93食目 模擬戦そのに
「これなら、どうだっ!?【ファイアーボール】!」
俺の代名詞ともいえる攻撃魔法【ファイアーボール】を投擲。
勿論、威力を調整した火属性範囲攻撃魔法だ。
威力を調節した、とはいえども、そこは俺の攻撃魔法。
その威力は察してほしい。
『ナイトの魔法はパンチ力っ!』
とかわけの分からない説明をしながら大きく振りかぶって火球を投げつけるエルティナイト。
そんなことをしなくても、普通に飛んでゆくのだが……まぁ、格好いいので良しとする。
しかも、こいつ、さり気にカーブ掛けおった。エゲツねぇ。
『なんとぉっ!?』
これにはガンテツ爺さんも予想外だったのだろう、まともに火球を受ける。
大爆発の中にデスサーティーン改は飲み込まれ、その漆黒の姿を消した。
「ぬあっ!? やっべ! ガンテツ爺さん、大丈夫かぁっ!?」
「いあ~ん!」
これに焦ったのは俺とアイン君のみで、エルティナイトは盾を構えて攻撃に備える、という行動を取った。
その盾に、ものすごい勢いで光弾が迫り、お返しとばかりに大爆発を起こす。
輝く爆発、と言えばいいのだろうか。
光素に一定の衝撃と熱が加わると耐えきれなくなった光素が爆ぜて、破壊性のエネルギーが撒き散らされる現象が起こるらしい。
「ぬわあぁぁぁぁっ!? 何事っ!?」
『一流のナイトは備えが万全。それじゃあ、隙を突けない突きにくいっ!』
爆炎が納まる、とそこから傷ひとつないデスサーティーン改の姿。
その左手には、まるで生きているかのような炎が、ゆらゆら、と揺らめいている。
そして、右腕部のアームカバーが開いていることから、攻撃に使用されたのはオーラカノンであることが分かった。
『ほっほっほ、こいつに火は効かんようじゃぞ?』
『ぴよぴよ!』
おっと、そういう事か!
ガンテツ爺さんは、火の精霊の加護を受けている。
だから、火、特に熱に対しては異様なほどの耐性をもたされたに違いない。
それは、戦機に影響を与えるほどに。
エルティナイトが投げつけた火球を纏めて左手に保持しているのは、その加護のお陰だろう。
『そぅら、これは返品するぞい』
「のーせんきゅーっ!」
ぽいっちょ、とデスサーティーン改が火球を投げつけてきた。
当然ながら、範囲が広すぎるため、エルティナイトでは範囲外への離脱は不可能。
であるなら、俺は盾を構えて突撃するだろうな。
「エルティナイト!」
『ナイトの防御力は、ばつぎゅんっ!』
盾を中心として多重魔法障壁を形成。
そのまま爆発を物ともせずに突進させる。
しかし、爆炎が晴れた後には、いるはずのデスサーティーン改の姿がない。
「目くらましっ!?」
「あい~ん!」
しかし、ここでアイン君がファインプレイ。
エルティナイトの頭上を取っていた漆黒の機体を感知していたのだ。
『鉄饅頭は伊達ではなかった!』
「あ、あいあ~ん!」
エルティナイトに遺憾の意を示すアイン君であるが、失礼騎士は取り合うつもりが無いもよう。
頭上に盾を構え、デスサーティーン改の蹴りを防ぐ。
しかし……。
「うおぉぉぉぉぉっ!? なんだこの蹴りの威力っ!?」
『早速、使わせてもらったぞい』
どうやら、ガンテツ爺さんは脚部ハイパーオーラバリアを稼働させて蹴りを入れたらしい。
なんという適応能力だろうか。
それに長年の経験が加わり最強に見える。
蹴りによってふっ飛ばされたエルティナイトだが、エルティナイトは咄嗟に盾をデスサーティーン改に投げつけ、自身は後方宙返りの要領で見事に着地を成功させている。
『そりゃあ、なんの冗談じゃっ!?』
流石のガンテツ爺さんも、これにはビックリであろう。
俺だってビックリしているんだから、当然だ。
『ナイトは戦闘のプロ。これくらいできて当然。そして、アフターケアも抜群っ!』
エルティナイトは、ぐん、と左手を握り紐を引っ張るような仕草を取る。
と牽制で投げつけた盾が勢いよく戻ってきたではないか。
「そうか、魔法障壁の紐を結び付けていたのか!」
『尊敬していいぞ』
「凄いな~、憧れちゃうな~」
『それほどでもない』
盾を受け止めたエルティナイトはそれを構え、いよいよエリン剣を引き抜いた。
正直な話、エルティナイトは戦闘センスの塊、と言ってもいいのかもしれない。
攻防共に隙が無く、一見適当に思える攻撃にあっても、しっかりと伏線を張っているのだ。
