表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/501

83食目 エルティナイトの珍化

 急ぎ格納庫へと向かう。

 そこには、装甲が取り払われハンガーラックに寝かされているエルティナイトと、おろおろ周囲を飛び回っているアイン君の姿。


 見た感じ、エルティナイトには問題が無いように思われるが……。


「アイン君」

「あ、あい~ん!」


 俺の姿を認めたアイン君が慌てて俺に飛び込んできた。

 その姿は、お留守番をしていた子猫が親猫の姿を認めた際の行動に酷似している。

 したがって、うっかり表情を、ふにゃり、とさせてしまっても仕方のない事だと思う。


 しかし、このアイン君の動揺っぷりは、いったいなんだろうか。

 その原因であろう愛機の様子を窺う。


 とそのエルティナイトが突然、むくりと機体を起こしたではないか。


『来た! 白エルフ来た! これで勝つる!』

「ふきゅんっ!?」


 なんと、エルティナイトが極当然且つ自然にトーキング炸裂させているではありませんか何これ怖い誰か説明してぷりーず。


 ダメだ、情報の整理が追いつかないどころか後続車にケツを掘られる映像が延々とループしてやがる。

 教えてくれエルティナイト、先頭車両は、あと何台にケツを掘られればいいんだ。


『超一流のナイトの俺は、エネルギーが猛烈に消費する。だから俺は白エルフを求めるだろうな』

「おいぃ、露骨な催促、凄いですね」

『九割でいい』

「謙虚だな~憧れちゃうな~」


「……そこまでよっ!」


 迫真の中心線を用いての、ヒュリティアのボケストップありがたや。


「うわぁ、戦機が喋っちゃってるよ」

『ほう……普通ではないのかな?』

「うん、普通じゃないかな?」

『流石、ナイトは格が違った!』


 戦機が喋ること自体、普通ではないが、その応対も普通ではないことが窺い知れる、というものだ。


 もう頭がおかしくなりそうだ。


「エルティナイト、どう思う?」

「……無駄に大きいエルね」

「おいぃ、俺はそこはかとなくショックを受けたぞ」


 俺はヒュリティアに遺憾の意を示すも、彼女は「ぷひっ」とため息をつくばかりだ。


 そんなこんなしていると、奥の方でルナティックを修理していたヤーダン主任とガンテツ爺さんが俺たちに気付き手を振ってきた。

 なので、俺たちも手を振って返す。


 いや、エルティナイト。おまえは振らんでいい。ものすっごい風が起こるから。


「エルティナちゃん、もう起きてもいいのかい?」

「あぁ、もう大丈夫なんだぜ。それよりも……」

「エルティナイトの事だね。僕も驚いたよ、クロナミに戻ってくるなり、飯をくれ、だもの」

「これは酷い」


 話を聞けば聞くほどに、エルティナイトの残念ぶりが伝わってくるという不具合。


 何故、こんな事になってしまったのか。

 折角、チゲとの問題が解決した矢先であるというのに、これはあんまりである。


『最強のナイトは細かいことを気にしない良いやつ。だから全力で頼っていいぞ』

「取り敢えず、ご飯あげるから大人しくしていてくれ」

『わぁい』


 ということで、大人しくしてもらうために魔力を、ズビズバ、とエルティナイトにぶち込むことにする。


『カレー味で頼む』

「注文が多いっ」


 でも、カレー味を想像し魔力の塊を形成すると、それは巨大な皿に入ったカレーライスを模ったではないか。


『見事なカレーライスですね』

「それほどでもない」

『いただきま~す』


 どこから取り出したのであろうか。

 エルティナイトは巨大スプーンでカレーライスをすくい、それをどんどん口に放り込んでゆく。

 なんというシュールな光景であろうか。


 巨大ロボットが、人間同様の食事をおこなっているのだ。

 色々と世界観を破壊する行為に戦慄を隠せない。


 どちらかといえばリアルロボットの世界であるのに、ファンタジックスーパーロボットがたった一機、爆誕しただけでこの有様なのだ。


 責任者は速やかに名乗り出て、心からの謝罪を成し遂げるべきであろう。


「……どうしたの? エル」

「心からの謝罪を成し遂げなくてはならない心境に陥ってた」


 プルプル、と震える俺は格納庫の中心にて「俺は悪くぬぇ!」と叫んだ。


 これで、ええねん。


「ところで、ガンテツ爺さん。調子の方はどう?」

