76食目 ナベド活火山遭遇戦
「グツグツ大根はの、ナベド活火山の噴火を抑える楔の役割を担っておる」
ガンテツ爺さんの情報は即ち、俺にグツグツ大根の獲得を諦めろ、といっているようなものであった。
「ふきゅん、それではグツグツ大根を獲得できないでき難い! だから俺は諦めの境地に達するだろうな」
「そう悲観するでないわ。要は一度に沢山採ってしまわなければいいだけの話じゃ」
「それじゃあ、一本や百本とっても?」
「百本はダメじゃ」
ちぃっ! よく聞いてやがるぅ!
「それじゃあ、十本くらいなら大丈夫かな?」
「多分の」
「では、グツグツ大根を頂戴しにユクゾッ!」
というわけで、次の日の早朝。
クロナミに乗り込んでナベド活火山の火口へと進撃開始。
「クロナミで火口までは無理だね」
「そうね。予定通り戦機で向かいましょう」
ヤーダン主任の判断は正しく、中腹辺りで急斜面が姿を見せた。
よって、クロナミはここで待機となり、俺たちは戦機に乗り込み火口を目指す。
ワイルド姉貴のガントライも、クロナミ護衛のためにここで待機だ。
「よぉし、アイン君、エルティナイト、行くぞ」
「あい~ん!」
エルティナイトに乗り込んだ俺は、早速クロナミより出撃。
えっさほいさと急斜面を登り始めた。
その脇を、すい~、と通り過ぎるヒュリティアのルナティック。
『……頑張ってね、エル』
「きたない、スラスター移動、きたない」
クロヒメさんのアインラーズも、ガンテツ爺さんのスチムルトことデスサーティーンもスラスター移動でさっさと急斜面を通り過ぎてゆく。
「おんどるるあっ! こっちも負けてられぬぅ! アイン君!」
「あい~ん!」
わっせわっせ、と急斜面を登るエルティナイトはスラスターが無いので一苦労だ。
そして、後で魔法障壁で階段を作ればよかった、と気づき大変にしょんぼりしたのは内緒である。
最初の難所をクリアした俺たちに立ちはだかるように姿を現したのは溶岩の川であった。
ぐつぐつ、と煮立つ溶岩の川に落ちようものなら一巻のお終いである。
にもかかわらず、その通り道は超狭いという。
でも、スラスター移動している連中には関係ない話でした。
「押すなよ? 絶対に押すなよっ!?」
『……押してほしいの?』
「調子ぶっこきました。許してくだしぁ」
巨体のエルティナイトでは狭い道を行くのはきついねんな。
結局、時間が掛かる、という事で騎馬戦の要領でエルティナイトを持ち上げてもらい、この難所をクリアいたしました。
そして、溶岩の滝が見えてきた頃、火口はもう目前であることを認める。
『……エル、あそこ』
「おん? おぉ、あの赤い輝きはぁ!」
火口付近でキラキラと輝く何かが窺えた。
恐らくはグツグツ大根で間違いないだろう。
そして、そこから感じ取れるいやぁな力。
「いるなぁ……」
『……エルも感じた?』
「あぁ。みんな、機獣がいるぞ」
俺は機獣の放つ【陰の力】を感じ取り注意喚起を促した。
クロヒメさんとガンテツ爺さんも俺の言葉を疑うようなことはなく、臨戦態勢へと移行する。
『なぁんだ、気付いちまったのかよ』
その時の事だ、突如として地面が割れ、溶岩と共に一機の巨大な機獣が姿を現した。
それはエルティナイトよりも大きく、全高二十五メートルくらいはありそうである。
「何者だぁっ!」
『くかかかー! 俺は機械人【P・モレント】! そして、こいつが機獣【ロ・メカ】だ!』
「亀だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
それは、圧倒的な亀であった。
真っ赤な巨大な亀は溶岩も物とはしないほどの頑強さを備えているようだ。
その背中の甲羅が展開し、多数の砲門が生え出てきた。
見た目通り、その装甲と、砲門の火力で押し切るパワータイプであるもよう。
『ここは何人たりとも通すな、との命令だ! 可哀想だが消えてもらおう!』
「帰ったら許すのかぁ?」
『見た者も殺せって命じられている』
「ですよねぇ」
だが、それは俺たちも同じこと。
機獣死すべし、情けむっよー!
