※アビスはもうすぐ…
「アスト。なんであんたはそんな予言をライハルトにしたの。あんたは自分の予言が外れないことを知っているんでしょう?」
「知ってますけどそれがどうかしたの?」
ローザに睨み付けられるが、アストはとくに気にせずそう答えた。
「あんた!あんたの予言で何が起こるかわかってるの!」
「わかってますけど?元凶であるストーリア聖国の神や人々に比べれば」
「・・それはいったいどういう意味なの?」
「どういう?言葉どおりだけど?この世界に災厄を撒き散らせようとしているストーリア聖国の人々よりは現状をよく理解しているよ」
「私達が災厄を撒き散らせる?」
「ローザ姉さんは僕が未来を確定させることに文句があるみたいだけど、それって普通のことだよ」
「普通?未来を確定させることのどこが普通なの?」
「普通だよ。予言するから未来への過程が歪む。だけど僕の予言はその過程を強制的に正される。だから予言は外れない。予言しなかった場合と同じ結果に行き着く。つまり予言してもしなくても結果は同じなんだよね」
「「「「結果は同じ…」」」」
ローザとラビットはアストの言葉に考え込み、アインとフレイクはいまひとつ意味を理解出来ずにいた。
「無数の存在の現在が無限に積み重なり過去となり、その過去の積み重なった先にある未来が予言の時となる。だから僕が件の予言を出来たのは結局はストーリア聖国の人々が予言の出来事を引き起こしたからで、別に僕が意図してそんな不吉な未来を確定させたわけじゃないんだよ」
「「つまり?」」
「たんなる自業自得?だから自分達の行動結果の責任を僕に求められても困るんだよね。というか、理不尽。完全に冤罪だよね」
「「「「・・・」」」」
アストの存在の方が理不尽な気がしないでもなかったが、アストが言っていることも一理あった。そういう未来があるからアストはそれを予言した。そういう未来を積み重ねたのはストーリア聖国の人々自身。それに文句を言われてもアストが困るというのも、理解出来ない話しではなかった。
「赤き獣の裁定をもって、古き罪の答えは為される。あまねくものよ、あがないの時はきたれり。己らが選択の結末を甘受せよ。一度目の選択。一度目の過ちは千年前に成された。二度目の選択。この千年の間過ちは正されず、過ちの記録は今へと引き継がれなかった。そして三度目の選択。これは今より先の現在に成される。そしてその選択の先に赤き獣は答えを見出だす。どれだけ加害者が事実をねじ曲げ忘却しようとも、積み重ねられた過去は確実に存在する。だから過去からは逃げられず、やがて過去は未来でその時に存在するものの前に立ちはだかる。それが今という時代だったという話し。恨むのなら過ちを起こした先祖を。過去を省みなかった人々を。未来に対する責任を持たなかった人という種に文句を言ってくださいね」
「「「「・・・!?」」」」
アストのその冷めきった言葉。そしてその言葉に込められた何かに誰もが絶句した。
「・・・いったい…。」
「うん?」
「・・いったい私達のご先祖様達は何をしでかしたの?」
数分か、数十分か、あるいは数時間か。ローザはなんとか沈黙した空間に言葉を投じることに成功した。
「裏切ってはならないものを裏切り、殺してはならない者を殺し、触れてはならないものに触れ、壊してはならないものを壊し、悲しみを広げ、争乱を撒き散らし、多くの命と未来を奪い無為にした。そして怒らせてはならないものを怒らせた」
「怒らせてはならないもの?それに多くの命と未来を無為にしたって…」
「ローザ姉達が意味がわからなくても僕はかまわない。僕は、僕達は、知っているし覚えている。だから忘れないし、ねじ曲げない」
「・アスト…。あんたはなんで千年前のことを知っているの?そしてなんでまるで当事者のように感情が載っているの?」
ローザはアストの言い様が気になって仕方がなかった。
「魔女も仙人も長命だからね。短命な人間と違って記録は普通に残ってるんだよ。そして世の中には記憶を引き継いだりする魔法具や魔法。スキルも実在するんだよ」
アストの説明にローザ達はそういうことかと思った。
数は少ないとはいえ、そういう歴史を記録したオーブなどの存在をローザ達は聞いたことがあった。
「・アスト、あんたは私達の敵なの?」
「いいえ。僕はフレイク以外の誰の味方でもなく、フレイクに仇なすもの以外の誰の敵でもありません。というよりも、フレイク以外の誰も僕のそれになることは出来ない」
「それはなぜ?」
「さぁ、なぜでしょうね。たぶんローザ姉達が答えを探しても見つけることは不可能でしょう。これはそういう話しです」
「「「「・・・」」」」
アストは一見はぐらかせているように見えて、本当にそう思っているようにローザ達には見えた。
「ヒントはそれなりに上げました。だから次のヒントでとりあえず打ち止めです」
「「「「ヒント?」」」」
「そう、予言に関するヒント。僕が出した予言は答えの部分を確定させていない。結局判定するのは赤き獣で、選択するのはローザ姉達です。これからも好きなように行動し、選択し、結果を受け入れてください。ちなみに結果を受け入れなくてもこっちはいっこうにかまわないので悪しからず」
「「「「・・・」」」」
アストのそのとことんこっちに投げてくる感じに、自己責任ということはわかっていてもローザ達は微妙な気持ちを抱いた。
「それではヒント。第三の選択は神、王、貴族、巫女、民、アビスの中から成される。そしてその選択によって災厄の範囲や密度は変わってくる」
「「災厄の範囲や密度?」」
「っていうか、選択する者のそのラインナップは何よ!?それに最後のアビスって誰!?」
「ラインナップは件の選択を選べる者を上げただけ。ちなみにアビスは銀の災厄の名前。未来ではそう呼ばれていた。ちなみにアビスは選択する者ではなく時間切れ枠だね。選らばないこともまた選択だから」
「・名前が付くってことは、銀の災厄は生物の類いなの?」
「それはノーコメント。だけどもうすぐにでもローザ姉達は災厄の前兆に遭遇することになるよ。ローザ姉や勇者一行に第三の選択権はないから、せいぜいアビスを相手に頑張ってね」
「「・・・」」
いまひとつ正体はわからないが、自分達がもうすぐそれに遭遇することが確定したのだとローザとアインは理解した。