「どうもこうも無いわい。以前より調子が遥かに良いわい」


 むきっ、と力こぶを見せつけるガンテツ爺さんの頭の上には、真っ赤なヒヨコの姿。

 当然ながら、このヒヨコはただのヒヨコではなく……。


『おかわりっ!』

「馬鹿野郎、食うの早いんじゃ」


 話の腰を折られましたが俺は元気です。


 エルティナイトにお代わりを与えて話を再開。


「つまり! このヒヨコは大魔王だったんだよ!」

「「「な、なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」」

「ぴよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」


 それは、衝撃の事実であった。


「んなわけないじゃろ」

「あっはい、そうですね」


 話が脱線してしまい色々と見失った俺であったが、ガンテツ爺さんの冷静なツッコミによって全てを思い出す。

 この赤いヒヨコはガンテツ爺さんの命を救った火の精霊である。

 そして、俺の眷属でもあるのだ。


 雛鳥の姿をしているのは、そのままの意味であり、グツグツ大根に宿っていた火の精霊が俺に食べられたことによって孵化した直後であることを意味している。

 このまま成長すれば、新しい姿を獲得する可能性は十分あるが、アイン君のようにまったく変わらない可能性も否定できない。


 全てはガンテツ爺さん次第という事もあるが、ここはそっと見守るのが大人の醍醐味というものであろう。


「ところで、そいつに名前は付けたの?」

「うむ、ヒヨコじゃ」

「それは名前、といってもいいのかぁ?」

「わしの先立った女房の名前がヒヨコと言ってのう。東方国の字で書くとこうじゃ」


 ガンテツ爺さんが紙にボールペンで【火呼子】と書き記した。

 どうやら、第六精霊界には漢字なる物が存在するらしい。


「あれは東方国の出身でなぁ。わしと知り合わなければ、裕福な暮らしができとったかもしれん」

「ガンテツ爺さんは東方国の出身じゃないの?」

「わしはエンペラル帝国出身じゃよ。チョオコという小さな村が生まれでの」

「ふぅん」


 なんでも、ガンテツ爺さんは貧しい生活に嫌気がさして、今話題の戦機乗りに志願すべくエンペラル帝国の志願兵になったらしい。


 その後、めきめきと頭角を現し、一部隊を率いるまでに至ったらしい。

 その時、与えられたのがクロナミと、今はもう無いスチムルトであるそうだ。


「まぁ、その後、ドワルイン王国の捕虜となって王都に連行された際に、ヒヨコに出会っての」

「うんうん、それから?」


 これに恋愛に興味津々なエリンちゃんが食いついた。


「ヒヨコを人質にして王都から脱出した」

「へ~、え?」


 そして、衝撃の事実が発覚。

 どうして、そこから恋愛感情が発生したのであろうか。


 まっこと、人生とは不可思議な物語でいっぱいである。


「ま、わしの事はいいじゃろ。それよりもじゃ」

「エルティナイトなぁ」


 大盛り魔力カレーを二杯も平らげたエルティナイトは明らかな進化を遂げていた。

 以前であれば、魔力塊一個でフル充電できていたエネルギーが二つ必要になる。

 それは、活動限界時間の延長と光素系兵器の威力向上、そして何よりも攻撃魔法の威力向上をも意味している。


『食ったら寝る。これが大人の醍醐味』

「ダメな大人の見本じゃないですかやだー」

『おやすいみん』


 そして、二秒で眠りに落ちるスーパーロボット。

 というか、ロボットが寝るんじゃあない。


「実に興味深いね」

「これに興味を持ったら頭がおかしくなって死ぬぞ」


 ヤーダン主任が眼鏡をギラギラさせながらエルティナイトを見つめていたので注意喚起をする。

 いろいろと手の届かない位置へと進化を遂げた精霊戦機エルティナイト。

 果たして、彼はどこへ向かおうとしているのか。


 まったく興味が無いので、昔の君に戻ってほしい。ふぁっきゅん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] キエー喋った!? 珍獣「オレはこれからは魔○が英○伝な感じで ナイトと対話しながら乗るのか?」 NG「版権がヤバいから程々にな」 ナイト「面白カッコ悪いゼ」
[一言] アイン君ではなく、「本体」!? 別の意味ですげえ・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