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90食目 火の精霊石

 ナベド活火山火口付近、その地で俺たちは熱く燃え盛る情熱的な鉱石と出会った。

 それは、無骨な岩の塊のようにも見えるし、激しく燃え盛る炎のようにも見えた。


 直感的に俺は【こいつだ】と確信する。

 アイン君もエルティナイトも、俺と同じくそう感じ取ったもようで、気付けばその真っ赤な鉱石はエルティナイトの手の内に納まっていたのである。


 それを祝うかのようにグツグツ大根が、にょきにょき、と生え出して桃色の綺麗な花を咲かせたではないか。


「熱い! なんて熱さだ!」


 だが、それは感覚的な事であり、実際はまったく熱を持たない鉱石であった。

 エルティナイトが慌てふためかない理由は、そこにあったのだ。


 しかし、それでも俺は、この鉱石が目覚めには至っていないのではないか、という疑念を抱く。

 それは、こうして直接エルティナイトに鉱石を持たせているからである。


『エルティナ! おまえさん、何を見つけたんじゃっ!?』

「おん? ガンテツ爺さん?」


 とここでクロナミから通信が入る。通信主はガンテツ爺さんだ。

 妙に慌てているのは、きっと彼が火の精霊と同期しているからだろう。


 その証拠に、ガンテツ爺さんの声に混じって「ぴよぴよ」というヒヨコの興奮した鳴き声が聞こえている。

 相当に興奮しているもようだ。


「おう、良い鉱石を見つけたぞ。これで、ここまで足を運んだ甲斐があったってもんだぁ」

『ヒヨコが言っておる! それは魔物を封じ込めた【精霊石】じゃと!』


 ふむ、興味深い話だ。

 であるなら、益々手離せない手放し難い。


「なら、エレメコアに封じて、魔物の力を使っちまえばいいんじゃね?」

『その発想はなかったわい』

『あ、それいただき。いやぁ、良いアイデアをいただいたよ』


 そして、これにヤーダン主任が乗っかり、この鉱石は無事にエレメコアに採用されることとなったのであった。


 これでええねん。


『エルティナちゃ~ん、機獣の部品の一部を見つけたよ~』

「おっしゃ、エリンちゃん、ナイス!」

『……こっちは大砲の一部を見つけたわ』

「ヒーちゃんもやるぅ!」


 どうやら、運も味方しているらしい。


 エリンちゃんとヒュリティアが発見したパーツは大きく重量もあるため、運搬はエルティナイトの仕事となった。

 というか、亀さんのパーツは、殆ど戦機では運べない程の重量であったという。


 エルティナイトよりも大きいのだから当然と言えるが。


「ヤーダン主任、これだけあれば足りるかぁ?」

『えぇ、問題ないかと。帰艦してください』

「了解なんだぜ」






 こうして、だいたい一ヶ月に及ぶ戦機の材料集めは終了した。

 自分たちでいうのはなんだが、かなりハイスピードであったのではないかと思う。


 キアンカに戻った俺たちはマーカス戦機工場へと帰還。

 工場施設の一画を借りてエレメコアを製作し始める。


 マーカスさんに、エレメコアから作る、と告げたところ「一枚噛ませろ」と悪い顔を見せてきたのである。

 彼には毎度お世話になっているので断る理由などありはしない。

 したがって、開発は危険な領域に突入するのであった。


「はっはっは、まさかエレメコアから作るたぁな。恐れ入ったぜ」

「正確には【モドキ】なんですがね。でも、これが成功すれば革新であることは間違いないでしょう」

「違いねぇ。民間で安い戦機が出回れば、戦機協会も戦機の値段を下げざるを得ねぇだろうしな。そうすりゃあ、工場も潤うってもんよ」


 流石マーカスさんだ。

 趣味と興味心と工場の未来をも考慮しているのは恐れ入る。


 というわけでヤーダン主任主導の下、エレメコアの製造は始まった。

 まずは、火の精霊石を封じる外殻を製造する。


 この外殻が重要であり、下手な物を作ろうものなら内部エネルギーを封じ込めることができずに爆発する可能性すらあるらしい。


 怖いな~大人しく見ておこう。


 とはいえ、ただ見ているだけだと口が寂しいので桃先生を召喚しパクつきながら見学する。


「うおぉ、金属が、ぐつぐつ、言ってる」

「あぶねぇから近づくんじゃねぇぞ」


 マーカスさんは専用の溶鉱炉で亀さんの甲羅を溶かしていた。

 それは、魔女のツボのような装置であり、熱が専用のダクトから上空に排出されるという仕組みになっている。

 したがって、真上から溶鉱炉内の金属の様子が窺える、という謎装置となっていた。


 でも危ないので周囲には柵が巡らされており、上から確認するための橋にも柵がこれでもかと設置されていた。


 亀さんのパーツはマグマにも耐える、とあってなかなか溶けにくかったらしいが、そこはマーカスさんだ。

 彼の秘伝の技術をもってして無理矢理溶かしたらしい。


 やり方は勿論教えてくれない。


 お子様は真似するからダメだってさ! ふぁきゅん!


