表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/27

デッドエンド寸前の悪役令嬢、特撮ダークヒーローを召喚し悪の秘密結社を結成す!

 悪役令嬢アンジュが前世の記憶を思い出したのは王太子から婚約破棄されたその瞬間だった。

 ついでに過去の悪行も暴露され兵士にも囲まれ、デッドエンド寸前!

 前世の記憶によれば、このあと助かる見込みなし!


 しかし彼女はそこで突如、自分こそ悪の組織の首領であるとカミングアウト。

 さらには自分に害が及べば配下の部隊がこの場を襲うぞと逆脅迫。


 皆が固まったところを優雅に立ち去りつつ、そのまま逃亡する。

 当然、全部嘘っぱちっすよ!


 追い詰められたアンジュは異界の英雄を召喚する。

 そして現われたのは前世で大ファンだった特撮番組のダークヒーローだった。

 アンジュに生き残る方法を問われ、彼は言った。


「世界を征服して逆らう者がいなくなれば、生き残れるぞ」


 かくして、アンジュは本当に悪の秘密結社を結成してしまう!

 今ここに、生き残りを賭けた悪役令嬢の悪の首領ライフがスタートする!

「アンジャスティナ・マリス・ジオサイド・ヘルスクリーム公爵令嬢! 王太子たる我が名において、今ここに貴様との婚約の破棄を宣言する!」


 その声は、大勢が集まるパーティー会場に朗々と響き渡った。


 …………え?


 私は、その声に驚きながらも、周囲に目をやった。

 大きくて、広い空間。華美で壮麗に過ぎるここは離宮の大ホール。

 そこに、着飾った令嬢や貴族子息が集まり豪勢なパーティーが催されていた。


 …………は?


 そんな、ゲームやらマンガやらでしか見たことがない光景に、私はまた驚く。

 驚かないはずがない。だって、今は21世紀の日本で――、


 いや。違う。


 ここはイーリシア大陸最大のアレスティア王国の王都アレスティオン。

 そして私は、王国貴族筆頭ヘルスクリーム公爵家の令嬢アンジャスティナ。


 の、はずなのに、どうして日本の女子高生の記憶なんてあるのよ!?


 前世? 前世ってヤツなの?

 今この瞬間、公爵令嬢アンジャスティナが、前世の記憶を取り戻したの?

 って、アンジャスティナ? アレスティア王国?


「ここ〈七つの月のエトランゼ〉の世界だァ――――ッ!!?」


 気づいた私は、思わず絶叫してしまった。


「な、何だ……!?」


 私に向かって婚約破棄の宣言を突きつけた金髪の貴公子が、驚きに震える。

 前世の記憶が確かなら、彼はこの国の王太子アレル。

 初代国王と同じ名を持ち、将来この国に空前の繁栄をもたらす王となる人だ。


 何で私が、そんなことまで知っているのか。

 それは、この世界が乙女ゲーム〈七つの月のエトランゼ〉の世界だからだ。

 アレル王子はそのゲーム内のメイン攻略対象なのである。


 そしてこの場面は、アレル王子ルートのクライマックス。

 主人公の少女マナをいじめ抜いた悪役令嬢がついに断罪されるイベントだ。


 断罪されるのはプレイヤーからのヘイトを一身に集める悪役オブ悪役。極悪無比の悪役令嬢アンジャスティナ・マリス・ジオサイド・ヘルスクリーム!


 つまり私だよ!


「あの、アレル殿下……」

「衛兵、この女を囲め! 微々たる動きも見逃すな!」


 私が言い訳をする前に、王子に命じられた衛兵が私を取り囲んだ。

 うんうん、そうだね、そういえばそういう流れだったよね。


「アンジュ、おまえがこれまで行なってきた所業は全て掴んでいる」


 言う王子の隣には、黄色のドレスを着た桃色の髪の少女、主人公のマナだ。


「マナに対するむごい仕打ちのみならず、国の公金を横領していたとはな」


 はい、そうですね。やってましたね。


「その他にも、わざわざ民を苦しめるために不要な重税を課していたことも」


 はい、ありましたね。それもやってましたね。


「さらには東の隣国に武器を横流ししていた事実、もはや度し難い!」


 うーん、内通ですねー。

 普通に考えて、極刑あるのみですねー。


 でも待って、違うの! それやったの私じゃないの!

