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75食目 グツグツ大根の情報を求めて

 グツグツ大根を捜索して早三日。

 今日もグツグツ大根を発見できず、ノミユの町へと引き返す。


「だめだぁ、見つからぬぇ!」


 むっは~、とクロナミのソファーに身投げする俺は、しょんぼり珍獣だ。

 アイン君も怒りの身投げを敢行。

 今は俺の腹の上でまったりとしている。


「……闇雲に探し回っても駄目ね。ノミユで情報を得てから探しましょう」

「むむむ、自力で探すのが冒険の醍醐味なんだがなぁ」


 そんな俺のこだわりを、一瞬で砕いたのがクロヒメさんだ。


「有給がなくなりそうだから、あと、三日で探し当てるわよ」

「身も蓋も無いんだぜ」




 というわけで、翌朝に聞き込み開始。


 俺は、かさかさ、と挙動不審な動きを見せつつ保育園に不法侵入。

 鼻たれボーイ、おませガールに聞き込みを開始する。


「おらぁん、ゲロっちまいなぁ」

「あ~い」


 悲しいことに、殆どが会話ができないお子様だった。

 もう少し、大人な連中に絞った方が良さそうだ。


 仕方がないので保育士を脅迫して情報を得よう。


「グツグツ大根の情報を寄こせぇ。さもなくば、この子のぷにぷにほっぺを蹂躙するぞぉ」

「あら、見ない子ね? どこの子かしら?」


 俺の暗黒微笑を交えた脅迫も通じず、遂には逆に捕獲されてしまうという結末に、俺は「ふきゅん」と鳴くより他になかった。


「グツグツ大根? あぁ、あの真っ赤な大根の事ね」


 俺を抱き上げる保育士のお姉さんは、しかし、グツグツ大根の在処を知っていたのである。


「そう、それ。どこにあるか知ってる?」

「知ってるわよ。グツグツ大根はナベド活火山の火口に生えているの」

「マジか」

「マジよ」


 迫真の集中線を使いこなす保育士のお姉さんは中々の美人さんであった。


 どうにも山頂付近ではなく、本当に火口周辺に生えているとのことだ。

 危険極まりない場所に生えてんじゃねぇよ、ふぁっきゅん、というものだ。

 道理で見つからないはずである。




 その後、俺は対価を支払う事になる。

 そう、チャイルドどもと遊ぶ羽目になってしまったのだ。


「待て待て~」

「きゃっ、きゃっ!」


 遊びの内容は【追いかけっこ】である。

 鍛えられし白エルフの実力をもって、全員狩り尽くしてくれよう。


 ……そう思っていた時期が俺にもありました。


 まったく追いつけぬぅ! ええい、猪口才にもサイドステップを決めやがって!


「ふきゅ~ん! ふきゅ~ん!」

「ここまでおいでっ!」

「あーうー!」


 まともに喋れないチャイルド様にも虚仮にされる始末。


 どうしてくれるのこれ?


「ほらほら、エルティナちゃんもがんばって!」

「ふにゅおぉぉぉぉっ! 白エルフの底力、見せたるわっ!」


 結局、惨敗でした。ノミユのお子様は化け物かっ!?




