突然異世界召喚されたので国王殴って逃げてみた。
自分を召喚した国王をぶん殴った人のお話です
平々凡々という四字熟語がある。
際立って優れている点も変わった点もないありきたりな様を表す。という有名な四字熟語だ。正に俺の人生そのものの様で、そして平凡な人生を愛する俺にうってつけの言葉だ。座右の銘にすらしている。
だが俺の愛した「平凡」な人生のレールは、知らぬ第三者によって強引に歪に曲げられてしまった。
「っ……?」
目を薄っすら見開くと、そこは白亜の宮殿だった。
周囲には一定の距離を保つように鎧やドレスを着た人々が自分を囲うように立っている。見える人々の表情は明るい。
宮殿の窓から覗く空の色は退社時の夕方ではなく、雲一つない青空が見えた。
時代錯誤の恰好をした人々。異なる時間軸。それらは全て俺――春日井 迅人が異世界に招かれた事を示唆していた。
(ああ、俺は本当に異世界召喚に巻き込まれたんだな……)
俺の前に一人の老人が進み出る。金銀の精緻な首飾りに絹のような光沢を放つ布地に金糸の刺繍が入ったいかにも高そうな衣服を着た老人だ。
老人は歓喜の表情を浮かべながら大仰に手を振り名乗り始める。
「――おお、私の召喚に応えし異世界の者よ。私はこのグザリア王国の国おガァッ!」
「っしゃあああ!!!」
俺はぶん殴った。なんの躊躇いもなく、全力で。
右ストレートを直で喰らった国王らしき老人は軽く吹っ飛んで床に倒れた。願うならばそのままくたばれ。
「「「!?!?!?」」」
そこにいた俺以外の全ての人間があっけにとられる中、俺は逃亡を図るため宮殿からの脱出を試みる。
「《加速》」
「「「な!?」」」
神速、そう言えるほどの速さで俺は宮殿内を突っ切る。なるほど、確かにあの自称神が言った通り人の域を超えている。ついでに障害物を自動で避ける機能までついている新設設計だ。
――俺が異世界に召喚される少し前、俺は真っ白な空間にいた。
「もう元の世界には帰れないんですか」
俺の問いに、自分は神だと名乗った白い人の形をしたナニカが答える。
『ああ、申し訳ないがここに来てしまった時点で君はもう元の世界には帰れない』
「……それは神を自称するあんたでもか?」
『すまない。私の役目は君に異世界でも生きれるよう恩恵を授けること。それ以外の権限は私にはないんだ』
「ふ~ん……」
俺は表向きは平然を装っていたが内心では怒り狂っていた。
(もう元の世界には帰れない? ふざけんなよ!? それはどんな冗談なんだ!?)
ずっと待ち望んで来週発売のゲームの新作は? 毎日の楽しみにしてた動画配信も見れない? 大好きだった祖母のお墓にもう手も合わせに行けない!? もう親の顔を二度と見ることができない!? ふざけんなよ! そんな、そんな事ってあるかよ……!
どうして俺なんだと、堂々巡りになる思考の反面、その心は驚くほど落ち着いていたのを覚えている。
「……それで、恩恵とは?」
『ああ、恩恵として一つ、人の域を超えた力を君に授けよう』
「人の域を超えた力……」
『そう、人など簡単に壊せてしまう圧倒的な膂力。人の心を自由に覗き見ることができる心眼。数多の魔法を自在に扱うことのできる七色の魔力。なんでもだ』
それを聞いて面白い案が一つ浮かんだ。
先のことなど考えていないやけくその行き当たりばったりの案だ。
今思い返してみればもっといい恩恵にすればと良かった思う。
「じゃあ。俺にどんな生き物でも化け物でも決して追い付けない……《速さ》をくれ」
本当にもっとよく考えれば良かったと思う。でもその時俺は――
『ふむ……本当に《速さ》で構わないのかね?』
「ああ」
その力があれば。
『分かった。君の願いに応じてどんな生き物でも化け物でも決して追い付けない《速さ》を授けよう――』
俺を召喚した奴をぶん殴って逃げられる――
そう思ってしまった。
(今にして思えばよく国王の顔にピンポンダッシュが成功したな)
晴天の下、俺は草原一服していた。視線の先には一つの都市をぐるりと囲む外壁が見える。
結論から言うと逃げれてしまった。
理由は簡単、俺が速かったから。
すぐ追ってきた兵士よりも速かったから。
俺が逃げたと、捕えろと都市の兵士たちに命令が下されるよりも俺が速かったから。
門番が待ったをかける前に一瞬で門を潜り抜けるほど俺が速かったから。
「フ―……さてと、それじゃ行きますかね」
名残惜しそうに隆志は吸い殻を携帯灰皿に入れる。
久しぶりに定時で仕事が終わり、意気揚々と帰路につこうとしていた直後召喚された隆志はスーツのまま異世界に来ていた。