 あ、私だけど前の私っていうか……、と、とにかく違うの!


「アンジュ様、もう、終わりにしましょう?」


 動けない私に、マナが一歩近づいてくる。

 あ、これ。マナが、涙ながらにアンジュを説得するシーンだ。


 ちょっと待って。

 このシーン、本当の本当に王子ルートのクライマックスじゃん。


 これが終わったらもうあとはエンディングだけ。

 そのエンディングで、結局アンジュは罪が大きすぎて処刑されてしまうはず。


 あれ、私、もしかして詰んでる?

 もう死ぬしかないタイミングで前世の記憶、蘇っちゃった?


 イヤァァァァァ! タイミング最悪過ぎるゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!


 私が頭を抱えると、周りの貴族子女達がザワついた。

 その中には、これまで私に媚びへつらい、おもねってきた取り巻き達もいる。

 が、誰も私を助ける気なんてなさそうだ。巻き込まれたくない一心だろう。


「アンジュ様……」


 そんな中で、唯一、マナだけが私をまっすぐ見つめてくる。

 両手を祈りの形にして、彼女だけが打ちひしがれる私を案じてくれていた。


 私、知ってる。これ、イベント中に一枚絵で表示されるところだ。

 極悪なアンジュが、マナの優しさに心打たれついに己の罪を認めるシーン。


 このあと、アンジュは大人しく捕まって、でも結局処刑されてしまう。

 ゲームの中のアンジュは、それを受け入れていた。己の末路に納得してた。


 でも、私はイヤだ。まだ二十歳にもなってないのに、死ぬのはイヤ。

 マナが、私に近づいてくる。それは、私の死への導火線だ。


 このままじゃ、イベントが終わって私は兵士に捕らえられてしまう。

 マナが近づくまでの短い時間が、私にとって残された唯一無二の執行猶予。

 イヤ、死にたくない。どうすればいいの、アークムーン様!


 このとき、私の頭に浮かんでいたのは〈エトランゼ〉と共に、私の心の支えになっていた日曜朝の特撮番組〈太天烈騎ガンライザー〉に登場する一人の戦士だった。

 主人公の好敵手にして孤高のダークヒーロー、アークムーン。

 彼ならば、きっとこんなとき――、


「……あ」


 このとき、私の脳裏に閃きが奔る!


「アンジュ、様?」


 一声漏らした私をいぶかしみ、マナが歩みを止める。

 その瞬間を私は見逃さない。賭けに出るなら、今まさにこのときだ!


「オホホホホ、ホーッホッホッホッホッホッ!」


 兵士達に囲まれながら、私は立ち上がり、手の甲をあごにあてて高く笑った。


「これで私を追いつめたつもりですの? まだまだですわね、殿下!」

「何……、どういうことだ!」

「あなたが掴んだ証拠など、所詮はこちらが予め用意していたものに過ぎないのです。あなたは、私の掌の上で踊っていたに過ぎないのです!」


 嘘です。

 全部、しっかり本物の証拠です。


「僕が踊っていたに過ぎないだと……!」

「ええ、そうですわ。この程度では、私を追いつめるにはまるで足りません」


 嘘です。

 限界ギリギリです。吐き気すごいし、胃がキリキリして泣きそうです。


「バカな、今のおまえに何が残されていると!」

「ヒントを差し上げましょう。この国の西側には、何がありますでしょうか」


「西には魔族の領土〈漆黒領〉が……、まさか貴様、魔王と!?」

「殿下のご想像にお任せしますわ」


 嘘です。

 魔王なんか会ったこともないし〈漆黒領〉なんて行ったこともありません!

 でも今は使えるものは何でも使うしかないのよォ――――!


