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89食目 戦機の材料をゲットせよ

 さぁ、急いではいないけど忙しい日々が始まるぞ!


 というわけで、俺たちはガンテツ爺さんの戦機を一から作るために、材料集めに奔走しているのだ。


 現在、クロナミを向わせているのはアクアトラベンシェルをゲットしたイダーソス海岸であり、そこに放棄された戦機どもを回収して材料にしようというわけである。


 当然の事ながら、メッサモドキことメタルサンショウウオモドキも、そこで「きゃっきゃ、うふふ」しているわけで……。


「おんどるるぁ! 散れっ、ふぁっきゅんどもぉっ!」

『このナイトを恐れないとか、おまえらサンショウウオだろっ!』

「ぴーっ!?」


 こうして、メッサモドキたちは安住の地を追われたのであった。

 これは弱肉強食のルールに則ったため、こういう結果になっただけであり、俺たちは別に悪いことはしていないことを強く主張する。


「……まぁ、戦わない事に越したことは無いのだけど」

「ちょっと可哀想だったねぇ」


 上手くメッサモドキを追い払って安全を確保できたので、エリンちゃんもマーカス戦機工場から持ち出したブリギルトを使用して、スクラップになった戦機どもを回収する。


 本来なら回収業者なり、依頼なりを出して戦機を回収するものなのだが、こうして長期間放棄されているのは、持ち主が諦めたか死亡したかのどちらかだ。


 恐らくは、後者の方が多いかと思われる。

 その証拠にコクピットからは白骨化した仏さんが確認できた。


「なむなむ、なんだぜ」


 放棄された戦機は全部で五機分。

 うち、三機から仏さんが確認できた。


 流石の戦機でも、メッサモドキくらいの巨大生物ともなると後れを取ってしまうのだろう。


「帰ったら弔ってやらんとな」

「あい~ん」

『ナイトは、そういった気遣いもできる至高の存在』


 エルティナイトが喋るようになって、益々賑やかになってしまった。

 今まではアイン君が俺の呟きに反応していただけだったが、今度はエルティナイトが即座に反応を示すようになったのである。


「それにしても、なんであんな巨大生物が、極普通に存在しているんだろうな?」

「あい~ん?」

『それは、ここがファンタジー世界だからに違いにぃ』


 アイン君は俺の疑問に首を傾げたが、エルティナイトは意外な回答を示した。

 彼はここが【ファンタジー世界】である、と確信しているらしいのだ。


「根拠は?」

『巨大生物の体組織の大半は【魔素】だって、それ一番言われてっからよ』

「魔素……あぁ、それで巨体であっても重力に圧し潰されないのか」


 エルティナイトの答えで合点が行く。


 生物であれば、あれほど巨体になると重力の影響でまともに動けなくなるはずなのだ。

 にもかかわらず、メッサモドキたちは脱兎のごとく逃走を果たしている。


 それはつまり、実際の体重が見た目よりも軽いことを意味している。

 いや、それどころか、下手をしたら魔法で重力を【制御】している可能性も否定できない。


 現に俺も重力魔法を駆使して重たい物を持ち上げることが可能なのだ。

 地味にザインちゃんを抱っこする時も使用していたりする。


『あいつらは風船みたいなもん。でも、軽く三百トンはある』

「おまえ、物知りだな?」

『ナイトだから仕方がない』

「それなら仕方がないなぁ」


 手早く残骸を回収した俺たちはイダーソス海岸を後にする。

 破壊された戦機たちの見苦しい姿も無くなり、海岸の景観はすこぶる良くなりましたとさ。






 次はプッカヒーコーの荒野地帯に向かう。

 お目当ては機獣基地に転がっているだろう機獣たちの残骸だ。


 その大半は戦機協会が回収してしまったのだが、もしかしたらまだ幾つか転がっているのでは、という打算の下に赴いたのである。


 結果としては何もなかった。おぉん!