 保育園を後にした俺は、ちゃっかり昼飯も頂いてご満悦だ。

 お子様用なので満腹にまでは至らないが、たっぷりの愛情が籠った料理は確実に俺の心を満たしていた。


 内容は辛さがきつくないお子様ランチだ。

 ニンジンライスにミニハンバーグ、ミニオムレツ、野菜ムースとオレンジといった物が可愛らしい柄のワンプレートに載せられている。


 子供たちの好きな物ばかりな昼食は瞬く間に完食されてゆき、彼らの血肉となって共に生きてゆくことになる。

 食事が終わった彼らは昼寝の時間となり、すやすや、と寝息を立て始めた。


 そのタイミングで、俺は保育園をお暇したのである。


「さぁて、みんなは情報を掴んだかな?」


 俺は集合場所である大衆食堂へと急ぐ。

 年季が入った店は良く繁盛しており、暖簾をくぐり店内へと足を運ぶ、とそこにはお腹を空かせた客で賑わいを見せていた。


「エルティナちゃ~ん! ここだよ~!」


 エリンちゃんが、ぶんぶん、と手を振って存在をアピールしてくれた。

 既にテーブル席を取っていてくれたようだ。


「おう、遅かったの」

「遅れたんだぜ。でも、情報はばっちりだぁ」


 どうやら、昼食は既に注文してくれていたようで、超大盛りの真っ赤なざる蕎麦が運ばれてきた。

 テーブルのど真ん中に鎮座したそれは【とんがらし蕎麦】という料理であり、名前通り辛い蕎麦であるという。


 辛い麺に対し、付けタレはキンキンに冷えており甘じょっぱい。

 この町の料理は引き算方式のようで、丁度いい塩梅へと辛さを持ってゆく方法をよく弁えていた。


 また、この蕎麦は噛むと辛いので、辛さが欲しい時は咀嚼を。

 必要ない時は、ごっくんちょ、と丸飲みするといいらしい。


「いただきま~す!」


 蕎麦といえば天ぷら。


 俺は追加で【火炎シソの天ぷら】注文。

 からり、と揚がったシソの天ぷらが運ばれてきた。


 エリンちゃんも俺を真似て、【ホットブーブーの天ぷら】を注文。

 ヒュリティアは【ミント巻きチーズの天ぷら】を。

 ワイルド姉貴は【鶏ささみのミントチーズ天ぷら】をチョイス。

 クロヒメさんは【チョコレートの天ぷら】だ。


 ふぁっ!? チョコレートっ!?


 いや、ビターチョコならワンチャンの可能性が微レ存?


「いやぁ、ここは僕にとって天国のような場所だね」


 そして、ヤーダン主任は【とんがらしの天ぷら】を注文した。

 まさに、狂気の沙汰である。


 尚、ガンテツ爺さんは蕎麦以外はいらない派のもよう。


「まずは、とんがらし蕎麦自体の味をば」


 ぞぼぼ、っとキンキンに冷えた付けダレに少し付けて啜る。そして咀嚼。

 ぴりり、という辛みが口全体に広がり、鼻腔を蕎麦の爽やかな香りが一瞬で駆け抜けていった。

 冷たいのに熱い、そんな矛盾を感じさせる不思議な料理だ。


「これは面白いんだぜ」


 ずずず、と蕎麦を飲み込む。

 口直しに、とカリカリ、さくさく、の天ぷらをぱくり。


 シソの清涼感と……あっ、辛い!


 そう言えば火炎シソだった。

 火炎と冠するからには辛いに決まっているだろうに。


 でも、その辛さは衣の油によって瞬く間に中和された。

 良く計算されている料理である、と認めざるを得ないだろう。


 俺は天ぷらには【塩】というこだわりを持っている。

 よって、これも塩を振りかけた。


 逆にヒュリティアは醤油タレが好みのもよう。

 歯応えよりも、しっとりしている方がいいらしい。


 エリンちゃんは……まて、塩と醤油タレを同時使用するんじゃあない。


「エリンちゃん、それはしょっぱいんだぜ」

「え~、それがいいんじゃない」


 どうやら、エリンちゃんは濃い味付けが好みのもよう。

 味覚が壊れちゃうので、修正して差し上げなくては。


「あい~ん」

「アイン君は食べ物で遊ばない」


 鉄の精霊アイン君は、とんがらし蕎麦に埋まってまったりとしていた。

 彼は実体を持たないので別に汚いとかではないのだが、こういう行動はさせない方が良いだろうとの判断だ。


 だが、最近のアイン君は料理に興味を示すようになってきている。

 食事中の俺に纏わり付いてきて、それ何、どうなの、と問うてくるのだ。


 それは、ヒュリティアの相棒ブロン君も同様であるもよう。


「……精霊も食べるという行為に興味を持ち始めたわね」

「良い事なのか?」

「……良い方、悪い方、両方ある」

「そっか~」


 ぞぼぼ、っととんがらし蕎麦を啜る、とそれを追いかけてアイン君が口の中に入ってきた。


 まぁ、いつもの事なのだが。


 そして、俺のお腹からチユーズたちと一緒に出てくる。


『このそばは』『だれが』『つくったぁ』『こんな』『ものが』『くえるかぁ』

「あいあ~ん!」


 食ってんだよなぁ。


 ちゃっかり、チユーズどももとんがらし蕎麦を食っている。

 食っているというよりも、俺と感覚を共有しているため味を理解していると言った方が良いだろう。


 そして、都合が悪い感覚だけ遮断するという。主に痛覚。

 まぁ、そのお陰で俺自身が負傷しても治癒魔法が正常に働くのだが。


 腹が落ち着いたところで、集めてきた情報を交換し合う。


 俺が取得したのは、グツグツ大根は火口に生える、というものだ。


 ヒュリティアは八百屋のおっさんから、グツグツ大根は特殊な素材であり猛毒を持っている、といった情報を取得していた。


 エリンちゃんは、グツグツ大根は超高熱を発しており危険、といった情報を近所のおばちゃんから引き出していた。


 クロヒメさんは、チンピラを叩きのめし、彼らから火口付近に怪しい連中がいる、という貴重な情報を得ている。


 ワイルド姉貴は、そのエロい身体を駆使しておっさんどもから、機獣が火口近辺をうろついているとの情報を持ってきている。


 ガンテツ爺さんは、最も重要な情報を取得していたもよう。


 彼は、コホン、と咳払いし、その情報を提示した。


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[一言] どういう大根だ・・・
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