※蛇は語る そして
『まずは何から話すか?』
『我の利益からで良いだろう』
『そうだな。まずはお前達も知りたいだろう俺の得た利益から話すか』
双頭の頭の片方がどうするか口にすると、もう片方が案を出す。
それに片方が頷き、話しの内容が決まったようだ。
その様子を見ていたライハルト達は、デュスリュティムの双頭はそれぞれ別の人格があるのだと予想した。一人称が俺と我。それぞれの頭が一つの異なる一人称を使っていることからもそうだろうと思った。
『なら次は話す順番か』
『我の利益が大きい順で良いだろう。向こうもチャージの間しか聞いていられないのだからな』
『そうだな。チャージが終われば吐き出さねば帰れないだろうしな。ならそうしよう』
デュスリュティムは一人での会話を終えると、視線をライハルト達に向けた。
『まずは俺が得た一番大きな利益。それは指針を得たことだ』
「「『指針?』」」
デュスリュティムが得た一番の利益が指針ということに、ライハルト達は内心首を傾げた。
一般的に指針とは、向かうべき方向を示す大きな方針という意味である。
デュスリュティムはそれを得たことが一番の利益だというが、モンストゥル達の損害から得た圧倒的な利益としてそれがふさわしいのかライハルト達だけではなくインファスにも疑問だった。
『納得出来ないか?』
『だがしかたない。何がどう利益なのかは個人による』
『お前達にとってはそんなものでも、俺にとっては何にも勝る利益だ』
『そう、あいつ『あの子の手がかりが得られたことは』』
「「手がかり?誰への?」」
自分達の何かががデュスリュティムの言う誰かへの手がかりとなったらしい。しかしライハルト達にはそれの心当たりがまったくなかった。森に入ってからは森の異変やキノコについてぐらいしか会話をしていない。とてもではないが、誰かの手がかりになるような情報を出してはいなかったはずだ。
『俺の捜し人のだ』
『お前達が考えていることはおおよそ予想出来るが、お前達の会話や鑑定結果から情報を得たわけではない』
「「?」」
会話でもなければ先程ライハルトの所持アイテムを当てた鑑定能力からでもない。
ならデュスリュティムは何からその誰かの情報を得たんだ?
その何かに皆目検討がつかず、ライハルト達は二人共頭を悩ませた。
『お前達には理解出来ないだろうが、俺はお前からあいつの『匂い』を感じ取った』
「「『匂い?』」」
ライハルトを見ながら言うデュスリュティムに、いったい何の匂いを感じ取ったのだと思った。
キノコのインファスは当然嗅覚が無いのでわからず、ライハルトやガイにしても動物ではないので匂いから他人を特定するような真似は出来なかった。
『匂いと言っても体臭の類いではない』
『気配、エネルギー、残滓。あの子を感じさせる何かをそう表現しているにすぎない』
『だがお前から確かにそれを感じ取れる』
『匂いの濃さからお前が直接あの子に会ったわけではないだろう』
『だが、匂いが付着出来るくらいには近くにいたことがあるのだ』
『そう、お前の生活圏の何処かであの子と重なっている部分がある』
『今まではあいつが何処にいるのか予想もつかなかった。だからしらみ潰しに捜す予定だった』
『だがお前についていた匂いであの子のいる場所の見当がついた』
『ならば捜しに行くに決まっている』
『これが我の方針』
『俺にとってあいつの情報は千金に値する』
『ゆえに我にとって一番大きな利益で間違いない』
デュスリュティムの説明にライハルト達は一応の納得を得たが、ライハルトとガイはすぐに嫌なことに気がついた。
デュスリュティムはライハルトの生活圏と捜し人の生活圏だか行動範囲が重なっていると言った。そして捜しに行くに決まっているとも発言している。
つまり、デュスリュティムは自分達の国。もっと言えばストーリア聖国の聖都に来ようとしている?
そのことがわかった二人は、すぐに顔色を悪くした。
『ああ、気がついたか』
『まあ、当然だな。明言しているのにわからないわけがない』
「・お前達は、俺達の国に来るつもり、なのか?」
『そうだ。あの子を見つける為にな』
『だから先程の女達を見逃したし、お前達も見逃してやる』
『せっかく見つけた手がかりだからな。わざわざそれを潰しはしない』
『当然お前が対処しようとしていたキノコ付きの魔物達の動きも止めてある』
『キノコパニックを起こしてあの子が別の国に移動するという展開になったら面倒だからな』
『最善は誰にも気付かれずにお前達の国に行き、あいつを見つけだすこと』
『それからはお前達しだいだ』
「「俺達しだい?」」
『俺『我の優先順位は一も二もあいつだ。』』
『あいつが何もしないでほしいならお前達にも、お前達の国にも俺は何もしない』
『だがもしもお前達があの子を害しているのなら…』
「「『!?!?!?』」」
デュスリュティムはどうするのか言わなかったが、デュスリュティムを見ていた面々は直後に凄絶な悪寒を感じた。
喉は渇き、冷や汗は止まらず、呼吸もかなり苦しくなった。
デュスリュティムからそれだけ異様な悪意を感じ取ったからだ。
それを向けられているライハルト達はもちろん、デュスリュティムに巻き付かれているモンストゥル。その中身であるインファスもキノコが感じないはずの『何か』を感じ、酷い恐怖がキノコネットワーク内を駆け巡った。
『ふむ。インファスまで恐がらせてしまったか』
『あの子よりはどうでも良いが味方を恐がらせるのは駄目だな』
『そうだな。なら話しを次に移そう』
『そうだな。次は我が出てきた目的。宝玉についてが良いだろう』
『そうだな』
二人はモンストゥル達の様子を見た後、さすがに漏れていた気配を遮断した。そして話しを次に進めることにした。
『さて、お前達と最初に話したことに答えよう』
『この珠の正体についてだ』
デュスリュティムが再び珠を掲げてみせると、いまだに体調は悪いがライハルト達の視線は珠の方に移動した。
『お前達はこれを神器と呼んでいたがそれは正解であり間違いだ』
『これは神を封じている器であり、神の力の器ではない』
「「『!?』」」
「神を封じている?いったい何の神を?」
デュスリュティムの言葉に、ライハルト達は先程までとは違う何かしらの予感を覚えた。
『何の神か?あの女が使っていた神術を考えれば答えは簡単だろう?』
「「時の、神…」」
ライハルトとガイはインファスとの戦いでも何度となく助けてくれたエミリアの神術を思い、神の正体を口にした。
『しかり。この中に封じられているのは時の神の一柱』
『かつて月と共に人々に歳月を示していた神だ』
『千年前勇者を守ろうとして神友に裏切られた悲しき神でもある』
『以来千年間、神器として利用され続けた哀しき神でもある』
『『だがその苦難も今日という日に終わる。あいつに代わり俺がこのものの献身に報いる。さぁ、今こそ復活の時だ!!』』




