※キノコは密やかに広がっていた
「まずは増援を断つ!大地よ、森よ、凍てつきなさい!」
エミリアは杖を掲げると、銀色のオーラをその先端にある宝玉に集中させ氷の魔法を発動させた。
すると宝玉から大量の冷気が溢れだし、それはすぐに白い雪に変わるとライハルト達を避けながら周囲一帯に拡散していった。
『『『『『『むっ!』』』』』』
それにインファスは警戒するが、雪はモンストゥル達の表面を多少凍りつかせる程度でそのまま駆け抜けていった。
『『『『『この程度か?』』』』』
「あんた達にはね。本命は別よ」
『『『『『!?』』』』』
今までに比べてたいしたことのない攻撃に、モンストゥル達は疑問を覚えた。
それについて言葉にすると、エミリアはそれは当然だという顔で本命が別にあるのだと口にした。
モンストゥル達が自分達以外の何が本命なのかと周囲を確認してみると、自分達の周囲の光景が先程までとは一変していることに気がついた。
足元の大地は霜と雪で純白に染まり、周囲の木々も雪と氷で凍りついていた。また森のあちこちに生えていたキノコにいたっては、分厚い氷でガチガチに固められていた。
「キノコって地面や木から生えるものよね?これで新しく生えることは出来ないはず。元々生えていた分も念入りに凍らせてあげたわ。合体出来なきゃその身体も増やせないでしょ!」
『『『『『くっ!』』』』』
インファスはエミリアの推察に舌打ちした。
その推理がおおよそ合っていたからだ。
そしてもう一点。あの雪はまだ森の中を駆け抜け続けており、森に展開しておいた罠キノコや合体、増殖出来るキノコ達も軒並み潰されていた。
進路と退路の危険を排除され、この場と他所からのモンストゥルの増援も絶たれた。
あの方がいるかぎり完全敗北はないが、インファス個人の敗北はあり得そうになってしまった。
そのことにインファスは焦った。だが…。
『それがどうした!』
「「「「「えっ!?」」」」」
『お前の推理は当たりだ!我等が増援もしばらくは来ない。だが、それがどうした!』
「どうしたって…、あんた」
『この程度で我等を倒せるとでも?笑わせる!』
『ここにこれだけの端末がいれば問題ない』
『そして』
『お前達が以前気にしていたことを教えてやろう!』
「「「「「「???」」」」」」
インファスの以前気にしていたことという言葉に、エミリア達はすぐには何のことだかわからなかった。
しかし、次のインファスの言葉でエミリア達はそのことを後回しにしていたことを後悔することになった。
『来い!』
「あれは!」
最初に気づいたのは空から聞こえてくる風を切る音。
エミリア達がその音の方に視線を向けると、そこには頭からキノコを生やしたハンターホーク等の鳥の魔物達の飛翔する姿があった。
『お前達は途中から森に魔物の姿がないことを気にしていたな』
『その理由としてはお前達に苗床を壊されないように下げたのが一つ』
『お前達の退路を断つ為にお前達の背後に回り込ませたのが一つ』
『そしてもう一つは報復の準備だ』
「報復の準備ですって!」「報復の準備だと!」
インファスの報復という言葉にエミリアもライハルトも強く反応した。
『少し考えればわかるはずだ』
『我等はお前達に侵攻を受けた』
『ならば我等の側も報復を』
『お前達にとっての逆侵攻を考える』
『外敵を放置することは我等の繁殖に障るからな』
『ならばどうするか?』
『我等は足が遅い』
『キノコたからな』
『ならば足の早いものを使えば良い』
『そう、苗床にした魔物をな!』
「「「「「「!!」」」」」」
『ここに呼び寄せたのは森に残しておいた分だ』
『残りの苗床はすでに先程の雪の射程外にまで行っている』
『地を行くもの達がお前達の巣穴にたどり着くまでは今しばらくかかろう』
『だが空を行くもの達は数日もすればお前達の巣穴にたどり着く!』
『お前達は数日がかりでここまで来たな?』
『ならば戻りも同じだけかかろう』
『お前達は我等の相手をしながら苗床どもに追い付けるか?』
『『『『『それは不可能だ!』』』』』
「「くっ!」」「「ちっ!」」「そんな…」「・・・」
インファスの代わる代わるの言葉にエミリア達は自分達の失敗を悟った。
自分達でも魔物を見かけないことに違和感を持っていたのだ。
疑問に思った時にもう少し考えを巡らせておけば…。
そう後悔せずにはいられなかった。
そうすれば森の奥で今の状況になることはなかったのではないか?いや、それだとモンストゥルという脅威を知ることが出来なかった。あるいは残存を知ることが出来なかった。
そんなどちらにしろダメだったと勇者達は頭を痛めた。
「ライハルト!チャージは今どれくらい!?」
「・半分はいっているが、今効果範囲を俺達の国の方向に片寄らせても射程が足りない。魔物達を確実に巻き込めるかわからない」
それでも国の危機は待ってはくれない。
エミリアはライハルトに攻撃の溜めがどこまでいっているか確認した。
それにライハルトはエミリアの意図を察して残念な顔になった。
「くっ!私が時の神術でブーストをかけても駄目そうなの!?」
「魔物達が今何処まで到達しているか不明だから、確実に国の辺りにまで届かせたい。だが、それにはブースト込みでも後数分は欲しい」
『『『『『ならばその数分も潰させてもらおうか!!!』』』』』
そしてインファスもエミリア達の反撃を待つ必要はなかった。
モンストゥルの数体がエミリアを押さえにかかり、残りのモンストゥルはライハルトが発動させようとしている何かを本格的に止めにかかった。
『絶望せよ』
『お前達の巣穴が我等の苗床になることに!』
『絶望せよ』
『自分達がそれを救えぬことに!』
『絶望せよ』
『この森に入り我等と敵対したことを!』
「「くっ!」」
「させるかあぁぁぁー!!」
インファスの言うとおり状況は絶望的だが、それでもエミリアは勇者として杖を振るう。
幾度となくその姿を消し、その度に別の場所に現れてモンストゥル達を吹き飛ばしていく。
モンストゥル達が連続移動なら対処出来ないことはわかっているのだ。
エミリアは自身の消耗を度外視してライハルトを守りにかかった。
例え自分がここで潰れても、ライハルトのチャージが終われば少なくとも国は守れるのだ。
勇者として命をかけるに値する戦いだった。
「一分でも!一秒でも!氷つけぇぇぇぇー!!!」
『『『『『ぬうぅぅぅ』』』』』
エミリアは宝玉から力を引き出すと、自分に影響が出ることも構わずにモンストゥル達を凍らせにかかった。
『血迷ったか!』
『ならばこちらも移動速度をさらに上げさせてやる!』
『ここにいる我等を止めたところで』
『向こうの我等は止められぬ!』
それにエミリアの覚悟を見たインファスは、魔物の移動速度を肉体が自壊する程に早めた。
そしてモンストゥル達の方は凍りつきながらもライハルトへ向かって行く。
「切り裂け〔風刃〕」「くたばれ!」「させるか!」
それに立ちはだかるようにローザ、ガイ、アインもライハルトの前に出て少しでも時間を稼ごうとする。
「みんな!」
「ライハルトさんはチャージに集中してください!」
チャージ中で動けないライハルトは仲間達の戦いをただ見ているしか出来なかった。
そんなライハルトの隣を駆け抜け、ソアラはモンストゥル達を足止めする為に自身も冷気のダメージを受け続けているエミリアに向かって回復魔法を行使した。




