23.夜会②
「侍女長、少しよろしいですか?」
今のわたくしのタスクとしては、
・エスラニアの女王の従者の引き抜き
・エスラニア女王とユリンスの運命の出会いの流れの演出
・フィネニルスのメチウス姫への根回し
これくらいだろう。従者の引き抜きの方向性について、侍女長に相談しなければならない。今もなお、感じる彼からの視線を気づいていないふりをして、侍女長との関係も良好な場面を見せねばならない。
「何? 緊急かしら?」
侍女長に笑顔で頷くと、視線を感じた侍女長の目が一瞬彼の方に向かう。わたくしが笑みを深めると、すぐに事態を察した様で、無表情な侍女長が精一杯の笑みを浮かべている。逆に怖い。ここは素直に怖いと伝えよう。
「侍女長、その無理矢理作った笑顔、怖いです」
軽く拗ねた様子の侍女長に、脇腹をこつかれる。仲良く見えているだろう。彼の目が見開いた様に見えた。侍女長は、侯爵家の令嬢だ。エスラニアではありえない関係性だろう。
「王女殿下が欲しがっておいでです」
わたくしの簡潔な単語で理解した様子の侍女長が、何やら考え込んだ。
「彼……エスラニアの元フェスニア子爵令息よね。爵位は継げなかったようね。だから、王宮内での身分はとても低く、高位の方々からの仕事を押し付けられているわ。そして、手柄は全て奪い取られているはずよ。このことに気がついている人は、エスラニアにはいないそうね。確かにさすが王女殿下が目をつけただけある、いい人材ね」
侍女長が顎に手を当ててぶつぶつと唱える内容は、わたくしの調べた内容に相違はなかった。
「あと、特に愛国心が高い様子もなく、家族も皆亡くなっていて独り身です。大切な方や親しい方もいらっしゃらないはずですわ」
わたくしの言葉に、薄く笑みを浮かべた侍女長が、わたくしの頭を軽く撫でる。
「よく調べてあるわね。それで、どこまで済んでいるの?」
「王女宮並びに王宮の勤務体制のメリットのPRは終えてあります。喉から手が出るほど羨ましそうな表情を浮かべておいででしたわ」
わたくしの言葉に頷いた侍女長が、あとは任せなさいと言った。どうせ、エスラニアの女王とユリンスを二人きりにしたい。彼は一度引き離す機会を持ちたい。それはきっとエスラニアの女王も同じ気持ちで、彼を贄に捧げてくれるだろう。
「ごきげんよう。メチウス姫。……体調はよろしいかしら?」
王女殿下が挨拶に向かわれたメチウス姫は、髪は雪の様に真っ白に輝いており、儚げな妖精のような外見の持ち主だった。アイシャンデルク王家の印、金髪にアメジストのような瞳の王女殿下と並ぶと、王女殿下の人外の様な美しさも相まって、まるで妖精の姫と精霊の王女だ。儚げなメチウス姫は婚約者を失った心労だろうか。今にも倒れそうな顔色をしているように見える。初対面のわたくしですら分かるくらいなのだから、誰から見ても明らかに体調が悪い。
「えぇ、ありがとうございます。わたくし、少しでも彼の姿を見られたらと思って来たのですが……」
表情が曇るメチウス姫の髪飾りを直すふりをして王女殿下が何やら囁いた。パッと顔を上げたメチウス姫が、目を潤ませながら王女殿下にお礼を言う。この間、侍女長がエスラニア側の視線を見事に遠ざけており、王女殿下とメチウス姫のやり取りに注目している者は誰もいなかった。
「……そろそろ戻ろうかしら」
王女殿下のお言葉に、わたくしは首を傾ける。あの二人が親密になるにはまだ早くないか? そう不思議に思ったわたくしの肩を叩きながら、王女殿下が通りすがりに耳元で囁いた。
「最初の出会いは、少し物足りないくらいがいいのよ」
なぜか背筋がぞくっとした。もしかして、すべての出会いはこの方によって制御されているのでは? そんな疑問を抱き、慌てて首を振る。そして、微笑みを貼り付けて王女殿下の後ろに控える。
「夜会は今日含めて、三日もありますもの」
にっこりと笑みを浮かべた王女殿下の顔は恐ろしいほど美しかった。




