※神気に酔い 世界は改変される
「・・・!ガイ!しっかりしろガイ!!」
ライハルトはいつの間にか朦朧としていた意識が急にはっきりすると、慌てて周囲の状況を確認した。
するとこちらを見ているデュスリュティム、モンストゥル、アリアンロッド、パンドラの姿があったが、そちらはこちらの様子を観察するように見ているだけだった。
デュスリュティムが言っていたとおり、俺達を本当に帰すつもりなのだとライハルトはこれで理解した。
でなければ今の隙に殺されていたことだろう。
次いでライハルトが視線を動かすと、自分の前で気を失っているガイの姿を見つけた。
ライハルトは慌てて呼び掛けるが、ガイはうんともすんとも言わなかった。
『なぁ、神気って人間には毒なのか?』
「いえ、毒ではありませんが…」
そんなライハルト達を見ていたデュスリュティムがアリアンロッドに確認すると、アリアンロッドは首を横に振った。
「ただ、私達は普段巫女を通して会話しますので、直接対面することに慣れていないと意識が混濁するらしいです。別段命に関わるようなことにはならないのでご安心ください。まあ、今日はもう目覚めないでしょうが…」
『そうか』
『なんというか、神気ばらまくだけで軍隊とかでも沈黙させられそうだな』
「そうですね。たしかに私達が封印される前にそういうことが実際何度かありましたね」
『と、いうと?』
「ある国の軍隊が隣国に攻めこみ、その国を陥落させる直前までいきました。しかしその攻められた国の神が動き、神殿を中継して放たれた神気に圧倒されて軍隊は総崩れとなりました。結局それで攻められた国は亡国を免れ、攻めた方はしばらく神気の影響が抜けず、その軍隊はそれなりの期間使い物にならなくなっていましたね」
『『へぇー』』
デュスリュティムはアリアンロッドの話しに相づちを打った。
そして神が国を守る為に動くことが出来ると認識し、亡国手前になってようやく動いた点から何か制約でもあるのかとも思った。
あるいは、その神が怠惰なのか?能力が低いのか?
アリアンロッドはともかくとして、母親である星樹などを裏切って勇者を殺すような連中だ。まともな倫理観や常識、思考回路の持ち合わせはかなり怪しい気がした。
『話しを戻すが、ならそいつは放置で大丈夫なんだな?』
「ですね。私から離れて養生すれば数日で元に戻ると思います」
『そうか。帰す予定なのに誤爆で再起不能になられると面倒だからな』
『あの子を捜す為のせっかくの手がかり。そいつの行動範囲を狭めるのは悪手だからな』
デュスリュティムはライハルトを見ながらそう言った。
ガイはライハルトのオマケ程度にしか見られていないようだ。
『そっちも仲間が心配だろう』
『だからそれを放ってもう帰ると良い』
『それともまだ聞いていくか?』
『もうお前が知りたがるような利益の話しはあまりないがな』
なのでデュスリュティムはさっさと話しを終わらせにかかった。
ライハルトとの会話はただの時間稼ぎだったので、ライハルトの準備が整った以上会話を続ける必要性がなかった。
「えっ?あっ!ああ…。!いや、ちょっと待て!」
ライハルトももういつでも撃てるのでそれにいやはなかったが、すぐに自分の意識が朦朧とする前のガイとの会話を思い出して待ったをかけた。
『どうかしたか?』
『まだ何か聞きたいのか?』
「聞きたいことはいくらでもある!お前達が何者なのか!お前達がここで何をしているのか!これから何をするつもりなのか!だがそれよりも、お前達と聖母様にどんな繋がりがあるんだ!?」
『『聖母?』』
デュスリュティムはライハルトの叫びに首を捻った。
聖母について自分は関係がまったくなかったからだ。
面識がなければ会う予定もない。いや、聖母の立場が星樹の勇者ポジなのだからいずれ会うことになるのか?
いや、それでもそれはいずれの話し。今は聖母との繋がりはないという結論が出た。
『聖母との繋がり?そんなものはない』
『あえて言えばこれから味方になる相手?』
『まあ、場合によるだろうしな』
『星樹しだいだしな』
「嘘をつくな!先程聖母様の言葉を賜っていたではないか!」
『聖母様の言葉?』
『お前の前で話した相手となると…』
インファス、アリアンロッド、パンドラ、星樹。身内だとその四人としか話していない。
『ああ、そういうことか…』
デュスリュティムは少し上を向いた後、何かに納得したような声を発した。
『情報の伝達をミスっているな』
『神は訂正しなかったのか?』
「主様、どうなさったのですか?」
『いや、こいつ星樹と聖母を取り違えている』
「えっ!?御母様と聖母をですか!?」
『みたいだ。どこかで同一視でもしたのか、千年の時間経過で呼称が変わったみたいだな』
デュスリュティムは自分の結論をそうアリアンロッドに説明した。
ライハルトの言う聖母が星樹以外には該当せず、一応両者に繋がりがあったのでそういうことだろうとデュスリュティムは判断した。星樹達が千年間不在だったのだ。そんなことになっていても不思議はなかった。
神々が訂正していない点は不自然ではあったが、自分達の使徒に勇者を騙らせている時点であまりまともではないのだろうとデュスリュティムは思った。
『これは面倒なことになるか?』
『面倒になるだろうな。なら』
デュスリュティムはお互いの顔を見合わせた後、視線をアリアンロッド、パンドラに向けた。
『記憶を巻き戻せるか?』
『記憶を封印出来るか?』
『『それともメッセージを送るか?』』
そして二者に対応可能か確認した後、向こうに言葉を送るか星樹に確認した。
「記憶の巻き戻しは可能です。すぐに出来ます」
「記憶の封印は可能です。すぐにでも封じれます」
【言葉を送るつもりはありません。もういろいろと遅いですから】
デュスリュティムの確認に二者は可能と応え、星樹はそれで構わないと返答した。
『ならば余計な記憶には消えて…』
「『『【!?!?】』』」
もらおうか。と、デュスリュティムが続けようとした瞬間、世界がなんの前触れもなく変わった。
それに衝撃などはなかった。自分達に何かがあったわけでもなく、ライハルト達に何かあったわけでもない。
周囲の森に変化があったわけでもなく、空にも異常はない。
だがしかし、デュスリュティム、アリアンロッド、星樹は確かに世界が少し前と大きく変わったことを理解していた。
「今のは時空震?御母様!」
【・・・世界のあちこちが書き換えられました】
「いったい誰が!?いえ、何処が書き換えられたのですか?」
【世界各地で断片的な改変を確認しました。ですがこれは…】
「御母様?」
【書き換えられた箇所が直接観測出来ません。まるで虫食いのように斑になっていますが、間接的な観測では減ってはいません。むしろいろいろと増えているようです】
「増えている?いったい何が?」
『あいつの為のものが、だ』
「主様?」【あなたは何か知っているのですか?】
アリアンロッドは時の神として時間に介入があったことを感じとり、星樹は自分が把握していた世界の様子が様変わりしていることを確認した。
二人がその突然の異変に慌てている中、デュスリュティムだけは冷静にアリアンロッドの疑問に答えを出した。
そしてそれにより二人はデュスリュティムが自分達の知らない何かを知っていることを理解した。
世界改変確認
改変者確認・・・ 対象特定
対象 時の神
アリアンロッド




