第15話
その草履は血と同じ色の真っ赤で、ちょっと細長い感じのもの。指を通す紐がないので、私の知る草履とは違う履物のようです。
何を使って作られているのかはわかりませんが、草履よりも丈夫そう。あれなら、板を踏んでも大丈夫かも。
そう思い、私は赤い履物を履きました。
つま先でトントンと地面を叩き、かかとをしっかりと入れます。
そのたびにジュクジュクになった足が痛みますが、そこは我慢です。
「草履より動きにくそうで窮屈。でも、固くて丈夫そうだから、長持ちするかな?」
これでようやく、服のある場所へ向かうことができます。
パリパリという音を立てながら、散らばった透明な板たちを踏みつけて向かう。
服を手に取り、散らばった透明な板がない場所へ移動します。
そこで、いま着ているボロボロになった服を脱いで、裸になり、暗い色と赤が混じるひらひらの服へ着替えます。
だけど、着方が分かりません。
私の服は頭からすっぽり被れば着ることができますが、この服には、ダレカからもらった袋についていた丸っこいナニカや、綺麗なナイフと同じ色のギザギザしたモノがついていて、どう着ればいいのか?
私は何もできず、服を握りしめたまま動けなくなってしまいました。
すると突然、部屋の隅にあったぐるぐるの階段から足音が響いてきました。
それはたくさんの足音です。
また、ダレカのような人が降りてきたのでしょうか?
降りてきた人たちはみんな女の人で、暗い服の上に白い服を着ていました。
女の人たちは裸の私に近づいて、軽く頭を下げると、白い入れ物からナニカを取り出し、私の傷口に巻いていたぐるぐるの白い布を取り外して、ナニカの液体を塗りました。
それはとても痛いもので、私は攻撃されたと思い、ナイフを手にしようとしましたが、今は裸なのでそれも叶いません。
このまま、この女の人たちのお肉になってしまうのでしょうか?
ですが、女の人たちは私を解体することなく、ずっと無言のまま私に痛い液体を塗っては、その部分に白くて綺麗な布を当てていきます。
そのあとは、綺麗な布が落ちないように、上からねばねばした布を貼りつけているようです。
最初は痛みを感じていたのですが、女の人が私の体をいじるたびに、痛みが和らいでいくように感じました。
(もしかして、痛みを取ってくれてるの?)
よくわかりませんが、私の傷を何とかしてくれているように思えます。
でしたら、なんで最初に、あんな痛い液体をつけたのでしょうか?
意味が分かりません。
女の人の一人が私の右のお目目を見て、小さく首を横に振りました。
次に、液体ではなくて、白っぽくて粘っこそうなモノを指につけて、私の右のお目目周辺に塗りつけました。
その上に白い布を当てて、さらに上から、暗い色の紐のついたナニカを当てました。
それらが終えると、今度は服を手の取り、私の手足を動かしながらその服を着させていきます。
私は何もできずにされるがままです。
女の人の一人が私の髪に触れて、ナニカをしてナニカをつけてますが、もう好きにしてくれたらいいです。
別の女の人が、透明な液体と乾パンをくれました。この人はとてもいい人です。
しばらくして、女の人たちは私から離れました。
その中の一人が、ナニカを持って私に見せてきます。
そこには、私がはっきりと映っていました。
それは緑の液体に映ったぼやけた私でもなく、透明な板に映った虚ろな私でもなく、はっきりとした私。
私は初めて、私という姿を認識したような気がします。
暗い色に赤色が混じるひらひらした服。足は草履とは違う真っ赤な履物。右のお目目の部分には、暗い色のナニカが当てられています。
触れられていた髪は二つに分けられて結ばれていました。なんだかぴょんぴょんと跳ねていそうな髪です。髪の結び目の部分には黒い紐が結ばれています。
そして、髪の色なんですが……私の知る色の中にはないもので、言葉では表すことはできませんでした。
女の人たちは来た時と同じように軽く頭を下げて、ぐるぐるの階段へ上がっていきました。
私は怪我の痛みも薄れ、お腹もいっぱいになり、乾きも癒されたので、塔の上を目指そうと思います。




