第22話
私が答えを返すと、女の人は短く驚いた声を漏らしました。
「え?」
「私の今の楽しみは、色んな美味しいを知ることですから」
「あら、そうなの? だったら、その美味しいのために――」
「はい、そのために命を奪う必要もあるでしょう。でも、あなたは命を奪うこと自体が楽しいんです。だから、全然違います」
伸ばされた手を見つめていると、胸いっぱいに嫌な感情が満ちます。
「あなたは私にとって嫌な存在。そして、危険だと思われる存在。私の美味しいを邪魔する存在。だから、いらない」
私の右手に錆びたナイフが宿ります。綺麗なナイフの方が切れ味が凄いですが、でも、ずっと一緒だったこの子の方が愛おしいです。
愛おしい? 不思議な感情。
どこから湧いたのでしょうか?
私は女の人を見ます。
女の人を見ていると、色んな感情や……知識が頭の中に……。
嫌な人だけど、この人は必要。だけど、全部はいらない!
私は錆びたナイフを手にして、女の人へ襲いかかりました。
女の人の動きは緩慢で、まるで力を制限されているかのようです。
ですので、私のような子どもでも簡単に――お肉にできます!!
首を切りつけて、腹を刺し、心臓を穿ちました。
女の人はなかなかしぶとくナニカを叫んでいましたが、そんなもの無視して、腹部の傷口から指を差し入れて、おなかから柔らかな中身を取り出します。
柔らかなこれは……肝臓だ! そうだ、これは肝臓。今まで名前なんて知りませんでしたが、今ならわかります!
肝臓をパクリと食べました。
「~~~~~~~~!! 美味しい~~!!」
塔で騒がしかった人たちも美味しかったですが、この女の人はもっと美味しいです。
あまりの美味しさに、我を忘れて貪ります。
女の人は時折、「ちが」とか「だで」とか言っていましたが、やがては何も言わなくなりました。
お腹に詰まっていたものを全部食べてしまいましたが、まだまだ空腹は満たせません。
私は女の人の頭を見ます。
「脳は甘い味」
錆びたナイフの固い柄の部分で頭を何度も叩きます。
大人のお父さんでも、脳を取り出すのは大変な作業でした。
ですが、今の私の体には信じれないほどの力が湧いて、いとも簡単に頭の骨を叩き壊してしまいました。
血に染まり飛び出たピンク色の脳みそ。そう、これはピンクの色。色の名前も思い出しました。
ピンクを口に入れてます。
「ふあぁぁああ~、あま~い……」
その甘さは透明な液体――お水よりも、乾パンよりもずっと甘いもの。
私はさらに頭蓋骨を叩き割り、脳みそを啜ります。
「ずず、ずずずず、ずず~、美味しい! もっと、もっと、もっと美味しいを!!」
ここで、真っ暗だった世界が真っ白な世界へと変わりました。
私は眠っていたベッドから起き上がり、半端に終わった甘いに不満げな表情を浮かべます。




