97食目 陸魚料理 実食
さて、水晶ウナギは蒲焼にすれば問題無い、とのことなので、俺が成すべきことは陸マグロの土臭さをいかに抑えるか、ということになる。
が実は、これには当てがあったり。
というわけでレッツくっきんぐ。
……はい、完成です。調理時間は謎技術でふっ飛ばした。いいね?
「完成したんだぜ」
「おっ? 上手く料理できたかの」
「ばっちりなんだぜ」
クロナミを草原に停泊させ甲板で昼食と洒落込む。
風が心地いい、ということでそう言った流れになった。
テーブルなどのセッティングは、ガンテツ爺さんとエリンちゃんとでやってくれたようだ。
ヒュリティアは調理のお手伝いで大活躍してくれている。
「やぁ、これは美味しそうだね」
そこに、クロナミを運転してくれていたヤーダン主任が合流。
陸魚を使った昼食会の始まりと相成った。
「おう、これは水晶ウナギの寿司か」
「そうなんだぜ。丼ものでもよかったかもしれないけど、一匹しか釣れなかったから、みんなで食べるにはそれがいいかなって」
まず、みんなが注目したのは【水晶ウナギの寿司】であった。
透き通った身は焼いても透き通ったまま、という摩訶不思議なものであったが、これをヒュリティアは天性の勘で見事に焼ききる。
これに付けるタレは店売りの鰻のたれに少しばかりの醤油やみりんなどを加えて味を引き締めた物を刷毛で塗った。
なんとも異彩を放つ寿司となったが、その味に間違いはなく、香ばしい香りと口内に広がるウナギの油は俺たちに溢れんばかりの幸福を与えてくれたのではないか。
尚、ウナギに付きものの山椒は、各自好みで振り掛ける流れとなっている。
「うんうん、ウナギのお寿司は土臭さがまったくないね」
「完璧な焼き加減じゃと、土臭さが消えるんじゃよ」
「へ~」
エリンちゃんとガンテツ爺さんの会話の端で、ドヤ顔を炸裂させるヒュリティア。
彼女の焼き加減の完璧さがなければ、この寿司の真価が発揮されることはなかっただろう。
「おや、これは?」
「水晶ウナギの背骨を油でカリカリに揚げた【骨せんべい】なんだぜ」
「へぇ、うん、塩味が効いていて美味しいよ」
ヤーダン主任は小皿に載せておいた水晶の骨せんべいに注目し、それを口に運んだ。
ぽりぽり、と小気味いい音を立てながら香ばしさと塩味を堪能している。
「……このお吸い物、よく見ると肝が入っているわね」
「【水晶ウナギの肝吸い】なんだぜ」
「……上品な味に仕上げたわね」
水晶ウナギの肝も、当然ながら捨てずに食す。
吸い物の味付けは薄いと思わせるほどに、しかし、何度も口に含みたい、と思わせる絶妙の加減に抑え込んだ。
それが可能になったのは、水晶ウナギの肝の力があっての事。
「完全に食材の力頼りの吸い物なんだぜ」
「むぅ、殆ど出汁も使っとらんようじゃの」
そう、水晶ウナギの肝と昆布を水に浸けておいて、温めるときに昆布を取り出しただけ。
たったそれだけの事で、ここまでの吸い物になるのだ。
「ふむ……これは、もしや、陸マグロの刺身、か?」
「そうなんだぜ。まずは食べてからなんだぜ」
問題の陸マグロ。その土臭さから刺身には適さない。
ガンテツ爺さんは箸で切り身を持ち上げて、まじまじ、とそれを観察した。
陸マグロの切り身は、海に生息するマグロと同じく赤い身である。
「では、頂いてみるかの」
ガンテツ爺さんは、ちょんちょん、と小皿の醤油に刺身を付けた後に、それを口に含み咀嚼。
すると、咀嚼するたびに表情が緩んでゆくではないか。
「こりゃあ、驚いた。土臭さがまったく無くなっておる。いったい、どうやったんじゃ?」
ビックリ仰天したガンテツ爺さんに種明かしといこうじゃないか。
というわけで、むんず、と取り出したのは【グツグツ大根のおろし】である。
「こいつに漬け込んだんだぜ」
