※キノコ再来
「アイン!全力で違和感を探しなさい!私も全力で探知魔法をかけるから。迷いダケが一つだけとは限らない上、他の魔法キノコも仕掛けられているかもしれないわ!」
「了解だ!」
迷いダケから脱出した面々は、移動速度を犠牲にしても罠にかからないことを優先して進むようになった。
それが結果的に罠に嵌まった時よりも早く奥にたどり着けると判断したからだ。
「落としダケに眠りダケ。フラフラキノコにノロノロダケまで…。あの化け物キノコ、どんだけ罠を仕掛けているのよ…」
その行動方針の結果、かなりの数のキノコトラップを事前に発見し回避することに成功した。
「ローザさん、それらに引っ掛かった場合はどうなってたんですか?」
実害は受けなかったが、もし引っ掛かったらどうなっているのかが気になりソアラはローザに尋ねた。
「引っ掛かった場合?それなら…」
聞かれたローザはその危険性を全員で共有出来るように少し大きな声でソアラに答えた。
それによると以下のようなことになったらしい。
落としダケ。地下に菌糸を張り巡らせ、その下の土を沈み込む程柔らかくするキノコ。つまりは落とし穴を作り出すキノコである。菌糸が少ない内は転けるかも?なぐらいだが、菌糸が多くなってくると人一人をまるごと落とせるだけの範囲を柔らかいを通り越して液化させられるそうだ。
眠りダケ。独特な臭いを放つキノコで、その臭いを嗅いだものはどれだけ不眠症でも即夢の中という睡眠薬の材料にもなるキノコだそうだ。
フラフラキノコ。平衡感覚を狂わせる胞子を放つキノコで、胞子に触れたら三半規管をやられて二、三日はまともに歩けなくなるそうだ。
ノロノロダケ。生物の思考を鈍らせる魔法キノコの一つ。迷いダケ同様一定の空間に作用し、その空間内ではどんな切れ者もポヤポヤになってしまうそうだ。迷いダケと違う点は空間を閉ざしているわけではないので自力で逃げられること。そして殺傷能力がないことだそうだ。その代わり時間稼ぎ役としてはかなりの性能とも言える。
「「「「「・・・」」」」」
ローザの説明にみんなげんなりした。というか、キノコがヤバいと誰もが思った。
「よくもそこまで危険なキノコばかりはえてるわね。あの化け物が生み出したのかしら?それとも何処からか持って来た?・・元からこの森に生えていたとかではさすがにないわよね?」
「前者は不明だけど、後者は否定出来るわ。時々薬の材料集めにこの森にキノコ狩りに来てたけど、こんな危険なキノコを見た覚えはないわ」
「そう。あなたが知っているキノコだけですめば良いのだけど…」
「それは無理そうね。道中ですでに見たことも聞いたこともない形状や柄のキノコを見たから」
「・・・本当、最悪ね」
エミリアはローザの言葉に眉間にシワを寄せた。
それからしばらく進むと、勇者一行は唐突に木々が生えていない開けた場所に出た。
「変ね。なんでここだけこんなぽっかり空いているのかしら?」
「不自然な場所があるのなら十中八九罠でしょ。問題はどんな罠かよ」
「そうだな。また魔法キノコ由来の空間に作用するやつか、それとももっと直接的。これだけの開けた場所じゃないと戦えない誰かがいるとかか?」
それを警戒しているローザに、エミリアは普通に罠だろうと断じた。ライハルトもそれに同意しつつ、魔法キノコなどのキノコ以外の可能性。新たな襲撃者の可能性も見ていた。
「その可能性はありそうね。これだけわかりやすくしているのだから、そうしている利点か理由が相手側にあるはずだし」
ライハルトのその意見にローザ達も共感した。
そしてその予想は当たっていた。
ほどなくしてライハルトが予想した襲撃者。
彼らの敵達がその姿を勇者達とは反対側の木々の間から現した。
「「「「「「げっ!?」」」」」」
それを見た面々はある程度予想していたとはいえ大きく顔をしかめた。
予想外の部分もあった為それも当然だが。しかも悪い方に。
「復活してくる可能性は考えていたけど、まさか増えてくるなんてね」
「普通に悪夢だな」
エミリアとライハルトの言葉に全員で頷いた。
なんせ先程死闘を演じた相手。
キノコの化け物ことモンストゥルの姿が目と鼻の先にあるのだ。しかもそれが複数。
生えているキノコの種類や位置などに違いはあるが、全体的なシルエットは全員同じ。それが目につく範囲だけでも十数体。
まともな神経。一般人なら絶望して自死を考えるような最悪の状況である。
「モンストゥル、お早い復活ね。それとも別個体とその群れなのかしら?」
エミリアはまず最初に目の前の連中。この中に自分達が倒した奴が混じっているのか確認しようとした。混じっていた場合、目の前のモンストゥル全員が復活出来る相手ということになってしまう。自分達と互角に戦える相手。それが複数もいて何度でもリベンジしてくる。じり貧になって敗北する未来以外思い描けなかった。
『否、否。我等は復活していない。我等は別個体でなければ、その群れでもない』
「「「「「「?」」」」」」
だがエミリアの問いにモンストゥルは否定で答えた。それも二回。そして復活していない。別個体でもなく、その仲間でもないと答えた。
それを額面どおりに受け取るなら、別個体ではないのだから少し前に戦ったモンストゥル本人?であり、復活していないのだから最初から倒しきれておらず逃げられていた。そして群れでもないと言っているのだから、今自分達の目の前にいるモンストゥル達は分身の類いではないかということをエミリア達は想像した。
「あれから逃げ延びた上に分身能力持ちとはね。なんでさっきは使わなかったのかしら?」
「俺達を舐めてたんじゃないか?実際、勇者二人以外はワンアクションで行動不能にしてきたんだし」
「それでライハルトさんの行動も制限してましたよね」
「勇者エミリアが来てくれなかったら普通に全滅していただろうな」
モンストゥルに舐められいたことに怒りを覚えるが、それのおかげで生き延びられた面もあるのでローザ達は複雑な気持ちになった。
『我等の寄り身の一つは滅びた』
『世界意思を発動させていたにもかかわらず』
『協力者の領域でぶざまを晒した』
『あの方の助言もあったというのに』
『お二方に顔向け出来ぬ』
『汚点は濯がなくてはならない』
『『『『『『今動かせる我等の全力を持って、お前達を排除する!』』』』』』
無数のモンストゥル達が同じようにそれぞれの霊言ダケで言葉を発する。その為勇者一行には一人のモンストゥルが一文一文言葉を分けて話しているように感じた。
そしてモンストゥル達と勇者パーティーとの第二ラウンドが始まる。
増援到着 戦力偏重
監視強化




