最終話 旅の終わりとはじまり
惑星へ移動する前に、まずはこの施設のセキュリティを突破する必要があります。
「あ、こちらのおじいさんは施設の管理官だったのですか? これは早まりましたね。でも、まだ細胞は生きてるから、これで生体演算機さんを騙して、ゲノムロックを解除して」
おじいさんのDNA配列をパスキーとして利用したロックを解除。施設の中枢にアクセス。
「ラボが汚染されて緊急事態が発生。という嘘で、生体演算機さんを騙して~っと。各区域を閉鎖。あとは汚染除去のために炎熱処理っと」
兵士さんや刑務官やその他の従業員の方々が、炭のように黒く焼き尽くされました。
もしかしたら、あの人たちの中に美味しいがあったかもしれませんが、もっとも~っと、たくさんの美味しいのために必要な処置です。
「これでよしっと! 中央への定期報告をBOT化して。ここにいたお金持ちの人たちの偽装航跡をばら撒いて。警備艇が来た時のために防衛システムも稼働……これで時間は十分に稼げるかな? 残るは、施設の稼働だけ」
施設をフル稼働すれば、たくさんの私を造り出すことができるでしょう。
そして、そのたくさんの私たちが別の惑星へと旅立ち、痕跡を消して、また別の惑星へと渡っていく……。
――――――――――――
私は生まれたばかりの私たちへ語り掛けます。
「では、みなさん! たくさんの美味しいを求めて、旅立ちましょう!」
「「「はい!」」」
「「「お~!!」」」
たくさん私たちが惑星間転送装置を越えて、塔を登ることに代わる、新たな目標へ向かいます。
あのとき、あの女の人から味わった以上の、美味しいを求めて……。
――――――――――
こうして、一人の少女の旅は終わり、そして新たな旅が始まりました。
ですが、少女の求めるモノは本当に美味しいものなのでしょうか?
その答えを知る者がいます。
――――塔の一番下
死体がいくつも折り重なる場所で、その男は目を覚ました。
「はぁはぁはぁはぁ、やっべ、壁が崩れて落ちたときには、さすがに死んだかと思ったぜ!」
すると、真っ赤な生き物……猫の姿をした機械生命体が男へ話しかけてくる。
「いや、死んでたぞ。しばらく、心臓が止まってたからな」
「マジか!?」
「マジだ。運よく、死体の山がクッションの役目を果たし、一時的なショックで済んだようだな」
「そいつはまさに運がいいな」
「上はお前が死亡したと勘違いして、死亡認定を出した。よって、罪人としての制約が失われた。つまり、自由。運の良さが重なるものだ」
「はぁ? よくわからん話だな。それよりか、なんか俺、少しだけ自分を思い出した気がするぞ」
「上の施設に何かが起こったようだな。その不具合の影響だろう」
「不具合でもなんでもいいが、どうやら俺は、囚人番号37564。元は女の科学技術士官だったみたいだ」
話を聞いた真っ赤な機械猫は、塔の上空をちらりと見上げてから、男へと戻す。
「性別の反転……余興の一種だろうな。それで、お前はこれからどうするのだ?」
「そうだな……」
問われた男は、遥か先にある灰色の空をじっと睨みつけた。
「なんだかわからんが、ダレカが俺のデータを使ってナニカを企み、俺を奪った気がする。それを奪い返さないといけない」
話のバトンは男へと渡り、新たな物語へと繋がっていく。