「グツグツ大根にか? いやまさか、土臭さを土の食材で消すとはのう」
そう、当てがあるとはグツグツ大根だ。
この食材は単身でも美味しいが、他の食材と合わせることにより、その食材をより高みへと昇華させることが判明している。
今回もその能力を利用させていただいた形となった。
「ちなみに、これが付けておいた大根おろしを使った【みぞれ豆腐】。例によって大根おろしの味も変化が起こったんだぜ」
「へぇ……それじゃあ、味を見て見ようかな」
ヤーダン主任は興味津々の様子でみぞれ豆腐に口を付けた。
きっと彼はビックリすることだろう。
「わわっ!? 甘いっ!? まるで豆腐がレアチーズケーキのようになっているじゃないか!」
「おったまげただろぉ? こうはならんやろ、って変化だったからな」
そう、何故か豆腐が、とろ~り、しっとりと甘くなってしまったのだ。
豆腐に掛けてある大根おろし自身も、すりおろしたリンゴのような甘さを持つに至っている。
しかも、陸マグロから吸収した土臭さは微塵も感じさせない、という徹底ぶりであった。
「不思議な食材だねぇ」
「ほんとにな。でも、特殊食材が手に入ると調理の幅が広がるんだぜ」
エリンちゃんは甘い物が好きなのか、もりもり、と甘くなった豆腐を食べ進めてゆく。
このままでは一人で豆腐を絶滅させるのでは、と危惧したものの、彼女は食べるのが非常に遅いので杞憂であったという。
「……でも、特殊食材を獲得できる実力と、処理できる腕前が無いとね」
「それな~。美味しい食材を気軽に扱えないのもな」
俺は基本的に美味しい物は、みんなで分かち合う方が好ましい、と考えている。
でも、現実はそうはいかない。
貧富の差という隔たりと、身分という隔たりが、それを完膚なきまでにブロックしているのだ。
「以前は立場が立場だったから、強引に押し通せたけど……今はダメだな」
「……今はただの戦機乗りだしね」
「ま、戦機乗りでも、やれることはあるからなぁ。色々、試してみるさ」
俺は陸マグロの刺身を、もきゅっ、と口に放り込み咀嚼。
口いっぱいに広がる陸マグロの旨味を存分に堪能したのであった。
それから二日後、のんびりとした旅行気分は一変する。
『緊急連絡。前方に戦機に襲われている小規模キャラバン隊を発見。どうやら盗賊団に襲われているもよう』
艦橋でクロナミを運転していたヤーダン主任から、盗賊団発見の報を受けた俺たちは、すぐさまエリンちゃんに戦機の起動を依頼した。
「こちら、エルティナなんだぜ。キャラバン隊を救出する」
『了解しました。クロナミ、牽制射撃を開始します』
そう告げるや否や、クロナミが主砲を盗賊団に向けてぶっ放し始めたようだ。
船体に伝わる振動が、それを俺たちに伝えてくる。
『盗賊団の数を確認……数三十。スチムルトをベースとした改修機のようです』
「キャラバン隊相手に三十とは大袈裟じゃの」
「何か気になるのか? ガンテツ爺さん」
「普通、小規模キャラバン隊に三十もの戦機をぶつけるのはあり得んよ。多くて十じゃな」
ということは、是が非でも手に入れたい何かが、あのキャラバン隊にはある、ということか。
俺がそのように判断したタイミングで、キャラバン隊から通信が入ってきたようだ。
それをヤーダン主任は格納庫の俺たちに聞こえるように計らってくれた。
『こちらワウルキャラバン隊! 救援、感謝する!』
『ワウル! エリーダが!』
『彼女は諦めてください! でなければ……で……』
ここで通信が途絶える。
撃破されたわけではないようだが、一刻の猶予はないだろう。
エリーダなる人物が命を顧みず殿を務めているもようなのだから。
「アイン君! エルティナイト!」
「あいあ~ん!」
『超一流のナイトは、いつでも臨戦態勢っ!』
俺は差し出されたエルティナイトの手に乗り、彼のコクピットへと向かうのであった。




