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第08話『スライムパニック』(1)

「駆け出しと言えば……スライム討伐でしょ!」


 ルクスがそう言った。


「うむ。たしかにそのイメージはあるな……」


 それにカグラが同意する。


「んー、俺も特には問題ないぞー」


「私も大丈夫ですよ! レイは?」


 ここはスライム討伐クエストで決定か……と思われたが――


「絶対に無理よ……だって、スライムは――強いもの。」


 女神様は初クエストで戦ったスライムがトラウマになっていたようだ。


「まあ、この体制になってから初のクエストだから、たぶん大丈夫だ――多分。」


「それもそうね! 私は後ろで応援してるから!」


 この女神……やっぱりクビにしたい。


 こうして、俺たちはスライム討伐へと向かうことになった。

 


――平原


「うおらああ! よしっ、一体やったぞ! そっちはどうだ!」


「こっちも大丈夫だよー!」


 短剣でスライムを斬りながら、ルクスが言った。


「こちらも問題ないぞ。」


 鉄球のようなものを振り回しながら、カグラも答えた。


「よし、ある程度倒したら、ルミネルの魔法で一掃しちまおうぜ!」


「はい! 任せてください!」


 ルミネルは杖をグルグルと振り回し、格好つけながら言った。


 ……あれ? 案外余裕なのでは? やはり、俺たちも成長しているのだ!


「タイガさーん! そろそろバフが切れちゃうから掛け直すわねー!」


 支援魔法だけは一丁前な女神が大声で言った。


「ああ! 頼んだ!」


 レイは俺たちへと手を向けて、魔法を唱えようとした。そのとき、急な突風でレイの手がズレた……それに気づかないまま――


「《パワフル》! 《ディフェント》!」


 その支援魔法は近くにいたスライムへとかかった。


「あ! おい、バカ女神!」


「し、仕方ないじゃない! 突風が吹くなんて、予想できないわよ!」


 レイの支援魔法を受けたスライムは……ぶよん、と嫌な音を立てて、表面が膨らみはじめた。空気ではなく、魔力が詰まっているような――そんな膨張だった。


「ちょっと! タイガくん!? これは不味くないかな!?」


「あ、ああ、ルクス。私も、あれはまずい気がするぞ!」


「た、タイガ! ぶっ放していいですか!?」


「ちょ、ちょっと! い、一旦! お、お、落ち着こう!」


 阿鼻叫喚。まさにこれのことを言うのだろう。かく言う俺も全く落ち着いてない。


 高さ十メートルほどは軽くあるのではないだろうか……小さなスライムは巨大な体へと変貌した。一歩一歩がズドンと地面を揺らし、スライムの振動で風が吹く。


「て、撤退!」


「え、ちょっと待ってください!? あんなの走ってもすぐ追いつかれますよ!?」


 ルミネルが半泣きで叫ぶ。


「ま、待って! あれ、動き遅いかも!?」


 ルクスがスライムを見ながら言った。


「このまま距離取って魔法で削るしかない!」


「任せてください! ――《ラディアント・バースト》!」


 いつものお馴染み詠唱。

 だが、スライムの表面に張られた魔法バリアに弾かれて、爆光が空へ逸れる。


「うそ……魔法耐性まで上がってる!?」


 全員がポンコツ女神へと視線を向ける。


「なんか……ごめんね!」


「おい神いい!!」


 もう完全にカオス。

 逃げる、撃つ、逃げる、爆発。

 その中でルクスがふと地面を蹴って、影に潜り込んだ。


「タイガくん! あのスライムのコア、背中にある! 僕が囮になるから、スキルで狙って!」


「無茶するな! もうちょっと作戦をだな……」


「シーフに無茶は褒め言葉だよっ!」


 白煙のように姿を消し、スライムの背後に回るルクス。

 スライムは周りをキョロキョロと見渡している。

 俺は深呼吸して――


「……ライトフィンガー!」


 スライムのコアが吸い取られるように右手に収まった瞬間、巨大なスライムが、風船がしぼむようにしゅううう……と消えていく。


「ふう……終わった……?」


 全員がへたり込む。


 レイが恐る恐る近づいてきて――


「ねえ、ほら、言ったでしょ……スライムって強いのよ……」


「お前が!」


「レイが!」


「レイさんが!」


「お主が!」


「「「「強くしたんだよ!!」」」」

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