91食目 新・ガンテツ号 完成
エレメコアモドキが完成したところで、今度は戦機を構築するパーツ作りとなった。
ガンテツ爺さんが望むのは、以前愛用していたスチールクラスの戦機スチムルトと同じサイズの機体という事だ。
扱いなれている機体サイズを望むのは自然な流れと言えよう。
戦機の標準サイズは十メートル前後であるので、それを大きく下回ったり、上回ったりしないようにパーツを調節する。
だが、それ以外には言及しておらず、約束の隙を突く気満々な変態どもがビカビカと目を怪しく輝かせていた。
嫌な予感しかしないが、俺の戦機ではないので生暖かく見守ることにする。
ヒュリティアとエリンちゃんも、俺に倣う姿勢を見せた。
「いやぁ、腕が鳴るね。どんな子にしてあげようかな?」
「先にデザインを決めねぇとな」
そう言うや否や、両者はくたびれたテーブルに紙を広げ、がりがり、とデッサンを開始。
これがまた早い。
それは、まるで締め切り間近の連載作家のごとき筆の速さであり、あっという間に幾つかのデザインが出来上がった。
その中から幾つか優秀なデザインを選出し、ヤーダン主任とマーカスさんのデザインを統合。
中々にいぶし銀な機体デザインへと落ち着いた。
「基本カラーはブラックでしょうかね?」
「サブカラーに赤だな。コア鉱石が、ああいう色をしてるからよ」
どうやら、デザインは決まったもよう。
ここから始まるは狂気の戦機製作だ。
十八歳未満は見ないように。精神がおかしくなって死ぬ。
「うおぉ……あの二人は何をやってるんだぁ?」
「……凄いわ。この世界の人間って、あそこまで動けるのね」
「絶対に真似しちゃいけない動きだってことは分かるかな?」
実に酷い評価であった。
ガンテツ爺さんはザインちゃんのお世話に掛かりっきりであり、今も粗相をした彼女のオムツを交換中である。
しかしながら、その変態的な動きもあって見る見るうちに各パーツが出来上がってゆくではないか。
バックステップしながら部品を調達する姿は紛う事なき変態。
空を蹴って二段ジャンプして工具を取る、とか人間を辞めているに違いなかった。
「うん、今日はここまでかな?」
「子供はもう寝る時間だぞ」
そう言って、露骨に俺たちを追い払わんとする悪い大人ども。
どう見ても、追い払った後に色々やるつもりだ。
「ふきゅん、じゃあ帰るかぁ」
「……そうね。邪魔になるだけだしね」
ということで、一時解散と相成る。
クロナミに戻った俺たちは、早速夕食の支度を開始。
作るのは遅くなった、ということで簡単にできる【チャーハン】を選択。
材料は、ホットブーブーのチャーシュー、植物性油が溢れ出るほどに湛えられた【油葱】、必ず卵黄が三つ入っている大型の卵【三卵黄】、ゴマの香りが通常の三倍もある【胡麻胡麻油】を用意した。
いずれも、市場や量販店で安く購入できる物ばかりである。
安い材料で美味しい物を作るのが中華の神髄って、それ一番言われてっから!
