第23話
不満に心を満たす私へ、しわくちゃの人と男の人が話しかけてきます。
「どうだ、自分を思い出したか?」
「調子はどうだい?」
「そうですね、なんだかいろんなことを知った気がします。でも、これだけじゃ足りません。もっと、知りたいことがたくさんあります」
「具体的には?」
「美味しいをもっと知りたいです!」
透明な強化ガラス越しに、二人は思わずずっこけそうな素振りを見せました。
「……何にも変わってないのではないか?」
「あれれ? 融合は成功したと数値的には出ているけど……あら、記憶に宿る知識だけが統合されて、人格データの方は壊れてる」
「それは、囚人番号37564の人格のことか?」
「はい」
「つまりこの子は、囚人番号37564の知識だけを獲得した幼い娘……というわけか」
「そうなると思います」
「ふむ、面白いことが起きるものだ。これは研究対象として実に興味深い」
「それはできないでしょう。前例にないことですが、罪を知らないこの子を囚人扱いするのは難しいと思いますよ」
「わかっている」
「では、この子どうします?」
しわくちゃの人……おじいさんがじっと私を見ています。
「そうだな。経過観察の上、問題ないのであれば施設へ預けることになるな」
「それは身寄りない子どもが集まる施設ですか? 知識は科学技術士官レベルなのに?」
「ならば、頭脳集団を育成する施設へ送る方が妥当か? ま、いずれにせよ経過観察の後だ。今は自由にしてやれ。ただし、機械類には触れさせるな。まだ完全とは言えないだろうが、元科学技術士官であれば、何をしでかすかわからんからな」
「わかりました」
「それと、今やこの娘は罪人ではない。適切な治療を受けさせろ。あのような原始的な処置のまま放置するわけにもいくまい」
「ええ、そうします。それじゃ、君。今から扉を開けるから、そのあとは外にいるおじさんの指示に従ってね」
「はい」
真っ白な部屋の分厚い扉が、音もなくゆっくりと開きます。
外に出ると、武装した兵士さんがいました。
私は兵士さんに向かって、にこりと微笑みます…………。




