24.夜会③
「お待たせいたしました、ユリンス」
王女殿下が現れた時、ユリンスと女王の距離はかなり縮まっていたように見えた。テラスのベンチに腰掛け、隣同士に座って語り合っていた様だ。王女殿下が戻ってきたことに気がついた従者の顔は、蒼白だ。ベンチには食べかけのスイーツが並ぶ。
「そちらのデザート、美味しいでしょう? おすすめなのです。お気に召していただけたなら、またお持ちいたしますわ」
笑った王女殿下が手を伸ばし、名残惜しそうなユリンスがエスラニアの女王を振り向きながら立ち上がって王女殿下の手をとる。
「……彼は王女殿下の婚約者なのだろうか?」
メチウス姫の婚約者を奪い取って、国内外からかなり批判を受けたらしいエスラニアの女王は慎重だ。批判を気にするタイプには見えないが、相当めんどくさかったのだろう。物欲しそうにユリンスを見つめ、ユリンスと視線は絡み合うが、手は伸ばさない。
「いいえ。まだ違いますわ」
王女殿下はそう笑って、室内に戻る。数歩進んだところで後ろを振り返った。
「わたくしもそろそろ婚約者を、と思っておりますが……本当のわたくしの好みは、もう少し大人しい顔立ちの方ですの……女王陛下のおそばにいらす従者の方のような」
エスラニアの女王は勢いよく従者の方を向き、にやりと笑みを浮かべた。手に取るようにわかる。従者とユリンスを比べ、どちらがほしいか考えたのだろう。
「ユリンスは学園での成績も優秀で……ちょうどよかっただけなのです」
いつの間にか王女殿下はユリンスの手を離し、エスラニアの女王の横に戻ってきていた。そして、耳元でそう囁いてユリンスの元に戻った。
破顔したエスラニアの女王に、お前など不要だと騒がれた従者が、女王を落ち着かせようと必死になる。ただ、いつも血の気の多いエスラニアの女王がいつも以上に騒ぎ続ける。変なものも何も食べていないのに。王女殿下はその様子を見て、笑みを浮かべて城内に戻った。そして、ユリンスを衛兵に引き渡した。
「わたくしのエスコートは本日はもう不要です。先に戻っていなさい」
「え、王女殿下? なら、エスラニアの女王と話をさせてください!」
そう声を上げるユリンスを振り返ることもなく、王女殿下は会場のざわめきに消えていったのだった。
「え!? 王女殿下、あの従者のことも欲しがっているの!?」
会場から使用人棟に戻り、ユーリンに告げると、ユーリンが驚いた様に振り返った。そして、悔しそうに顔を歪める。
「絶対にわたくしの方が王女殿下のお役に立つのに! 優秀な人材だからってすぐにお拾いになって! 悔しい! きぃ!」
若干……いや、全力で引きながらユーリンに問う。
「でも、かなり優秀ですよね。実際、エスラニアの内政を回しているのって、ほぼ彼のようなものじゃないですか?」
「それはそうよ。でも、ザシュリアがさっき言った内容には、奴が“王女殿下の好み”として公表されそうな感じだったでしょう!? あんな敵国従者よりもわたくしの方が絶対いい男なのに!」
「女でしょうが」
どの視点で文句言ってるのやらと思いながら、お茶を飲む。個室の会話は、外国の影には正しく聞こえないらしい。だから、好き勝手話しても問題ないそうだ。そんな魔術具を使用人棟全体に置いていると聞いた。万全な警備態勢すぎて、少し怖い。
「あーあ。王女殿下の横に立つお方は、完璧超人じゃないと絶対に許せない」
「あの、ユーリン先輩。それって国内にいます?」
「いない」
「国外の嫡男以外でいます?」
「いない」
「となると、王女殿下は国外に嫁ぐことになりませんか?」
「ああぁぁぁぁ! だめぇぇぇ!」
叫ぶユーリンの声の直撃を受けぬ様、耳を塞ぎながらしばらく耐えた。
「王女殿下を国外に出すことは絶対に国王陛下はなさらないですよね」
「それはそうだし、出したら国王陛下といえども絶対に許せないけど、王女殿下に相応しい男がどこにもいない」
うだうだ言い続けるユーリンに、着替えを押し付けてわたくしは部屋を追い出す。
「じゃあ、伝えたかったことは伝えたので、おかえりください。わたくし、明日も元気に王女殿下の夜会姿を目に焼き付けたいので」
「うわぁ、帰ります! わたくしも目に焼き付けるもの! ……最後に、王女殿下同盟だけは結びましょう?」
わけわからないことを言うユーリンに了承しながら煽って追い返して、わたくしも就寝する。
よし、明日も王女殿下のお心に見合う行動を取れる様に頑張ろう。




