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92食目 模擬戦

「機体番号とかはないよ。完全なワンオフ機だからね」

「いやぁ、従来のエレメコアの五倍強の出力をもってやがるからよ、色々と盛り過ぎちまってよ。量産機にならなかったんだわ」


 そんなことは、この異様なシルエットを見ればわかる。

 ルナティックと良い勝負の魔改造っぷりだ。


「ランク的にはゴッズクラスに迫る、と考えられるけど……ゴッズクラスのデータが回ってこないからなんとも言えないんだよね」

「でもまぁ、ミスリルクラスは優に超えてると自負しているぜ」


 と自信満々な二人に対し俺は、「それならば、エルティナイトは?」と尋ねてみたところ、ぷいっ、と視線を逸らした。

 要は、まったく分からない、ということであろう、ふぁっきゅん。


「機体名は以前の愛用機から頂いてデスサーティーン改だ。頭高10メートル54センチメートル、機体重量69.9トン、最大索敵範囲5000メートル、推力は推定180000キログラム、光素出力は驚愕の8000KPだ!」


 いやいや、自信満々に語ってくださるのはありがたいが、俺は何を言っているのかチンプンカンプンなんですわ。


「……凄いわね」

「うん、特に索敵範囲とKPが尋常じゃないよ」

「今、ミスリルクラスの最大KPは5600じゃったか? わしに扱えるかのう」


 俺以外は理解できているもよう。

 この衝撃的な事実に、俺は「ふきゅん」と鳴く事を強要されたのであった。


「武装としては、腕部に組み込まれた各種固定武装が光るね。アームドカバーを展開する方式なんだけど、左腕には【ツインオーラガトリング砲二基】、【計四門】。右腕にはオーラカノン一基」


