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屍食い少女は永遠の塔を登る  作者: 雪野湯


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第20話

「あの、ここは塔のてっぺんなんですか? もう塔を登る場所はないんですか?」


 そう尋ねると、しわくちゃの人が目を細めました。

「いまだ塔を登ることに執着するか……ある意味、恐ろしいほどに無垢であるな」

「この子にとっては塔を登ることが全てで、他のことはどうでもいいのでしょう」

「ふむ…………囚人番号37564の人格データはあるのか?」

「それはもちろん」


「そうか。ならば、その人格データをこの子の脳に下ろすとしよう」

「どうなりますかね?」

「さぁな。どうなったところで、しょせんは大罪人、どうでもよいだろう」

「ですが、塔の登りきったことで罪は許され、自由になる権利を得ています」

「それは、己の罪を悟った者だけに対する処置だ」


「わかりました。では、記憶を戻すとしましょう」




 しわくちゃの人と男の人は、通路の奥へ一緒についてくるように言いました。

 私は二人にもう一度問いかけます。


「あの、塔はもう終わりですか?」

「ああ、終わりだ。ここが終着地だ」

「その通りだよ。だからもう、塔は登らなくていいんだ」


「そうなんですか……」



 塔を登る必要がない……だったら、私はこれから何をすればよいのでしょうか?


「私は……私は……」

「どうした、娘?」

「私の目的がなくなりました。塔を登る以外に何をしていいのかわかりません」



 私はとても怖くなって、涙が浮かびました。

 でも、涙を流すと大切な液体を失ってしまいます。

 だから、我慢しようと何度も涙を拭きますが、涙は止まりません。


 二人はそんな私を見ていました。

「ふむ、あまりにも無垢で、この私でも思わず同情しそうになるな」

「見た目が幼い少女というのもあって、余計にそう感じますね……なぁ、君?」

「グスっ、はい、なんでしょうか?」

「塔を登る以外に、何か興味のある物や楽しい物はないのかい?」

「興味? 楽しみ?」



 それは何でしょうか? 

 私は着ている服を見ます。

 見たこともない服に興味をひかれました。

 だけど、それだけで、楽しいとは感じません。


「楽しい……嬉しい? あ!」


 そうでした! 一つだけ、楽しいではないですけど、嬉しく感じることがありました。

 そのことについて男の人が尋ねてきます。


「おや、何かあるようだね?」

「はい! 美味しいを知りたいです!」

「美味しい?」

「上に上がるとお肉が美味しくなりました。だから、もっと美味しいものがあると思うんです」

「そうか、それなら美味しい物を探すことを目的にするといいよ」

「はい!」



 新しい目標が見つかりました!

 それは美味しいを探すことです。


 おかげさまで涙は無くなりました。代わりに、胸がとても賑やかに騒いでいます。



 そんな私を見ながら、しわくちゃの人は男の人に軽く首を横に振って、ナニカを話しています。

「余計なことを。記憶を戻せば、どうなるかもわからぬのに」

「いいじゃないですか。これで私たちの気が和らぐのですから……おや、そう言えば、君が持ってる袋はなんだい?」

「あ、これですか? 美味しいお肉と飲み物です!」



 袋の入り口をぺろりとめくって二人に見せます。

 すると、二人の顔からすうっと色が消えて、背中を反りました。どうしたんでしょうか?

 二人は何やら話をしています。


「おい、なんてモノに同情したんだお前は?」

「いや、あなたこそ……まぁ、そのように設定されてあるので、これはある意味仕方のない行為でしょう。彼女にとってこれは、悪意も善意なく、自然の営みの一つなのですから」


「はぁ、記憶をさっさと戻そう。そうすれば、この娘の善悪の本質が今どこにあるのかわかるだろう」

「はい」

「その後は、退行刑についてと記憶再生障害についての調査だな」

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