※キノコがもたらす絶望
「《時よ、一時我らが思考を加速せよ!》〔マインドアクセル〕!」
モンストゥル達がこちらに向かって来るのを見たエミリアは、すかさず時の神術を発動させた。
するとエミリアが見ていたモンストゥル達の動きがスローモーションになった。
いや、その他のもの。風に揺られる木の葉の動き等もスローになっていた。ただし枝のしなりや木の葉の揺れる範囲はあくまでそよ風に揺らされている程度のもの。
どうやら勇者パーティーの面々の意識だけがエミリアの神術によって時間域を引き上げられているようだ。
「そんなに時間稼ぎは出来ないから手短に言うわ。私とライハルトであいつらの相手は引き受けるから、ソアラは私の回復に集中して」
「ガイとアインは私達が突破された場合。あるいは前に喰らった爆裂ダケの陣がきたらすぐにソアラを抱えて逃げてくれ。ローザは魔法と魔力茸でソアラの補助と回復を頼む!」
「わっ、わかりました!」「了解だ!」「任せろ!」「任せなさい!」
だがそんなに効果時間はないらしく、エミリアは急いで自分の行動とソアラに求める役割を告げ、ライハルトも他の三人にそれぞれしてもらいたいことを頼んだ。
そして勇者二人は前に出、仲間達は頷きソアラを中心に戦う用意に入った。
「一人一殺じゃ足りないわ。だからもう後先考えずにいくわよ」
「わかった。今は仲間達も動けるから俺も遊撃で殲滅する」
「《時よ、我が命を加速せよ 流れる時よ、我と共に急流となれ!》〔アクセルドライブ〕」
「《雷よ、我と共に駆けよ! 我は一時雷成り!》〔雷身道〕!」
そして勇者二人は詠唱しその姿を仲間達の前から消した。
それと同時に仲間達の時間域も元に戻り、スローモーションに見えていたモンストゥル達がすごい早さで距離を詰めて来た。
『『『『『!?』』』』』
だが次の瞬間、僅かに先行していたモンストゥル達の身体が蒸発し、その後ろにいたモンストゥル達は後方に大きく吹き飛ばされた。
そしてそのモンストゥル達が吹き飛ばされた先に巨大な氷柱が突如無数に出現し、吹き飛んできたモンストゥル達の身体を串刺しにしていった。
「あれは!」
「キノコだけ!?」
そして少し経つと、モンストゥル達の身体は穴が空いた箇所からバラけていき、あとには白い糸のようなもので僅かに繋がった無数のキノコだけが残った。
「キノコだけって!あいつファンガースみたいな人間を核にした茸人間じゃなくて、純粋なキノコの集合体だったの!?ていうか、そうなるとキノコが人間並の知能を持って活動してたってこと!?」
それを見たローザはいろいろと信じられなくて頭を振った。
てっきりファンガースのように人間の頭を利用しているのだと思っていたら、実際はキノコが人間並のこと。違和感を感じない会話やら様々な罠の設置。大規模な魔法まで操って勇者を擁する自分達と死闘を演じていたのだ。
容易に信じられることではなかった。
というか、モンストゥルと戦いだしてから人の常識が虫の息になっていた。
「あんた化け物キノコなんじゃなくて、正真正銘キノコの化け物だったわけね」
そしてモンストゥルの正体に驚いたのはエミリアとライハルトも同じだった。
消えた二人はちょうどモンストゥルとローザ達の中間地点にその姿を現した。
ただ消える前と違い、エミリアは銀色のオーラを纏い、ライハルトは金色に輝きながらバチバチと帯電していた。
『キノコの化け物、か』
『しかり。我等はこの森に生えているキノコ』
『それら全てが繋がり構築されている存在』
『地のモンストゥル』
『『『『『蔓延する茸菌 インファスだ!』』』』』
自分達の正体を見破られたモンストゥル。蔓延する茸菌インファスは、否定することなく自分達の名乗りを上げた。
『そしてそれが知られたところで問題はない』
『そう、その事実はお前達に絶望をもたらすのだから』
「「「「「「?」」」」」」
そしてインファスは自分達の正体がバレても問題無いと語る。
そして自分達の正体が勇者達に絶望をもたらすのだと告げる。
ライハルト達はすぐにはそのインファスの言葉の意味を理解出来なかった。しかし、モンストゥル達がそれぞれ腕を一振りすると、すぐにその意味を理解することになった。
「「「「「「げっ!?」」」」」」
モンストゥル達が振った腕から大量の胞子が宙を舞い、それが地面や周囲の木々に着床すると直ぐ様立派なキノコが生えてきた。
そして生えたキノコから白い糸のようなもの。菌糸が四方八方に伸び、近くにある他のキノコと繋がっていった。
繋がったキノコはさらに別のキノコと繋がり、やがて引き合って一ヶ所に纏まりだした。
そうやって複数のキノコは一つの塊となり、やがて凹凸が整えられて人型を象った。
最終的には胞子を蒔いたモンストゥル達と同じシルエットの新たなモンストゥル達が無数に誕生した。
『我等はこの森に生えている全てのキノコそのもの』
『ゆえに、我等は一本でも残っていれば滅びぬ』
『一本でも残ればそこからいくらでも増殖出来るがゆえに』
『さあ、我等をどうやって倒す?』
『我等はここ以外でも増殖出来る』
『増援はこの森の中からいくらでも沸いて来る』
『我等をピンポイントで枯らすか、森そのものを全て焼き尽くすかせねば我等は滅ぼせぬ』
『『『『『『さあ、絶望するがいい!!』』』』』』
「「「「「「・・・」」」」」」
実際にモンストゥル達が増える瞬間を見せられた後にそう丁寧に説明されると、さすがに勇者一行も言われたとおり絶望するしかなかった。
なんせ森から大量発生してくる上、一つの国が収まろうかという広さの魔の森に生えているキノコを全てどうにかしないと倒せない。
誰がどうみてもインファスの討伐は不可能に近かった。
「なら、全部刈り取ってやるわよ!」
「エミリア!」
「ライハルト、覚悟を決めなさい。あんたなら出来るでしょ」
「・・・」
「あいつは必ず滅ぼさないといけない。本当にこの魔の森のキノコ全てがあいつなら、もう私達の国とあいつが隣接しているってことになる」
「「「「「!!」」」」」
エミリアのその指摘に、ライハルトははっとした。
「あんなのが大量に出てきたら国なんてすぐに滅びるわ!もう来る時に接敵しなかったことからまだ外に出ていないと信じて、私達の全滅が確実でもあいつらも全滅させないとダメなのよ!」
「・・・わかった。チャージに入る」
「・・・頼んだわよ」
ライハルトの金色の輝きがどんどん強くなり始めた。
そんなライハルトを庇うようにエミリアは前に出、こちらも銀色のオーラを強めた。
「キノコの化け物達。あんた達に国を、民を護る勇者の底力を見せてあげるわ!」
『笑止。騙りが何を語ったところでただの戯言よ!今度こそ排除してくれるわ!!』
そしてインファスに宣言し、インファスもまた己の決意を宣言した。
こうして勇者一行とインファスの死闘は開始された。
高エネルギー確認
敵の危険度上昇 即時排除せよ