「ならば! 精霊戦隊エレメンターズ見参! 邪な企み許さぬ我らの鉄槌を受けてみよ!」
『小賢しいわぁぁぁぁっ!』
野太い声で機械人を名乗るP‐モレントとロ・メカとの戦闘が開始された。
先手はP・モレントのロ・メカから。
甲羅より生え出てきた無数の砲門より、エネルギー弾が連射される。
威力云々いう前にその密度。
弾幕というよりかは輝く壁が押し迫ってくる、と言った方が良い。
「唯一無二の盾っ!」
したがって、エルティナイトで魔法障壁を展開し仲間を護る。
だが、パリンパリン、と音を立ててビビが入ってゆく輝く障壁に、俺は思わずじょばリッシュし掛けた。
「あいあ~ん!」
「分かってる! 多重魔法障壁展開!」
どうやら、魔法障壁一枚では耐えきれないらしい。
であるなら、追加でもりもり重ねて差し上げろっ!
『なんとっ!? このロ・メカの火力を防ぎきるとはっ!』
「この精霊戦機エルティナイトを、そこら辺の戦機だと思うなよっ!」
「てっつ~!」
P・モレントが明らかな動揺を見せる。
その隙を逃すヒュリティアではない。
予想通り、彼女のスナイパーライフルは火を噴くも、しかし赤い亀の重装甲に弾かれた。
『……ちっ、実弾では無理ね』
『使って!』
クロヒメさんのアインラーズからビームライフルが投げ込まれる。
それを、ルナティックが受け取りロ・メカに向かって発射。
黄金色の閃光がロメ化に命中するも、僅かに表皮を削ったのみであった。
『ええい! 硬すぎじゃろっ!?』
ガンテツ爺さんのビームライフルも、やはり弾かれた。
全体的に我がチームは火力が足りないもようだ。
『くかかかー! なんだ、そのだらしない攻撃はっ!』
ロ・メカが大きく腕を振り上げる。正しくはヒレであるが。
『攻撃とは、こうするのだ!』
ヒレで地面を叩きつける、と急に足元に超高熱反応。
『避けてっ!』
クロヒメさんの悲鳴に近い警告で、咄嗟にそこから離れる。
すると、そこから溶岩の柱が飛び出してきたではないか。
こんなものに当たっては、ひとたまりもない。
「これは拙いぞ。ヒーちゃんたちの火力が期待できない」
「あい~ん!」
「そうだな。なら、俺たちが火力に回る!」
あの亀は分類的にスーパーロボットであるのだろう。
ならば、同じくスーパーロボットであるエルティナイトが相手を務めるのが道理だ。
「いっくぞ~!」
盾を前面に押し出しゴリ押すスタイル。
それを認めたP‐モレントが再び砲門を向けてきた。
『面白い! このロ・メカと正面からやり合うか!』
「ナイトは真っ向勝負しかできないできにくい! だから俺は突撃するだろうな!」
再びエネルギー弾が殺到する。
今度はエルティナイトのみに狙いを定めたようで。とんでもない密度の弾幕が殺到してきた。
多重魔法障壁が割れる割れる。破壊に展開が追いついていない。
「ならっ! こいつでどうだっ!」
俺は魔法障壁の形を自由自在に変形させることができる。
であるので、魔法障壁を平面から鋭利な円錐状に変形させ突撃を続行した。
『な、なにぃっ!? エネルギー弾がいなされるだとっ!?』
P・モレントが動揺を見せた。
そう、平面ではなく槍のように先がとがっているため、エネルギー弾を受け流すことができるようになったのだ。
そして、この魔法障壁は攻撃に転じることも可能である。
「くらえっ! 魔法突撃槍!」
盾だけど槍です。
エルティナイトの盾より発生した青白く輝く槍は、赤い亀の右肩の装甲を抉り取った。
びっくりしたことに、この亀さん、意外と機敏に動く。
『しゃらくさいわぁっ!』
「ふきゅんっ!?」
「あいんっ!?」
お返し、とばかりにカウンターのぶちかましを決めてくる。
その衝撃でエルティナイトは吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。
その強烈な衝撃は、重力制御魔法を行使して衝撃に強いはずの俺の幼い肉体に大ダメージを与えてきた。
口の中が鉄の味でいっぱいになる。
「ごふっ、チ、チユーズ!」
『ないぞう』『そんしょう』『ちりょうに』『あたる』
予想通り、内蔵をやられたらしい。
即座に治癒の精霊たちに治療に当たらせる。
「冗談じゃねぇ! 深緑よりも遥かに強い!」
幾らエルティナイトが問題無くとも、何度もこんな攻撃を受けていたら、パイロットの俺の方が持たない。
果たして俺たちは、機械人P・モレントと、機獣ロ・メカに勝利することができるのであろうか。