 そして、変態二名は声を揃えるかのようにして決めポーズを見せた。


「「指の先端部分に【火炎放射器】! 計十基!」」

「ばかたれ」


 やはりというか、ガンテツ爺さんからのツッコミが入った。

 ぶっちゃけ、何故、火炎放射器をそんなに用意したのであろうか。


 問うてみたところ「ロマンだからさ」という引っ叩きたくなるような返答をいただきました。


「この様子じゃと、脚部の異様な大きさはミサイルでも搭載しておるのか?」

「いえ、あれは【強化光素障壁ハイパーオーラバリア発生器】です」

「ふむ、防御面もきちんと考えておる、と」


 ガンテツ爺さんは関心を示す。


 しかし、彼らは変態である。

 俺の予想が正しければ、あれは単なる防御装置ではないはずだ。


「いやいや、防御なんてとんでもない! こいつは天高く跳躍した後に展開するんだ!」

「そして、ハイパーオーラバリアを展開!」

「背部パーツのスラスターを全開にし!」

「「敵に突っ込む!」」


「ただのロマン兵器じゃねぇかっ!」


 ダメだこいつら、早くなんとかしないと。


 ガンテツ爺さんは頭痛が押し寄せてきたのか、こめかみをマッサージし始めた。


 説明によると、一応は機体全体を覆うことができるので防御用にも使えるとのこと。


「装甲材質は余った桃色金属をスティールでコーティングする形で構成しておいた」

「特にコクピット周りにコーティングしたから生存率は、ぐんとアップしているね」


 これはガンテツ爺さんも嬉しいところであろう。

 一通りの説明を受けたところで、ガンテツ爺さんはヤーダン主任に質問をした。


「ふむ……携帯兵器は使えるのかね?」

「勿論。特にKPが高いので光素系兵器との相性は抜群ですよ」

「光素系兵器か……機獣に効果があるんじゃったの」

「はい、彼らは光素を餌としておりますが、光素系兵器に弱い、という性質も持っております」


 なんとも矛盾した特徴である。


 しかし、蠍の毒も血液に混ざれば危険であるが、食すると妙薬になる、といった例もあるのだ。

 おかしな話でもないのだろう、と理解することにした。


「うむ、大体は理解した。あとは慣れるしかないの」

「まぁ、ガンテツ爺さんなら、直ぐになれるさ」

「武装に関しては癖がありますが、機体自体は素直ですよ」






 という、両者を信じてキアンカ西にある、だだっ広い平原で性能テストを行う。

 勿論、データはヤーダン主任が収集し、ねっとりと研究材料にするもよう。


 データ収集は模擬戦闘方式であり、俺はエルティナイトに搭乗してデータ収集に協力する。


 丁度、エルティナイトの新装甲も完成したところなので、みんなにお披露目といこう。


「これが、新・エルティナイトだぁ!」

「あいあ~ん!」

『騎士っぽさが増し増しで、ナイトに見える!』


 全体的に刺々しさが無くなりシンプルになったが、その分、背中の赤いマントで騎士っぽさを強調。

 両肩の重圧な肩アーマーがチャームポイントとなった。


 無論、エリン剣と巨大な盾も健在である。


 機体の濃い灰色に考慮し、鎧は派手な色がいい、ということで赤、青、黄、白を使って派手なものになっている。


 起動しちゃう戦士〇ン〇ムかな?


 飛び道具は攻撃魔法がまともに発動する、とあり新規に攻撃魔法を組み立てた。


 勿論、ファイアーボールのようなトチ狂った威力にはしないよう調整してある。

 実のところ、あれは図式に手違いがあり、リミッターが削除された状態にあったため、俺の魔力の影響をもろに受けて威力がおかしなことになったのだ。


 慌てて修正して、確認もせずに完成させたのが間違いだったんやなって。


 用意した魔法は単一目標攻撃魔法の【ボルト系】と、範囲攻撃魔法の【ボール系】各種だ。


 火、雷、は純粋な破壊力を持つが、他の系統は特殊となるため、基本的にこの二種がメイン使用となるだろう。

 ボール系も然りである。


 だが、俺には【魔法技】なる苦難の末に編み出した各種凶悪な合成魔法が存在する。

 当然だが、模擬戦では使用しない。


 しかし、機獣と戦う限りはいずれ、お披露目する可能性は否定できない。

 その際に、絶望的な凶悪ぶりを、お見せすることができるだろう。


「ガンテツ爺さん、準備はいいかぁ?」

『おう、いいぞい』

『それでは、模擬戦を開始してください』


 ヤーダン主任の合図と共に模擬戦は開始された。


「悪いが、初手は頂くんだぜ」


 こっちもついでに新規開発した攻撃魔法を試させていただく。

 まずは火属性下級攻撃魔法【ファイアボルト】を発動させる。

 早い話が【炎の矢】をぶっ放す魔法だ。


 魔法の図式に詠唱破棄を組み込んでいるので即座に発射可能。

 それとは別に【チャージ】機能を組み込んだので、魔力を充填すれば強力な矢を放つこともできる。

 その分、魔力の消費量も高くなるのはお分かりいただけると思う。


 しかし、この魔法の真価は【牽制】にこそあるのだ。


「ファイアボルトっ!」


 突き出したエルティナイトの手の平に火球が生まれ、そこから無数の炎の矢が飛び出してきた。

 ビームとまではいかないが、かなりの速度をもつ矢がガンテツ爺さんのデスサーティーン改に殺到する。


『おおう、手加減無しとはのう。老人は労わるもんじゃぞ』


 とか言いながら簡単に回避に成功するのは、どうなんですかねぇ?


『今度はこっちからじゃ!』


 ガンテツ爺さんが起動したのは左腕二連オーラガトリング砲。

 それが二基あるから計四門のガトリングがエルティナイトに襲い掛かる。


 あくまで牽制用、とかほざいているが、こんなものをまともに喰らったらミンチになっちまうのは想像に難しくはない。


 まぁ、あくまで一般的な戦機と機獣なのだが。


「エルティナイト、回避だっ!」

『ナイトは回避できないできにくい! 後ろに護るもんがあるからよ』

「ないんだよなぁ……」

『サイドステッポゥッ!』


 エルティナイトは華麗なサイドステップで、これを回避。

 やればできるのにやらないのは、黄金の鉄の塊魂の影響を強く受けているからだろうか。


「あいあ~ん!」

「おう、反撃といこうか!」


 ちょっぴり模擬戦が楽しくなってきた俺は、次なる攻撃の準備に取り掛かった。


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[一言] 防御のバケモン!?
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