煙草も今の手持ちで最後だろう。
まさかこんなことで禁煙をする羽目になるとはなと、隆志はくくっと自嘲気味に笑いながら草原を歩いてった。
◆◆◆
その晩、隆志は焚火を囲んでいた。焚火と言っても集めた小枝を持っていたライターで燃やした極簡易的なものであったがないよりはマシといった所だ。
「……」
隆志はパチパチと火花を散らしている焚火を呆然と眺める……訳ではなく隆志の視線はその先ににあった。
淡い焚火の光に照らされてるのは13~15歳ほどの少女だった。体育座りで地面に座っている少女が身にまとっているのは布切れの簡素な服で今はその上に隆志のスーツの上着を羽織っている。
ぼろぼろの布切れの服、手入れのされてないのが一目でわかる艶を失ったぼさぼさの髪、肌も荒れている。とてもじゃないが人並みの扱いをされてるようには見えない。
「……」
「……」
気まずい沈黙の中に焚火の音だけが響く。
(流れで連れてきてしまったがどうするか……)
《加速》で追ってを警戒して全力で山中を駆けていた最中。ほとんど原型が分からない馬車と目の前にいる少女を発見し流石に見捨てるわけにもいかず連れてきてしまったのだ。
「……」
「……」
焚火と少女を交互に見ながら迅人は冷や汗を流した。
彼に初対面の、それもボロボロのいかにも奴隷といった風貌の少女に対する接し方など欠片もわからない。まずこれは少女誘拐なのではという不安と、そもそも奴なら持ち主がいるのではという不安が脳内で渦いて――
ぐうぅ~
「!?」
腹の虫が鳴る音が聞こえた。この場には自分と少女しかいなく、自分の腹の音でないことから必然的に――。
その思考に至った瞬間、迅人はこれだ!と鞄を漁った。
「確かここら辺に……」
鞄から出てきたのは……カロリーメイトだった。
いつでも小腹が減った時に食べれるように常備していた迅人のたばこに次ぐ相棒である。
それを迅人は頬を染めてうずくまる少女に包紙から取り出し差し出した。
「お腹が減ってるなら、食べる? 毒はないから、多分……」
カロリーメイトが異世界では毒の可能性があるのではと一瞬、不安が過る。
大丈夫だよな? 仮にも栄養調整食品だし……。
「……」
少女は差し出されたカロリーメイトを警戒の眼差しで見るだけで受け取る気配はない。
このままだと焚火であぶられて炙りカロリーメイトになっちゃうんだけど。
「……」
「……ま、しょうがないか」
やっぱり警戒して食べてくれないか、と諦め腕をひっこめようよした時――
ぐぎゅるうう~
一つ大きく腹の音がなった。
そして俺の右手にあったカロリーメイトが消えていた。
はっと前を見ると――
「んん~~!!!」
少女は美味しそうにカロリーメイトを頬張っていた。
カロリーメイトが異世界の住人と俺を繋ぐ懸け橋になった奇跡の瞬間だった。カロリーメイトは希望だった?
それから少女は俺の持ってるカロリーメイトを全て食べて寝てしまった。
「一本くらい残してくれよ……」
すやすやと寝息を立てる少女を前に泣き言を零しながら迅人は夜通し焚火の番をした。
◆◆◆
朝、迅人たちは焚火などの始末し、今まさに旅立とうとしていた。
「あの、ハ…ヤト?さんはなんで私を助けたの? 何か目的があるの?」
おずおずと少女が問いかける。ついさっき名前を教えてもらったばかりで呼び方はたどたどしい。
少女の問いに、迅人は少し考える。
(目的……か)
元の世界への未練はもちろんある。身勝手な召喚をした奴に対する復讐心も……ある。だけど、その前に俺にはやらなくちゃいけないことがある。
「そうだね……まずは君を平和に暮らせる所に送り届けるのが目的かな? ということでどこか良い所知らない? おじさん、ここら辺のこと何も知らないんだよね」
保護した少女を責任をもって平和に暮らせる所に送り届ける。それが大人として、まず俺がしなければいけないことだから。
「! ……じゃあ、じゃあアガレルドっていう町に行きたいっ!」
「アガレルド……よしっ、じゃあまずはそこに行こう。ちなみに向きは?」
「多分……あっち!」
なるほど、全く分からん! とりあえず行ってみればわかるか。
「よしっ! じゃあ出発進行だ!」
「へ?」
そう言って少女を抱える。少女は困惑するがそれも次には消し飛ぶだろう。
「一応、舌噛まないように気を付けてね――《加速》」
「――ぴゃああああああああああ!?!!????」
こうして壮絶な少女の悲鳴と共に、俺の異世界ライフが始まった。





