※到着と変身魔法
「そういえばラビ。お前は何の依頼で森に入ってたんだ?やっぱり鎧イノシシの討伐なのか?」
しばらくフレイクは考え込んでいたが、途中で気持ちを切り替えてラビットとの会話を再開した。
「違います!アスト君にも指摘されましたけど僕、討伐依頼を請けてなかったから魔物について調べてなかったんです」
「討伐依頼を請けてなかったから魔物について調べなかったって…。採取依頼でも対象は魔物のテリトリーにあるんだから調べないと駄目でしょ」
「そうですよね。その時はそのことに思い至らなくて…。魔物と戦うつもりがなかったから大丈夫だと思っちゃったんです」
「冒険者は命懸けの職業なんだから、そんな甘い想定してると簡単に死ぬよ」
「・・はい」
アストの呆れたような言葉にラビットは恥ずかしそうに顔を俯かせた。
「あー、それで結局何の依頼を請けたんだ?そしてそれは達成出来てるのか?」
「あっ!それなら出来てます!」
ラビットはそう言うと、腰にある革袋から薬草の束を取り出して二人に見せた。
「薬草採取の依頼ね。成り立て冒険者の請ける依頼としては当たりかな。でもそれならなんであんな所まで行ってたの?薬草なら外壁の側でも充分採取出来たでしょ?」
「それがなかったんです」
「「なかった?」」
「はい。なんか掘り返された跡がたくさんあるだけで、薬草がまったく見当たらなかったんです」
「(・・・神殿が動いたかな?)」
「「えっ!?」」
「ううん、なんでもない。マナーの悪い新人冒険者でも新しく入ったのかもね。根っこまで掘り返されたら薬草が同じ場所で採れなくなるのにね」
アストは自分の呟きを誤魔化すようにそう言った。
「そうですよね。ちゃんと根っこは残しておかないと新しく生えてこなくなってしまいますもんね」
ラビットは故郷の薬草を思い浮かべながらアストに同意した。
「それならラビの用も終わってるってことか?」
「はい!」
「それなら結局ちょうど良かったってことか」
「そうなるね。僕達は鎧イノシシを探していて、それを倒した。ラビットは薬草が目的で、それはもう集め終わってる。どちらも目的は果たせているね」
三人は頷き合うと、そのまま会話を続けながら歩き続けた。
「もうそろそろ到着だね」
「みたいだな」
フレイクは街の外壁を認めると、アストに頷いた。
「それじゃあそろそろ別れの挨拶でも…うん?」
「どうかしたのか?」
「いや…」
アストは何か言いかけてそれを途中で止めた。それをフレイクもラビットも不思議に思った。
「・・・何かあったのかもしれない」
「何か?何かって何がだ?」
「さぁ?だけど索敵じゃなくて探知の方に多数の反応が出てるね。どうやら門の方にかなりの人数が集まっているみたい」
「門に?今日って、祭りか何かあるんだったか?」
「イベントの類いはないはずだよ」
「僕も聞いた覚えがありません」
フレイクの確認にアストもラビットも首を横に振った。
「ふむ。どれどれ」
「「おおっー!!」」
何が起こっているのか気になったアストは一度立ち止まり、魔法で地面に大きな水鏡を出現させた。
フレイク達がそれに驚いているうちに、アストはさらに遠見の魔法を発動させた。すると地面の水鏡に外壁と門。その周囲の様子が映し出された。
「武装している兵士?しかもこれ、三桁はいるよね?」
「確かにそれくらいはいそうだな」
「だけどなんで兵士の人達がこんなに集まってるんでしょう?こっちの門に集まってるってことは、この森に何かあるんですかね」
「あると言えばあるね。なにせ今の魔の森は厳戒体制中だからね」
「厳戒体制?何かあったんですか?」
「ふむ。その様子だと冒険者ギルドには連絡が回っていない?それとも新人の冒険者にまで、か?」
「?」
「まぁ、冒険者ギルドから告知がないのなら僕からは話せないかな。後で冒険者ギルドの方で確認して」
「わかりました」
「それで、向こうにいる連中はわかったけどさ、どうするんだ?」
「そうだねぇ?別の門に回り込むか家の方に戻ろうか」
「なんで別の門か家なんです?そこはあの門か別の門なんじゃ?」
「あんなものものしい門を通りたいの?絶対面倒ごとが待ってるでしょ。それと家についていうと、僕達の家はこの魔の森にあるんだよ。だから別に街に戻る必要はないんだ」
「えっ!?この森の中に家があるんですか!危なくないんですか!?」
ラビットはアスト達の家の場所に思わず大きな声を上げた。
「危なくはないね。お婆ちゃん達は魔女だから結界も魔物避けもお手のものだよ」
「へぇー、魔女の人ってすごいんですね。やっぱり物語の魔女みたいに魔法で変身とか出来るんですか!?」
ラビットは昔読んでもらった猫に変身する魔女の出てくる物語を思い出しながらキラキラした目でアストに訊ねた。
「いやいや、婆ちゃん達の魔法は凄いけどさすがに変身なんて…」
「出来るよ」
「えっ!?」「本当ですか!」
フレイクが出来るわけないと言おうとする直前、アストがあっさり出来ると言った。これにフレイクは驚き、ラビットはいっそう目をキラキラさせた。
「えっ、婆ちゃん達って変身なんか出来たのか!?」
「出来るよ。もちろんなんにでも変身出来るわけじゃないけど、戦闘用の姿や若返った姿。後は猫みたいな動物の姿にも何種類かなれるね」
「「おおっー!!」」
アストの説明にフレイクもラビットも歓声を上げた。
「知らなかった。婆ちゃん達、そんなこと出来たのか…。なんで教えてくれなかったんだよアスト!」
「あー、ちょっと言いづらくて」
「「言いづらい?」」
二人は首を傾げ、アストは気まずそうにフレイクから視線を反らした。
「・アスト、お前何を隠してるんだ?」
「そのー、実は僕も変身魔法を使えるんだよね。それも魔女であるお婆ちゃん達よりもランクが上の」
「そうなのか!婆ちゃん達よりランクが上なんて凄いじゃないか!・でもなんでそれが俺に言いづらいんだ?」
フレイクはアストの凄いところがわかって我がことのように喜んだ。だがすぐにそれでなんで自分に言いづらいのかわからず疑問符を浮かべた。
「それでそのー、変身の魔法ってランクが上がると術者以外。つまり他人や物にもかけられるようになるんだよね」
「ほうほう」
「それでね」
「「うん」」
「フレイクにその変身魔法を高頻度で今までかけてたんだよね」
「「うん。・・・うん?はぁっー!?」」
アストが無断でフレイクに変身魔法をかけまくっていたことを白状すると、二人から驚きの声が上がった。
「いやいや、俺アストに変身魔法なんてかけられた覚えないぞ!?」
「その変身魔法って、かけた相手の記憶がなくなる副作用でもあるんですか?」
フレイクは記憶を辿ってみたがそんな魔法をかけられた覚えはなく、それを聞いたラビットは変身魔法には副作用でもあるのかと思った。実際、ラビットが知っている物語の変身魔法の中には呪いみたいに副作用があるものもいくつかあった。
「副作用なんてないない。そんな危ない魔法をフレイクには使わないよ」
アストはラビットの疑問に手を横に振り、変身魔法について二人に説明を始めた。




