※雷は消え 蛇は森に去る
『分け身と同期』
『記憶はあの子に関する情報のみ共有』
『知識は敵に関するものを優先的に共有』
『能力の共有は容量の関係で不可』
『駒に関する所有権を共同化』
『ダンジョンの共生権は保留』
アリアンロッドと星樹がいぶかしむ中、デュスリュティムはたんたんと何か意味のある言葉を。何かを確認か、あるいは処理するような言葉を口にしていった。
『モンストゥル、星樹の晶葉、盤上の駒人、源海の浮泡、界外の迷い子の指揮権はそれぞれが保持』
『平行領域の座標を確認』
『『新世界の時の神 アリアンロッドの名の下に今ここに時空改変の完了を宣言する』』
「「『【えっ!?】』」」
そしてデュスリュティムはアリアンロッドの名で何かが完了したことを周囲のもの達に告げた。
しかし名を使われたアリアンロッドはもちろん、異変を感知している星樹も何がなんだかわからず、インファス、パンドラ、ライハルトの三人にいたっては完全に置いてけぼりになっていた。
後者の三人は世界の異変を感知しておらず、アリアンロッドと星樹の慌てように目を白黒させていたのだ。その反応は当然の帰結であった。
「あのー、主様?私の名の下に時空改変が完了したとはどういう意味ですか?」
『そのままだ』
『先程の異変。時の改変は未来のお前が過去の時間に俺の分け身を送り込むことで発生した』
『そしてそれにより大部分の勇者の転生体は確保出来た』
『つまりお前のお手柄だ、アリアンロッド』
「はぁ」
デュスリュティムに褒められたアリアンロッドは、今はまだしていないことで褒められた為喜んで良いのかわからなかった。というか、実感が湧かなかった。
ただ、デュスリュティムの言うこと自体は可能であった。
千年の遡行はエネルギー問題などで不可能であったが、逆を言えば過去に送り出す為のエネルギー確保などが出来ていれば数年、数十年の遡行は今の自分にも可能。
デュスリュティムを過去に送り出した理由は不明ではあったが、勇者の転生体を確保したといった。おそらくはそういうことなのだろうとアリアンロッドは思った。
「私の手柄かは置いておきまして、その改変した時間は固定出来そうですか?時空改変は行えますが、揺り戻しやタイムパラドックスは私には制御出来ませんが…」
『それは問題ない』
『改変したのはあの子の周囲の環境だけだ』
『だから揺り戻しは最小限で済んでいるし、今の俺にとっては時間的矛盾など存在していない。ただ…』
「【ただ?】」
『これから自分を送り出す為のエネルギーを確保しなければならない』
『ゆえに…』
「!?」
デュスリュティムの視線がライハルトの方を向いた。
『お前のその力、過去の固定の為に使わせてもらおうか』
「過去の固定?いったい何を…、ぐうっ!?」
そしてデュスリュティムの言葉の直後、今までライハルトを中心に帯電していたエネルギーが急速に周囲へと拡散を始めた。
いや、これは拡散ではない。まるで何かがライハルトを舐めているかのように帯電していたエネルギーが空中で唐突に消失していた。
『なかなかの吸収率だ』
『どうやら先程までの戦いで大分味を占めたようだな』
「貴様!いったい、何・を…」
デュスリュティムはそんなライハルトの様子を面白そうに眺め、ライハルトは今自分に行っていることに不安を覚えた。
キノコ付きの魔物を。魔の森を消滅させる為に今までチャージしていたエネルギーが凄まじい勢いで自分の中から消えていく。
それはライハルトにとってとてつもない恐怖を感じさせた。
デュスリュティム。いや、インファスへの対抗策を失うこと。
キノコ付きの魔物が森の外へと出てしまうかもしれないこと。
そしてこれだけのエネルギーを一気に失えば自分はしばらくの間満足に戦えなくなること。
ライハルトが恐怖する理由はいくらでもあった。
『なぁに、お前にもメリットのあることだ』
『さっさとエネルギーを吐き出して帰るが良い』
『それでお前は変わった未来で仲間達と再会出来るのだから』
『前は闇落ちして面倒だったからな』
『あいつらとの二面攻勢が面倒くさかったし』
『お前達にはせいぜい役に立ってもらう』
『あいつの為に存分に働いてくれ』
『記憶の方はサービスしておく』
『もういろいろと遅いしな』
『『じゃあな』』
「なっ!?転移の神玉が!?」
デュスリュティムが別れの言葉を言った直後、ライハルトが溜め込んでいたエネルギーは底を尽き、それと同時に懐に残っていた転移の神玉がライハルトが発動させていないのに勝手に起動した。
神玉は力尽きて崩れ落ちそうになっているライハルトと気を失っているガイの身体を光の円で囲いこみ、そのまま効果を発揮した。次の瞬間、ライハルト達の姿が魔の森から忽然と消失した。
【空間転移を確認。どうやら無事に向こう側に出たようです】
『ああ』
『こっちでも目視した』
デュスリュティムは目の前にあるものを見るような目をした後、星樹に頷いた。
【・・・どうやって見ているのですか?】
『ただたんに向こうにある身体で直接見ているだけだ。さて、エネルギーも確保出来たことだし、過去のストーリア聖国に俺を送り込んでストーリア聖国の現在を確定させるとしようか』
『いや、まずは神域の展開が優先だ。それから安定した過去を手に入れる』
『そうだな。そうしよう』
デュスリュティムの片方の頭の言葉にもう片方の頭は頷いた。
『ではまたやろう』
デュスリュティムはそう言うと、アリアンロッド達と同時にその姿を魔の森から消失させた。
デュスリュティム達が消えた後には、まるで戦闘が起こっていないかのようなキノコだらけの森の景色だけが残されていた。