 しょんぼりとして帰路についたところ、帰り際に大鷲タイプの機獣の残骸が三体分ほど転がっているのを発見する。


「あっ、これって……!?」

「……私たちが撃破した機獣ね」


 それは機獣基地捜索任務の際、帰り際に遭遇した機獣たちの成れの果てであった。

 どうやら、戦機協会の回収部隊は、この残骸には気が付かなかったもよう。


「俺たちが倒したんだし、回収しても文句は言われねぇよな?」

「……当然ね。どうせ分からないように加工するんだし」


 というわけで、問答無用でクロナミに搭載する。

 使える物はなんだって使っちまうのさ。






 まだまだ探すぞ、というわけで再びナベド活火山へ足を運ぶ。

 お目当ては水蒸気爆発で吹き飛んだであろう亀さんのパーツだ。

 その大半は失われたであろうが別になくても構わない。


 それとは別に、火山石を回収したかったからだ。


 ヤーダン主任は大胆にも、エレメコアに封じ込める鉱石を火山石にする、と宣言したのである。


 彼曰く、「彼女もそうした方が良いと言っていた」とのこと。


 何かヤヴァイ電波でも拾ってしまったのであろうか。

 しかし、元々彼は戦機に関しては頭がおかしい人物だったので問題が問題にならないという不具合が発生している。


「う~ん、コレジャナイ」

「てっつー」


 先ほどから火山石を吟味しているのだが、いまいちピンとこない。

 エルティナイトも「それは気品がない」だの「気骨がないからダメ」だのとダメ出しを連発していた。


 確かに彼の言うとおりであり、ビビッ、と来るものが無いのだ。

 アイン君もそれに同感を覚えているようで、ぷるぷる、と首を横に振るのみだ。


 まぁ、首、無いんだけどな。


「むぅ、調子が出ないな。こんな時はこれだぁ」


 すぃ~、と小型のクーラーボックスから取り出したのは、ノミユの特産品【ミントシュークリーム】だ。

 シュークリームのねっとり濃厚なカスタードクリームと、ふうわりしっとりな生クリームのコンボに組み込まれたミントの爽やかさが堪らない一品である。


「はぁむ、んぐんぐ……うんまぁい!」

「あい~ん」


 尚、俺の味覚とエルティナイトの味覚は搭乗中リンクしているため、この美味しさは彼にも伝わっている。

 であるからして、彼がおねだりすることはまず無い。


『紅茶を所望する』


 言った傍からこれとか、発言内容こわれちゃ~う!


 エルティナイトは俺と味覚を共有するが、好みが一緒とまではいかない。

 俺はなんでもかんでもいける口であるが、エルティナイトは辛党であり、しょっぱい物を好む肉体系男子であるもよう。


 流石はナイトだ、と褒め称えるべきであろう。


 俺は催促に従って、魔法瓶の紅茶を口に含んだ。

 もちろん、砂糖を加える、などという無粋な真似はしない。

 ストレートティーこそ至高であるのだ。


 これにエルティナイトは満足したようで、せっせと火山石を掘り起こしている。


 現在のエルティナイトは装甲を修繕中であるので軽装モードだ。

 なので、身のこなしが軽やかである。


『エルティナちゃん、良い溶岩石は見つかった~?』

「いいや、良いのが見つからないんだぜ」

『こっちも、機獣の部品は見当たらないよ。クロヒメさんも受付の仕事で来られないし、大変だね~』


 エリンちゃんは「はふぅ」とため息を吐いた。

 彼女の言うとおり、クロヒメさんはチームメンバーではあるが、同時にキアンカ戦機協会の職員であるため、行動に参加できる場合とできない場合がある。


 ぶっちゃけ、基本的に参加できない、と考えるべきであろうか。


 その間、ザインちゃんの面倒は、ガンテツ爺さんにお願いすることになる。

 孫の世話をしていただけあって手慣れたもので、ザインちゃんもたいそうご満悦であったという。


 ヤーダン主任はもちろん、クロナミの運転と戦機の設計図を書き起こしている。

 このように待機状態の際は設計図を、移動の際は運転をオートにして設計図を。


 設計図しか書いてないじゃないですかやだー。


「おん? なんだ、これ」


 ヤーダン主任の邪悪な振る舞いに、怒りの地団太をエルティナイトに踏ませたところ、へなちょこ火山石に亀裂が入り、そこから真っ赤な塊が顔を覗かせる。


 この出会いに、俺たちは運命を感じ取ったのであった。


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