あとは、この性格さえなければ完璧だったのだが……。
『ナイトに勝てるとか思わない方が良い。早く降参して! 早くっ早くっ』
『隙だらけじゃ』
「『ぬわぁぁぁぁぁぁぁっ!?』」
そう思っている傍からこれだよ。
油断しまくりのエルティナイトに、容赦なく火炎放射器を浴びせるガンテツ爺さん、マジ鬼畜。
エルティナイトの慢心に気を払うのは俺の役目らしい。
楽ができるかと思ったが、そうそう甘くはないもよう。しょぼーん。
『おいぃ! 降参を薦めている時に攻撃とか反則でしょ? 火炎放射きたない、流石火炎放射、きたない』
『戦いに卑怯も汚いもないわい。勝った者こそがルールじゃよ』
「正論過ぎて何も言い返せねぇ」
「あい~ん」
緊迫感があるのかないのか、これが分からない。
しかし、ここでヤーダン主任から模擬戦の終了指示が出た。
『はい、模擬戦終了です』
「え~? もう終わり?」
『ようやく、機体が温まってきたところじゃぞ?』
ガンテツ爺さんも物足りないのか不満を漏らす。
しかし、ヤーダン主任はこれを却下。
『やり過ぎも良くないんですよ。初日なのだから、これくらいでいいんです』
開発者にそう言われてしまっては、どうしようもない。
俺とガンテツ爺さんはクロナミへと帰艦した。
俺としては、エルティナイトと、アイン君の勘の良さを確認できて満足である。
それに、攻撃魔法もきちんと発動しており、満足のゆく結果となった。
にしてもデスサーティーン改の性能の良さ、そしてガンテツ爺さんの熟練された戦い方よ。
エルティナイトをも翻弄する老獪さ、それを支える機体性能の高さは敵にとって脅威になるだろう。
そして、その過激な攻撃力だ。
エルティナイトだからこそ耐えれるのであって、普通の連中では木端ミジンコ。
即座にGameOver待ったなしだ。
過激を通り越して過剰とすら言える武装に戦慄を隠せない。
魔法障壁無しなら、エルティナイトも耐えられないのではないだろうか。
「ただいま」
「……お疲れ様、エル」
帰還した俺たちをヒュリティアとエリンちゃんが出迎えてくれた。
その手にはスポーツドリンク入りのボトルだ。
それを受け取った俺とガンテツ爺さんは、ごくごく、と一気飲みする。
「ぷっは~! うんめぇ!」
結構な汗を掻いていたようで、スポーツドリンクが身体に染み入るのを感じ取った。
「おかえり、すっごい模擬戦だったね」
「正直、模擬戦の域を超えていたけどね」
興奮するエリンちゃんの言葉を肯定するかのように、ヤーダン主任がファイルを片手に格納庫へとやって来た。
ちょっとズレた眼鏡を調節した彼は緋色の瞳を、くりくり、と動かしてデスサーティーン改の漆黒の機体をチェックする。
「驚いたな……あの爆炎で傷ひとつ無し、か」
「ま、色々わけありでの。これは説明しても分からんじゃろう」
「いえ、なんとなくですが……分かりますよ」
「なんじゃと?」
ヤーダン主任が虚空を見つめる。
そして、口をパクパクさせ始めた。
それは、見えない誰かと会話しているかのようでもある。
しかし、よく目を凝らす、と何者かがヤーダン主任に抱き付いているのが理解できた。
「精霊?」
「……たぶん」
そして、隙あらばホットドッグのヒュリティア。
ご飯前なのに、間食しちゃダメでしょ!
というか、間食のレヴェルじゃねぇっ!?
「火の精霊による【ヴェール】で熱を遮断する。それで火炎放射器の熱も無効化。素晴らしい、としか言いようがないですよ」
「むぅ、ヤーダン。おまえさん、精霊が憑いておるのか?」
「たぶん、ね。アクアトラベンシェルを口にしてから【彼女】の声が聞こえるんです。かすかにですが姿も」
不思議な事もあるものだ、とでも言うと思ったのかぁ?
不思議な食材を口にしたのだから、不思議なことが起こってもおかしくはない。
でも、チーム内の二人までもが精霊に見初められるとは。
「……面白いことになってきた」
「俺は不安しか感じねぇ」
というのも、精霊は基本的に【いたずらっ子】なのだ。
それは治癒の精霊どもで、嫌という程に体験している。
「……大丈夫、なんとかなるわ」
「まぁ、そうなんだけどさ」
俺はちょっぴり不安を覚えながらも、これで雷蕎麦を手に入れれる、とほくそ笑んだのであった。




