31.夜会最終日
「ごきげんよう、女王陛下」
「あぁ、王女殿下か。今夜も盛況だな」
夜会三日目。今日の夜会を終えて翌朝エスラニアの女王たちは帰国する。夜会と言いつつも、明日に備えて今日は夕方に行われているから、お茶会のような雰囲気だ。薄暗い庭園に灯りが灯され、どこか幻想的な雰囲気がする。
腕にユリンスをぶら下げ、女王陛下が闊歩すると、自然と道が開ける。無駄に難癖をつけられたくない国が多いのだろう。
「そうですわ。今日は少し変わったお茶をご用意いたしましたの」
そう言って王女殿下が茶を取り出す。ポットから注いでもらっているが、先に注いだ王女殿下の物と、後に注ぐ女王陛下のものは種類が違うらしい。仕組みはわたくしにはわからないが。
「このお茶、こうやって口をつけて一口飲むと色が変わることがありますの」
王女殿下が一口飲むとお茶が真っ青に変わる。王女殿下のお茶は酸っぱいものに反応して変わるらしい。そのためだけに今日、王女殿下は口紅に酸っぱいものを使っているのだ。ただ、女王陛下に注いだお茶は、かの病気に感染した場合、色が変わる仕様らしい。ちなみにこれも王女殿下が開発したものだそうだ。毒味役用には色が変わっていないのがわからないようにごく少量、女王陛下は興味深そうに口をつけた。
「おぉ! 青く変わったぞ!」
嬉しそうにお茶を口に運ぶ女王陛下に、王女殿下も嬉しそうに笑った。
「よかったですわ。たまに色の変わらない方もおいでと聞いたから、安心いたしましたわ」
「そうなのか。これはまだあるのか? 国に持ち帰りたい」
女王陛下は味もかなりお気に召したようでそう言うが、王女殿下が困ったように首を振った。
「まだ、栽培に成功していないそうですの。これが城内でも最初で最後のものですわ。遠方のとある国から特別に譲っていただいたものですから」
王女殿下の言葉に、残念そうにしながらも、女王陛下は満足げだ。貴重なものを自分だけに融通したのが心地よかったのだろう。
「王女殿下は見かけによらず、骨のある女だな」
「まぁ! エスラニア王国の女王陛下にそのように言っていただけるなんて、光栄ですわ」
はにかんだように笑う王女殿下の愛らしさにユーリンは失神寸前だ。侍女長も目を見開いている。王女殿下のそんな表情を一秒たりとも見逃さないと言う根性を感じる。……王女殿下のあの表情はきっと作られたものだから、お願いすれば後から同じ表情くらいしてくれるのではないかとわたくしは疑問に思いながら、ユリンスの様子を観察する。誤魔化しているが顔色は以前より悪く見える。痩せたというよりもやつれている気がするが、初見の人にはわからないだろう。この場で以前のユリンスを一番見たことがあるのはわたくしだ。事前に王女殿下に渡されたチェックリストは脳内に叩き込んである。一項目ずつ確認して、余命を予測する。もって三ヶ月、短くて一ヶ月……くらいと判断した。実際には、わたくしの埋めたチェックリストを王女殿下が確認して、しっかりとした判定を下す予定だ。
ちなみに、この病は感染してから適切な治療が行われなかった場合、致死率は十割近いと聞いている。適切な治療をできるのは現状王女殿下の開発した薬のみで、国内外にそのことは公表されていないという。治癒魔法もこの手の病は専門外だそうだ。普通、感染した相手と何度も閨を共にしないとうつらないと聞いたが、女王も運が悪かったんだろう。そう思って、王女殿下を見ると、優しく微笑まれた。なにその意味深な微笑み。こわい。理由がわからないけど、この世の全ての生殺与奪を握っていそうな王女殿下、こわい。
今日、女王の感染が確認できたから、女王ももって半年だろう。自身が感染しても感染相手と閨を重ねるほど症状が進むのが早くなると王女殿下がおっしゃっていた。……王女殿下が先日デスラントに指示を飛ばしていたエスラニア王国解体の手続きは現実のものとなりそうだ。……え、王女殿下って無敵すぎない? 我が主人ながらこわい。
歓談した女王が満足げに歩いていくのを見て、王女殿下が笑って口元を拭いた。
「あら、紅が取れてしまったわ。控え室で一度塗り直したいわ」
「承知いたしました。王女殿下」
侍女長を始め、わたくしたちは王女殿下の声掛けに応じて移動した。わたくしは王女殿下の後ろだ。報告があるから。




