表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/68

※帰還 そして魔女の予言

「ぐっ!ここは?」


ライハルトが次に周囲を認識した時、そこは先程までいた森の中ではなかった。


「神殿の正門前か?」

「ライハルト!ガイ!」


そこはライハルトがよく知る場所。ストーリア聖国の聖都にある神殿の正面だった。

そしてライハルトが自分達が何処に出たのか確認していると、神殿の中から先に送り出したローザが駆け出て来た。


「ローザ!ソアラとエミリアの二人は!?」

「意識不明の重体よ。今は巫女様やシスター達が回復の神術をかけてくれているわ。だけど…」

「だけど?だけど何だ!・・・まさか…」


ライハルトが大怪我を負っていた二人の容態を尋ねると、ローザは簡潔に二人の今の状況を答えた。ただし最後は沈痛な顔で頭を俯かせた為、ライハルトは嫌な予感がした。


「魔力の過剰消費に、爆発以外でも全身の細胞にかなりのダメージを受けていたらしいわ。そのせいで巫女様達からの回復が追いつかないの。下手をすれば今夜が峠になるかもしれないって巫女様が…」

「そんな…」

「ライハルト!」


ローザから聞きたくなかったことを聞いてしまったライハルトは、魔の森で力を奪われたこともあいまってその場で一気に崩れ落ちた。


「ライハルト!ライハルト、しっかりして!貴方までそんな死にそうな顔をしないでちょうだい!貴方はソアラ達に付いていて!少しでもソアラ達をこっちに引っ張るの!お願いよ!」

「・あ、ああ…」


ローザは慌てて崩れ落ちたライハルトに駆け寄ると、ライハルトの意識を叩き起こすように声を張り上げた。

そのローザの声に意識を揺らされたライハルトは、なんとか意識の方は繋ぎ止めることが出来た。

ローザの声がなければ疲労と精神的ショックでそのまま意識を手放していたことだろう。


「誰か!誰か、ライハルトとガイをソアラ達のところへ!」

「「「はっ!」」」


そんなライハルトを見てローザが声を上げると、門の警護をしていた門番の一部がライハルト達の元へやって来た。

そしてローザに言われるがままに倒れているライハルトに肩を貸し、気を失っているガイは二人がかりでその身体を持ち上げた。


「じゃあ、二人のことは頼んだわよ」

「「「お任せください!」」」

「ロー、ザ…何処に行くん、だ?」

「お師匠様のところよ!以前見せてもらったあの薬なら二人を助けられるかもしれないわ!」


ローザはライハルト達を門番に任せると、外へ出て行こうとした。これにライハルトが疑問の声を上げると、ローザはこれから行く場所と目的を簡潔に話した。


「お師匠、様?・・・ああ、あの魔女の老婆、か。だが、あの魔女は確か…」


それを聞いたライハルトは記憶を探り、該当する人物を思い浮かべた。しかし、その人物が二人の為の薬をくれるとは思えなかった。


「ええ。お師匠様は払った対価分のことしかしない主義よ!でも今は緊急事態なの!そんなことは言ってられないわ!」

「だが…」

「なんとか後払いにしてもらうわ!いえ、魔力茸が大量にあるからそれでなんとかなるかもしれない!とにかく言って来わ!あんたはしっかりソアラ達に付いていてあげなさい!」

「わかっ、た…」


ライハルトが頷くと、ローザはお師匠様の店の方向を向いて走り出そうとした。


「その必要はないですよ」

「「えっ!?」」


が、走り出す前にその方向からやって来た人物に声をかけられ、ローザは走り出そうとした体勢で急制動をかけることになった。

そしてあらためてローザはその声をかけた人物を見た。


「アスト!どうしてあなたが!?」


そこにいたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。


「お届けものです」


ローザに問われた少年。アストは持っていた革袋から二つの瓶を取り出すと、それをローザに手渡した。


「これは!なんで!?」


瓶を受け取ったローザはその正体が信じられなくてとても驚いた。なぜなら、その瓶。その中にある秘薬こそが今現在ローザが一番欲していたものだったからだ。


「お婆ちゃんの占いです。とりあえず前払いで魔力茸。残りは労働で手を打つそうだよ」


そう言うとアストはローザに向かって手を出した。


「なのでお代をちょうだい」

「えっ!ええ。はい、魔力茸」


そしてアストは対価を要求し、ローザは慌てて腰に付けていた魔力茸入りの袋をアストに渡した。


「では労働については後日ということで。一応言っておくけど、一人につき一瓶全て使ってね。使わなかった場合の全快は保証しないから」

「わかってるわ。お師匠様に礼を言っておいて!」


そして秘薬の説明を受けたローザは踵を返して神殿の中に駆け戻って行った。


「さてとっ」


そんなローザを見送った後、アストは次にライハルトの方に視線を向けた。


「・・・」

「都合が良くて警戒してます?でもそんな都合の良いことばかりは起きないものですよ」


そんなアストを肩を借りているライハルトは感謝と不信を合わせたような目で見た。

ソアラとエミリアが助かること自体は嬉しいしいくら感謝してもしたりないが、受動的な魔女の老婆が秘伝の薬をこのタイミングで出してきたことにライハルトは引っ掛かりを覚えずにはいられなかった。


「お婆ちゃんの占いはまだあるんです」


アストはライハルトに向きなおると、まるで託宣を告げる巫女か預言者のような雰囲気を醸しだし始めた。


「『空に亀裂走る時、彼方より銀の災い(きた)る。災いは命を銀に染め上げ、あまねくものは沈みて新たな在り方を獲る。赤き獣の裁定をもって、古き罪の答えは為される。あまねくものよ、あがないの時はきたれり。己らが選択の結末を甘受せよ』、と」

「それは…」


アストの言うとおり都合の悪そうな。災いや古き罪。あがないの時という不吉なワードの多い占い結果。いや、これはもうそのまま予言の類いだとライハルトは思った。


「貴方達の行く先、その結末を見届けさせてもらいます。頑張ってくださいね」


そう言うとアストも踵を返し、もといた方向に帰っていった。


「・・・」


ライハルトは少しの間その背を見送り、門番に連れられて神殿の中に消えていった。




その後ソアラとエミリアは秘薬によって持ち直し、巫女と神はライハルトの報告を受けて頭を痛めることとなった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