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※選択の日は近い

「ふーん、ラビも孤児なのか?」


帰りの道中、アストは少年。本人いわくルビー村のラビットにあまり関心を持っていなかったが、逆にフレイクの方はラビットに積極的に話しかけていた。そしてある程度話すとフレイクはラビットのことをラビと愛称で呼び出し、今では互いの身の上話までしだしていた。


「はい。僕の両親は僕が小さい頃に亡くなって、ここまで育てくれた祖父母も半月前に亡くなりました。僕だけじゃ畑なんかの維持が出来ないので、それで畑や家を売ってこっちに来たんです。お爺ちゃんが昔に読んでくれた物語の冒険者に憧れてまして。そういえば僕もってことは、フレイク君やアスト君も天涯孤独なんですか?」

「うーん孤児ではあるけど、天涯孤独ではないな。俺には兄弟みたいに育ったアストがいるし、血は繋がってないけど俺達を育ててくれた婆ちゃん達もいるしな」

「お婆さん達ですか?血が繋がっていないのならどんな縁で育てられたんです?」

「さぁ?俺の方からは聞きにくくて俺は知らない。アストは知ってるのか?」

「知ってるよ」

「「!」」


アストがあっさりそう答えると、フレイクはもちろんラビットも釣られるようにアストのことを見た。


「知りたいの?」

「そりゃあ、まぁ…」

「そう。なら簡単にだけど教えてあげる」


そう言うとアストはフレイクが魔女の老婆達に引き取られた経緯を話し始めた。

いわく、フレイクの父親と老婆達の親族がかなり親しい間柄だったらしい。そしてその縁で老婆達は父親を亡くしたフレイクのことを引き取り育てたそうだ。


「へぇー、そうだったのか。・・俺の親父かぁ。どんな人だったんだろうなぁ」

「知りたいのなら近々話しを聞けると思うよ」

「近々?婆ちゃん達からか?」

「ううん。お婆ちゃん達自身はアストの父親と面識がないから違うよ。でももうすぐお婆ちゃん達の親族の一人がこっちに来るんだ。だからその人にお父さんのことを聞くと良いよ」

「へぇー、そうなのか。婆ちゃん達の親族ってことは、その人も魔女なのか?」

「ううん、違うよ。だけど職業はまだ秘密。会ってからのお楽しみだね」

「ふーん」


フレイクはどんな人が来るのか。父親のどんな話しが聞けるのか楽しみになった。



「あのー」


そんなフレイクを横目でみつつ、ラビットはアストの話しに引っ掛かりを覚えて小さく手を上げた。


「なに?」

「今の話しだとフレイク君のお母さんやアスト君の引き取られた経緯がわからないんですけど、その辺りはどうなんですか?」

「そういえばそうだな。俺のお袋とかアストが婆ちゃん達が引き取られた経緯はどんなんなんだ?」

「僕達はフレイクの母親については知らないよ。あくまでも父親の方の知り合いの親族だからね。それで僕がお婆ちゃん達に引き取られた経緯だけど、僕のお父さんがフレイクのお父さんの親友だったらしいよ。それでフレイクがお婆ちゃん達のところに引き取られた時に一緒に預けられたらしいよ」

「預けられたってことは、アスト君のご両親は生きてるんですか?」

「さぁ?会ったことがないから知らないよ。興味もないし。ただ…」

「「ただ?」」

「フレイクのお父さんの件でいろいろと動いているそうだよ」

「親父の件?それってどういう意味なんだ?」

「・・・フレイクのお父さんは、殺されたんだ」

「「えっ!?」」


アストの口から出てきた想像もしていなかった言葉に、フレイクもラビットも驚いた。


「殺されたって…。いったい誰に!?」

「特定の個人ではないから誰というわけじゃないかな」

「個人じゃない?」

「うん。組織というか集団だね。しかも不特定多数の」

「・・・親父は何か恨まれるようなことでもしていたのか?」

「ううん。恨まれたんじゃなくて、妬まれたんだよ」

「「妬まれた?」」

「そうだよ。フレイクのお父さんはとても勇敢な人だったんだって。それで人助けもたくさんしていてみんなからとても慕われてたらしいよ」

「なら、どうして…」

「それが人の(さが)だからだよ。人の感情はコインの裏表。人を愛するが故に憎しみが生まれ、誰かの喜びの影に他人の悲しみがある。そして何かへの憧れは歪めば嫉妬に成り果てる。フレイクのお父さんが輝いていたが故にその影もまた濃さを増した。人の心は複雑怪奇。正しい思いも強すぎれば歪みとなり、歪んだ思いも間違いを認めれば正しい思いに変わる。結局■■は失敗作なのかもね」

「うん?最後何が失敗作だって言ったんだ?」


フレイクもラビットも黙ってフレイクの話しを聞いていたが、最後の一文の一部がなんと言ったのか理解出来なかった。


「ああ、■■の部分?そこは気にしないで。口を滑らせただけだから」


アストはそう言うと、これ以上は話さないと目で拒絶した。



「それで話しを戻すけど、うちのお父さんは復讐の為に動き回ってるらしいよ」

「親父の復讐の為って…。親父はそんなことをアストの親父さんに望んだのか?」

「いいや。アストのお父さんは和解を望んでいたらしいよ。でも、それはフレイクのお父さんの望み。これから起こるのはフレイクのお父さんの為の復讐じゃないんだ」

「「!?」」

「件の連中はフレイクのお父さん以外にもかなりの相手に迷惑をかけているんだ。だからこれから起こる復讐は例えフレイクのお父さんだけが赦しても止まらない。なぜなら被害を被った相手の数だけ復讐する権利が発生しているのだから」

「「・・・」」


当たり前と言えば当たり前の話しではあるが、フレイクは親父の仇はいったい何をやらかし、どんな連中なんだと思わずにはいられなかった。


「フレイク。これから相手も君もいくつもの選択をするだろう」

「選択?」

「そう。お婆ちゃん達はすでに予言した。復讐の相手が三番目の選択をする時、分岐は始まる。その分岐の最中にフレイクは好きな道を選ぶと良い。復讐するのかしないのか。赦すのか赦さないのか。それ以外の道もフレイク次第。僕はフレイクの選択を肯定するよ。だけど、例えフレイクが赦す選択をするのだとしても、僕のお父さんや他の人達の選択を否定しないであげて」

「どうしてだ?」

「言ったでしょ。人の感情はコインの裏表。人を愛するが故に憎しみは生まれる。愛する人を奪われたが故に憎しみは生まれ、復讐に至る。だから誰かが誰かを愛した思いを否定しないであげて」

「「・・・」」


アストの真剣な言葉にフレイクはもちろん、脇で話しを聞いていたラビットも何も言えなかった。


「何を選ぶかは人それぞれ。その選択の積み重ねが現在(いま)なんだ。誰も彼もが日常的に何かを選択する。だけどその選択の結果は未来でしかわからない。だからこそ自分が後々後悔しない選択を心がけて」

「・・・わかった」


自分が後々何を選択するのか。この時のフレイクは漠然としか思い描けなかった。しかし、アストの言葉でこれから何かを選択する時が確実に来るのだと確信した。

だからフレイクは、その時には迷わないようにしようと心に決めた。



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