「ふ~んだ。いいもんね。どうせ俺はロボット作れないし」


 謎の怪奇現象でロボットを無駄に進化させてるけどな!


 その事実にショックを受けた際の事だ。

 俺は、ポロリ、と桃先生を溶鉱炉へとダイブさせてしまたのである。


「あぁっ!? 桃先生がっ!」


 ぽちゃん。


 なんと言う事でしょう。

 桃先生が溶鉱炉の中で、ぷかぷか、と浮いているではありませんか。


「溶けないのかぁ」


 そんなんじゃ甘いよ、とでも言っているかのような桃先生の雄姿に、そこはかとなく感動しつつも、これがマーカスさんにバレると【えらいこっちゃ】なので、桃先生にお願いして溶けてもらうことにした。


 桃先生は、しょうがないなぁ、といいつつもドロドロに溶けた金属に混ざり、その姿を消してくれた。


「俺は救われた!」

「んなわけあるか!」

「あばびゅっ!?」


 やはり、不正は正されるんやなって。


 マーカスさんの拳骨をいただいた俺は、【バカタレ】と書かれた看板を首から下げられて、工場の隅っこで正座をさせられてしまいましたとさ。




 その後、エリンちゃんによって釈放された俺は、ドロドロ金属のその後が気になり、マーカスさんに経過を聞く。


「あぁ、あれなぁ……」


 どうにも歯切れが悪い。失敗してしまったのであろうか。

 やはり、金属に果物を混入した罪は重かったのかもしれない。


「新種の金属が出来上がったよ。もうわけの分からない金属でね。調査しないと使えないんだよ」


 とヤーダン主任が出来上がった金属のデータを書き留めた資料を渡してきた。

 軽く目を通す、と訳の分からない数値が、これでもか、と並んでいたではないか。


 鉄よりも軽く、ダイヤモンドよりも硬度があって、耐熱温度が五千度、という頭のおかしい数値を目撃することになる。


「これ、勘違いじゃね?」

「そう思いたかったんだけどね……困ったことに何度測定しても、この数値なんだよ」


 これは、桃先生がやらかした、としか考えられない。

 僕の考えた最強の金属、を地で行く金属を作れるのは彼女しかいないのだ。


「まぁ、たぶん大丈夫だろ」

「そんな適当な」


 でも、調査していては戦機完成がいつになるか分からない、ということで無理矢理に採用する流れとなった。


 桃先生が監修した金属だ、悪いようにはならないだろう。うん。


 というわけで、火の精霊石を新金属で封じ込める。

 火の精霊石に何やら装置を取り付けて、型に流し込んで固めた新金属で封じ込める、とエレメコアもどきの完成である。


 ぶっちゃけ、俺たちは何をどうしているのかさっぱりである。


 しかし、ヤーダン主任とマーカスさんはそうではないらしい。

 完成が近づくにつれて「いけるんじゃないのか」とか「いける!」とか子供のようなはしゃぎっぷりを見せていたのだ。


 そして、完成したエレメコアもどき。

 新金属の色は桃色という派手さであるが、そんなことはお構いなしに調査用の機器に完成したエレメコアもどき、を接続してテストを開始する。


「……動作安定、エネルギー供給安定」

「いいぞぉ、これで外殻が持てば……」


 鼻息の荒い変態科学者と工場のおっさん。

 そして俺達が見守る中、機器よりブザー音が流れた。


「よっしゃあ! 実働に耐えることが証明されたぞ!」

「これが量産化された暁には、格安で戦機が手に入るよ!」


 量産できないんだよなぁ……。


 残念ながら桃先生は、この世で俺しか作り出せないので量産には向かないのだ。

 なので、彼らには別の方法を考えてもらわねばならない。


 でも、今それを告げるのは酷だなぁ、と思った俺は二人を生暖かい目で見守るのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 調査しないと、といえばヤーダン主任はもともとエルティナイトの解析のために来たはずなんですがそれは大丈夫なんですかね…?(小声)
[一言] うわお! ガン〇リウム合金もびっくり!
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