数人。貴族なら高位から順なら数十人。下位からならギリギリ百に届かない程度。これが勇者のスペックでの等価になると、高位の魔力持ち数十人か戦える人間の命で千に届かない程度。そして勇者が生きていたいた場合の等価。勇者の役割はほぼ民衆や国を守り救うことにあるから、最悪の場合だと国の人間全ての命が強制徴収されることになるね」

「「「「ーーー」」」」


アストの上げた交換例を聞いた面々は、顔を青から白。そして土気色にまで変えそうになってうつむいた。


「魔女の対価ってどうしてもこうなるんだよね。原則が等価だから。人の規定した価値じゃなくて、世界に対する価値で算出されてる面もあるけど。ああ、それと…」

「「ー」」


アストが何か言おうとすると、かろうじてローザとアインがなんとか顔を上げた。


「これとアビスの相手が等価ということは、アビスを放置した場合これだけの被害が出るのと同義であることをご理解ください」

「「ー!?」」


アストの言葉の意味を少し吟味した後、ローザとアインは血相を変えた。


「それはっ」

「まぁ、結局強制徴収について悩む以前の問題なんだよね。今回アビスの相手を対価として提示しているけど、アビスが到来する時点で人的、資源的被害は確定しているわけで、アビスと戦わなければ生き残れないって結論に落ち着くんだよねぇ」

「確かに国民全員とか、普通に強制徴収に悩む以前の問題ね。だけどアビスの被害が国一つを亡国にする程なんて…」

「ああ、もう少し付け加えておくと、さっきの交換例はストーリア聖国換算で収めてあるから」

「それってつまり…」

「対価という制限を取っ払った場合、第三の選択しだいだけど初手からストーリア聖国以外の国にまで被害が出る可能性はあるし、一つの国辺りの密度が下がる変わりに最大で世界中で一斉にアビスの被害が発生することもありえるね」

「「げっ!」」


そのあまりにも予想を越えた事実に、ローザ達は顔をしかめた。

てっきり自国だけが原因の問題かと思っていたら、下手をすれば世界規模の災厄。国際問題や周辺諸国から原因を究明。追求されるとまずいとローザは思った。


「まぁ、ストーリア聖国以外も自業自得なのだからそれも僕にとってはどうでも良い」

「私達の国以外も?」

「その辺りは神を問い詰めると良い。もっとも千年もの間罪を償わなかった連中だ。聞いたらローザ姉は消されるかもしれないけど」

「えっ!?」

「それはそれで良し。アビスとの戦いの前に勇者パーティーを削れるなら悪くない。何より僕の仕業ではなく神の選択ならあいつの遺言にも抵触しない。横からその愚かさを盛大に笑ってやろう」

「「「「!?」」」」


アストが歪な笑みを浮かべると、ローザ達の背を悪寒が走り抜けた。


「さぁ、誰が何をどう選択してどういう結末に至るかな?ああ、それと先に言っておくけど、魔女は当事者にはなれないし、僕達を巻き込むことは出来ないので悪しからず」

「・それはいったいどういう意味なの?」

「そのままだよ。魔女のお婆ちゃん達は等価のルールに従い他者に損害も利益も与えない。だからお婆ちゃん達はアビスをどうにかすることは出来ないし、アビスがお婆ちゃん達魔女をどうにかすることも出来ない。だからお婆ちゃん達魔女にとっては完全に対岸の火事だね。そして僕達の方だけど、僕はフレイクの選択しだいだね。だけど逆に言えばフレイクの選択以外で動くつもりはない。フレイクの選択に干渉しようとするなら排除するからそのつもりでいてね♪」


先程までの歪な笑みとは違い、いかにも楽しげな笑みをアストは浮かべた。



「・だけどまぁ、フレイクはすぐに火中に飛び込みそうだよね」

「火中って、俺が面倒ごとに飛び込むこと前提なのかよ!」


ローザ達に笑顔を向けた後、アストは次いで抱いている狼フレイクに目を向けた。そしてやりそうなことを言うと、フレイクは信用がないと思った。


「フレイクは困っている人を放っておけない性分だからね。まぁ、そうじゃないとフレイクらしくないとも思うけどね」

「そう思うのに俺にそう言うのかよ!」

「僕の最優先はフレイクのことだからね。結局他はフレイクを楽しませるギミックに過ぎないし」


アストはそう言うと狼フレイクを撫でて何処か遠くを見るような目をした。



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