※お菓子の家で出会う者
「あれが二人の家なんですか?」
「そうだよ」「そうだぞ」
ラビット達がアストに抱えられて移動することしばし。
木々が生い茂る森の合間に開けた場所と、明らかに森には普通存在しないがある意味似つかわしい建物が見えてきた。
「お菓子の家ですか?」
「「うん!」」
それはクッキーやチョコレート、クリームやキャンディーなどのお菓子で形作られた現実味の薄いメルヘンなお菓子の家であった。
「お菓子の家。物語の魔女のお家という意味ならそれらしいですけど、現実の魔女の人もお菓子の家なんて建てて住むものなんですね」
「ああ、違う違う。一般的な魔女は普通に掘っ立て小屋住まいなんかが普通だよ。うちがお菓子の家なのは住んでる魔女のお婆ちゃんの一人がお菓子作りとカボチャが専門の魔女だからだよ」
「お菓子作りとカボチャが専門の魔女、ですか?」
ラビットはどういう意味だろうと思った。
「そう。魔女は職業じゃなくて種族だからね。お婆ちゃんを人間風に説明すると、野菜村のカボチャさん家のお菓子職人さんって感じに訳せるかな?意味はそのままで野菜を扱う魔女の村出身の、その村でカボチャを専門に扱う家のお菓子作りの職業についている魔女って感じかな?」
「へぇー、魔女って種族で職業は別にあるんですか!というか、野菜村なんて名前の村があるんですか!?」
「あるよ。他にはキノコ村とか果物村。動物なんかもあるね。ちなみに村の名前は君にわかりやすくしているだけで、魔女の言葉だとわりかし格好いい名前になるよ」
「まあ、そうですよね。さすがにそのままな名前を村につけたりはしませんよね」
ラビットはアストの説明に一つ頷いた。
自分が住んでいた村の名前も訳すと野菜村みたいなわりとそのまんまな名前だった。だから魔女の人がそういう名付け方をしていてもそうものなんだと納得出来た。
「でもお菓子作りの職人さんでもそれで家までお菓子で建てちゃうなんて、やっぱり魔女の人は凄いんですね」
「ああ、まあ、そうだね。ただ言い訳させてもらうと、フレイクを引き取ることになったからフレイクの為にお菓子の家を建てたんだ、お婆ちゃん」
「えっ!?そうだったのか?」
「そうだよ。そもそも子供を育てるからお菓子作りや料理が得意なお婆ちゃん達が選ばれたんだから」
「「選ばれた?」」
「選ばれたって、そのお婆さん達は自発的にフレイク君を引き取ったわけじゃないんですか?」
「その辺の事情は込み入っているからノーコメント。ただこれだけは言っておくけど、フレイクを引き取ることを希望した魔女の中から選ばれたってだけ。お婆ちゃん達はちゃんと自発的にフレイクを引き取ったよ」
「そうなのか」
アストがそう説明すると、フレイクは狼ながらもほっとしたような顔をした。
「さて、そろそろ入ろうか」
「良いのか?誰か来ているみたいだぞ?」
アストは話しに区切りがついたので、家に入ろうと言った。しかしフレイクは家の中から複数の臭いがするのを狼になって強化された嗅覚で感じ取って、アストに声をかけた。
「構わないよ。フレイクも知っている人達だから」
「?」
フレイクは鼻を引くつかせたが、狼になったばかりなのでどれが誰の臭いなのか判別は出来なかった。
アストはそんなフレイクを一度上から見た後、さっさとお菓子の家に向かって歩き出した。
「ただいまぁ!」
そしてクッキーで出来た扉の前まで来ると、魔法で出した氷の手で扉を開け放って中に入った。
「お帰り。はやかたねぇ」
「お帰りなさい、アスト。あら?珍しいわね、アストが一人なんて。フレイクは一緒じゃないの?」
アスト達が家に入ると、そこには三人の人影があった。
一人はキノコ飾りをつけた魔女の老婆。
一人は赤い髪をした魔法使いの女性。
一人は茶髪で軽装の男性。
「ただいまお婆ちゃん。用事が早く終わったんだ。それとローザ姉さん、フレイクならちゃんとここにいるよ」
「えっ!?」
アストが抱き抱えている狼フレイクを見せると、ローザは意味がわからず目を白黒させた。
「あんたとうとう昼間っからフレイクを狼の姿に変えたのかい?・おやっ?そっちの兎は誰だい?」
老婆の方は狼フレイクを見て、遂に昼間から変身魔法をかけるようになったかと呆れるような目をアストに向けた。その際狼フレイク以外にアストが兎も抱いているのに気がついた。そしてその兎を観察した結果、兎の挙動からその兎の方も変身魔法をかけられた人間だと老婆は推察した。
「この子?この子はフレイクの新しい友達の新米冒険者のラビット。フレイクに変身魔法をかけた時についでに魔法をかけて兎にしたんだ!」
「ついでに兎にしたって…。アスト、あなた何やってんのよ!ていうか、その狼は本当にフレイクなの!?」
「そうだぞローザ姐!」
「うわっ!?本当にフレイクの声で狼が喋ってる!」
狼がフレイクの声で話すのを聞いて、ローザはその狼が本当にフレイクなのだと理解させられてしまった。
「あのー、アスト君」
「何?」
「この人はどちら様なんですか?そちらのお婆さんは二人を育てている魔女の人でしょうけど、お姉さんの話しとかはしてなかったですよね?」
「ああ、してなかったね。それじゃああらためて、こっちはローザ姉さん。お婆ちゃんの押しかけ弟子のお姉さんで、今は勇者パーティーの魔法使いをしている人だよ」
ラビットが首を傾げながら質問すると、アストはローザのことを軽く紹介した。
「勇者パーティー!それってライハルト様のパーティーメンバーってことですか!?」
「そうよ。あとこっちのアインもそうよ」
「ライハルトのパーティーで斥候をしているアインだ。よろしくな、ボウ、チビスケ」
するとラビットは声を上げ、キラキラした目をローザに向けた。
ローザはその視線に胸を張り、自分の後ろにいた男性。アインを引っ張ってラビットに紹介した。
紹介を受けたアインは前に出て、ラビットのことを坊主と言いかけて兎の見た目に合わせてチビスケと言い直した。
「うわっー勇者パーティーのパーティーメンバーに二人も会えるなんて!」
「感動してるね。勇者パーティーのファンなの?」
「はい!僕、英雄譚とかが大好きなんです!今の英雄である勇者様の仲間の人に会えるなんて…。とても感激です!」
「ああっ、こうして被害が増えるわけね」
「「「えっ!?」」」
ラビットは感情が振り切れてハイテンションになっていたが、それを見たアストの方は逆に冷めた目をした。
そしてその状態で呟かれた言葉を聞いたラビット、ローザ、アインの三人はぎょっとしてアストの顔を見た。
「うん?どうかした?」
「アスト、今のはどういう意味?」
「どういう?ああ、被害が増えるという部分?それは予言とは関係ないよ。ただ今日フレイクに冒険者のあれこれを説明したからそう言っただけだよ」
「そう。ちなみに冒険者のあれこれと被害が増えるというのはどう繋がるの?」
「繋がり?端的に言えば人は憧れを追いかけて破滅してしまう生き物だということかな?」
「「「!?」」」
「まあ、そこは良いでしょ。で、今日はローザ姉さん達、何のようで来たの?」
アストは答えはわかりきっているけど、っという顔をしてローザ達二人を見た。




