※変身魔法で抱き枕
「変身魔法っていうのはね、対象に着ぐるみ。間違った。デコレーションした鎧を着せるようなものなんだ」
「「デコレーションした鎧?」」
二人は意味がわからず首を傾げた。
「そう。術者がイメージした姿を対象に装備させるのが変身魔法なんだ。魔力で変質した魔物みたいに対象の身体を作り替えるんじゃなくて、魔力で出来たモンスターを対象の上から被せる感じかな?」
「「??」」
アストにそう説明されたが、二人にはいまひとつイメージが出来ずピンとこなかった。
「うーん、この説明だとわからない?なら普通に動物の形をしている鎧を強制的に装備させる魔法って理解してくれれば良いかな?あくまでも鎧だから鎧を壊すか貫通しないと中身には影響が出ない」
「「??」」
「あー、魔法使いでもないと感覚的に理解出来ないか。ならもう後で体験してもらうから変身魔法の概要は置いておこうか」
「「お願いします!」」
フレイクとラビットは魔法が専門外過ぎてアストが何を言いたいのかさっぱりわからないのですぐにそれに頷いた。
「なら話しは僕がこの魔法をフレイクにどう使っているのかにうつすね」
「おうっ!」
「僕は日中、この魔法を文字通りフレイクの鎧として使ってるんだ」
「「鎧?」」
「そう、鎧。普通、変身魔法は別の姿になる為に使われるけど、僕はフレイクにフレイクの姿を重ねる変身魔法をかけてるんだ」
「俺に俺の姿を重ねる?そうするとどうなるんだ?」
「変身魔法のフレイクがフレイク本体への致命傷を一度だけ肩代わりしてくれるんだ。本物の鎧みたいにね」
「「致命傷の肩代わり?」」
「先にそっちの方を見せようか?なら対象は…。これで良いか」
アストは足元にある石ころを一つ拾うと、そのまま魔法をかけた。するとアストの手にある石ころが一度光、ばつ印のついた石ころに変わった。
「とりあえず今回はわかりやすいように目印をつけた姿に変身させてみたよ。じゃあ、はい」
アストは変身させた石を地面に置くと、ローブの裾からハンマーを取り出してフレイクに差し出した。
「それで思いっきり叩いちゃって。破片が飛ぶ心配なんかはしなくて良いから思いっきりね」
「わかった」
フレイクはハンマーを受けとると、言われたとおりそのハンマーを置かれた石目掛けて躊躇いなく振り下ろした。
「「おおっー!!」」
するとハンマーが当たった石ころが砕ける瞬間に一瞬光、すぐにばつ印のない石ころが何もなかったのように地面の上に現れた。
「とまあ、こんな感じで致命傷を肩代わりしてくれるんだ」
「スゲー!」「すごいです!」
アストが今度こそ大丈夫だろうと二人を見ると、二人は目の前で起こったことに感動してすごいすごいと連発していた。
「スゲーな変身魔法!こんなことが出来るなんてさ!」
「ですね!まさか変身魔法が実際にあって!こんな風に使えるなんて!・あれ?でもこれって結局アスト君がフレイク君を守っていたって話しですよね?」
「そうだな。それがどうしたんだ?」
「これの何処が言いづらかったんでしょう?」
「うん?そういえばそうだよな。アスト、これの何が言いづらかったんだ?」
「あー、問題は日中の使い方じゃなくて、夜中の使い方の方なんだよね」
「「夜中?」」
「うん、夜中」
二人が疑問の眼差しを向けると、またアストは視線を反らしながら問題の時間を告げて頷いた。
「日中はフレイク君を守る為にかけてるんですよね?夜中までかける必要があるんですか?」
「冒険者とかみたいに野宿するなら必要だね。だけどまあ、そんなことは今のところないから夜中の方は完全に僕個人の願望。というか趣味嗜好によるものだね」
「「趣味嗜好?」」
フレイクはよくわかっていなかったが、ラビットの方は夜中で趣味嗜好というワードにいかがわしい想像をしてしまった。
「あのー、それって失礼ですけどいかがわしい感じでしょうか?」
「ある意味では…」
「ええっ!?」
なのでラビットは恐る恐るアストに確認すると、アストは肯定するような返事を返した。
それを聞いたラビットは顔を真っ赤にして狼狽えた。
そして内心では男同士なのにとかいろいろぐるぐる頭の中を駆け回った。
「なあなあ、結局俺は何の姿に変身させられて何をされてるんだ?」
「それは」
「「それは?」」
「フレイクを狼の姿に変身させて抱き枕にしてました」
「「はい?」」
アストの告白に、二人は何を言われたのかよくわからなかった。フレイクの場合は単純に意味がわからず、ラビットの場合は直前まで想像していたいかがわしいことと狼と抱き枕が結び付かず、アストが何を言っているのか理解出来なかった。
「だ!か!ら!フレイクを狼に変えて抱き枕にしてたの!!」
「・・なんでそんなことを…?」
「たぶん語弊はあると思うけど、一人寝が寂しかったから?」
「なんで疑問形なんです?」
「ある意味昔からの延長でやってたからかな?子供の頃は普通に同じベッドで寝てたんだけど、やっぱり大きくなるとベッドが小さくなるから別々に寝るようになったんだよね。だけどずっとフレイクと一緒に寝てたから一人寝が寂しくて。ある意味枕が変わると眠れないタイプ?もちろん眠れないわけじゃないんだけど、やっぱりフレイクの暖かみがある方が安心するしよく眠れるんだよねぇ」
「あー、わかる気はしますけど」
ラビットも両親が亡くなったあとに祖父母にけっこう甘えてた自覚はあるのでアストの気持ちがまったくわからないわけではなかった。
「けど、それでなんで狼の姿に?」
「さっきも言ったけど別々に寝るようになったのはベッドが小さくなったからなんだよね。だからスペース確保の為にフレイクを小さく。抱き抱えられるサイズにしたの。あとフレイク自身が昔より硬くなってたから、柔らかさを求めてモフモフの狼の姿にしてみたんだよね。副次的に可愛さも上がってとっても愛らしくなったんだ!」
「・アスト」「・アスト君」
アストが嬉しそうにそう言うと、二人は何とも言い難い顔になった。
「・フレイク君、本当に今まで気付かなかったんですか?このノリだとほぼ確実に毎夜変身させられてますよ」
「全然。・いや、心当たりがないこともないか?」
「それは?」
「アストと別々に寝るようになってから、ある日を境に寝てるとやたら安心するようになったんだ。なんと言うか、揺り籠で揺られているような、何かに護られているような、そんな感じで」
「十中八九それですね。でもよく今までバレませんでしたね。毎夜なら途中で起きた時にアスト君に抱き抱えられていたらすぐにわかるでしょ?」
「あー、その辺はフレイクと変身魔法の設定でちょちょいとね」
「「ちょちょいと?」」
「うん、ちょちょいと。フレイクは僕よりも寝るのが早いし、起きるのも僕が起こさないと起きないタイプなんだよね。それに万が一自分で起きても、その時はそれを条件に変身魔法が自動的に解除されるようにしてたから今までバレなかったんだよ」
「「へぇー!」」
ちゃんとバレない対策までしているアストに二人は何故か感心してしまった。