「よし、中華鍋をセットだ」
「おまえさん、そんな重いもんを持てるんかいな?」
「心配ご無用、なんだぜ」
というのも俺は魔法が使えるのだ。
日常魔法【ライトグラビティ】。
これは物体の重力を軽減する魔法であり、俺のような貧弱白エルフであってもご覧の通り、軽々と大きな中華鍋を振るうことができるようになる。
また、逆に重くすることも可能。
こっちは【ヘヴィグラビティ】という魔法であり効果も真逆。
ぶっちゃけ、あまり使い道はない。
「ヒーちゃん、皿と蓮華を用意しておいて。エリンちゃんは料理の練習な」
「……分かったわ」
「うん、がんばるっ」
エリンちゃんは料理に前向きな姿勢を見せており、ここ最近は俺と台所に立つ機会も増えている。
今では簡単な加工なら、付いてなくともこなせるようになっていた。
なので、ここからは火を使った調理を仕込む。
「ま、考えるよりも慣れろってな」
「いつもながら、鮮やかだよねぇ」
まずは俺が一人分のチャーハンを作って手本を示す。
材料の投入順序、分量を教えながらも完成。
「んじゃ、作ってみようか」
「うんっ」
エリンちゃんは記憶力はいいが、実践となると、ちょっぴりへっぴり腰になるもよう。
でも、戦機を操れることからセンスは悪くないはず。
戦機よりも遥かに簡単な調理ができないわけがない。
「ふえぇ……焦げちゃった」
「チャーハンだから、多少の焦げも美味しくいただけるんだぜ。これなら、場数を踏めば出来るようになるさ」
エリンちゃんは焦げ焦げチャーハンの完成に落胆したものの、俺のカバーで立ち直った。
でも、俺はきちんと敗北の味を彼女に味合わせる。
焦げ焦げチャーハンと、俺が作った焦げ一つ無いチャーハンと味比べをさせたのだ。
「むぐむぐ……焦げがいらないね」
「濃い味付けのチャーハンには焦げもいいけど、シンプルなチャーハンの場合はいらない要素なんだぜ」
ダイニングで夕食を摂る。
エリンちゃんは焦げも使いようという経験を得て、ちょっぴり成長したのである。
「おまえさんは、本当に何でも作れるのう」
「作れるけど、本職には及ばないんだぜ」
ガンテツ爺さんは俺を褒め称えるが、実際問題として俺は【広く浅く】のタイプだ。
そこそこできるが、突出した物は作れない。
プロと割とできるアマチュアでは格が違うのだ。
まぁ、珍食材を扱う事に掛けては、右に出る者はいないと確信するが。
「……ま、これだけ作れれば十分過ぎるわ。現地調達で、パパッ、と調理できるのは才能よ」
「そんなものかなぁ?」
「……そういうものよ」
ほっぺに米粒をを付けながら、真顔での評価をくださるヒュリティアさん愛してる。
もちろん、米粒一つ無駄にはしませんとも。
「れろん」
「……直接、舐めて取るのは条約違反」
「し、しまったぁ……!」
これが許されるのは、にゃんこと、わんこのみ、という条約を忘れてしまっていた。
なんたる不覚! このままでは、条約違反で悲惨な戦争が起こる!
「明日はホットドッグで手を打つわ」
「ははぁ、仰せのままにぃ」
「なんじゃ、この茶番」
「ばぶー!」
この大いなる茶番に、ガンテツ爺さんとザインちゃんは呆れを見せたのであった。
時間は飛んで二か月後。
季節は秋に差し掛かり、ちょっぴり肌寒さが自己主張してきた頃だ。
「できたっ!」
「完成だっ!」
ガシッ、と固く握手を交わす変態二名。
どうやら、できてはならない友情が出来上がってしまったもよう。
この間のヤーダン主任とマーカスさんは筆舌に尽くしがたい行動をまったく自重せず、工場の作業員たちを引きに引かせた。
よく辞職者が出なかったものだ、と関心すらする。
その甲斐もあって、ガンテツ爺さんの新型戦機が完成の目を見たのである。
「この子は凄いよ、僕の研究技術の粋を籠めて開発したからね」
「俺の加工技術も全部詰め込んでやったぜ」
黒をベースとし、赤いラインがひときわ目立つ戦機は。ほっそりとしたボディラインを持っている。
しかし、予想通りぶっ飛んだデザインになっており、胸部パーツと腰部パーツがほっそりしているのに、腕部パーツ、脚部パーツがとんでもなくゴツイことになっていた。
尚且つ、背部パーツとして取り付けられたスラスター集合体がエゲツない。
ランドセルを思わせるパーツに大型スラスター三基、小型スラスターを八基も搭載しているのだ。
どんだけ光素を消費するつもりなのか、これがもう分からない。
あと、初期デザインとかけ離れた外観になった件について問い詰めたい。
あんぐりと口を開けて呆ける俺たちを他所に、ドヤ顔を炸裂させる変態ども。
「間違いなく、最高傑作になったと思う」
「へっへっへ、こいつが黒い死神と呼ばれるのも時間の問題だぜ」
間違いなく問題作だ、という事に気付かない彼らは、新機体の説明へと取り掛かった。