「魔族との密通など それがどれほどの大罪かわかっているのか!」

「勘違いなさらないで、殿下。魔王など、私の指の一本に過ぎないのですから」


 また高笑いするアンジュ。絶句する王子。

 一方、アンジュの中身である私は、それはもう大変なことになっていた。


 うっぷ。

 吐き気すごい。胃の中がぐりゅんぐりゅんしてる……。


 でも、死にたくにゃい。生きたい。

 だから必死に高飛車ロールプレイうっぷ、ぐぇー。


「アンジャスティナ、おまえは一体、何者だ!」

「よくそお聞きになられました、殿下。今こそ名乗りましょう。私の名はアンジャスティナ、悪の組織ステラ・マリスの女首領ですわ!」


 ここぞとばかりの名乗り口上。

 手足の角度一つに細心の注意を配りながら、私は悪の女首領を演じる。


「ステラ・マリス……、何だそれは!?」

「いずれこの大陸を制覇する秘密組織。魔王軍はステラ・マリスの配下です」

「……バカな、そんなもの、あるワケが!」


 はい、ありません。

 ステラ・マリスは〈ガンライザー〉の敵組織名です。あるワケないです。

 でもこれだけハッタリかませば、驚くよね。隙もできるよね。


 すかさず私は懐から小さな本を取り出し、皆に見せつけた。

 念じると本は輝きだし、アレル王子がまた驚く。


「魔導書か!?」

「これは遠隔念話の書。今までの話は全て、この書を通して筒抜けですわ」


「筒抜け? 誰にだ!」

「無論、この宮殿の近くに潜ませている配下に、ですわ」


 私の言葉に場が騒然となるけど、当然、嘘です。

 これは確かに魔導書だけど遠隔念話の書じゃないし、配下なんていません。


「おわかりですね、殿下?」

「……貴様を捕らえれば、この場に貴様の配下が押し寄せる、と」


「さすがは建国王の再来と呼ばれたお方。理解が速くて助かりますわ」

「そんなハッタリなどに……ッ!」


 そーですよ、ハッタリですよ。バレたら私は死、あるのみだよ!

 でも、このハッタリ、何も勝算がないワケじゃない。


 この場にはマナがいる。

 ルート終盤の王子が、彼女を傷つけるかもしれない選択などするはずがない。

 その一点読みだけが私が死の運命を回避しうる蜘蛛の糸。


「…………くっ」


 果たして、私は賭けに勝った。

 王子は悔しげに呻くが動かない。私を囲む兵士に命令もしない。

 完全に硬直した場で、私だけが動いて、王子に向けて軽くお辞儀をする。


「それでは、殿下、またいずれ」

「アンジュ……ッ!」


 王子が私の名を呼ぶ。しかし、マナがいる以上、彼はもう私に手を出せない。

 私は踵を返すと、ゆったりとした足取りで威風堂々、会場を出ていった。


「退路がないなら進路を往けばいい。実に簡単なロジックだ」


 それは〈ガンライザー〉27話に出てきたアークムーン様の名言だ。

 ありがとうアークムーン様! 何とか生き残れました! 全然簡単じゃなかったけど!

 と、いうワケで――、


 全速力で逃げるのよォォォォォォ――――ッ!!!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ 第11回書き出し祭り 第4会場の投票はこちらから ▼▼▼ 
投票は1月9日まで!
表紙絵
― 新着の感想 ―
[一言] 悪役令嬢ものと秘密結社ものを組み合わせる発想、めちゃくちゃ良い! 作者さんは天才か! 主人公が秘密結社の女首領と偽るだけで話としては展開できそうだけど、ダークヒーロを召喚したのは作者さんの好…
[良い点] 思わずクスッと笑ってしまいました。 悪のロールプレイが上手いなあ!! 応援したくなる主人公ですね。 多くの人に読まれますように。
[良い点] タイトル。こういうはちゃめちゃなの好きです!どんでん返しというか、いやそれ卑怯だろ!という手を堂々と使って君臨していただきたい。ぜひとも、悪役令嬢さまの考える好い会社を見せてもらいたいです…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