66食目 ナベド活火山
ジェップさんよりもたらされたグツグツ大根なる珍食材がある場所は、決して雪が積もらないという火山、【ナベド活火山】。
いつも気まぐれに噴火し周囲に被害をもたらすもマグマが流れ出たことはほぼ無いという。
精々火山灰のみであるが、その火山灰はなんと食べれるという。
そういう経緯からか、火山の麓には数多くの町ができあがっていったらしい。
そこなる火山の天辺に生えるのがグツグツ大根だという。
ナベド活火山へ行くことが決定した俺たちは、それに向けての準備を始める。
戦機といえども、火山の熱に耐えるにも限度というものがある。
したがって、機体に対熱処理を施すのは当然と言えた。
次の日、俺たはマーカス戦機工場を訪れた。
対熱処理を施してもらうためだ。
相変わらず繁盛しているようで、多数の戦機を従業員たちが修理している光景が目に飛び込んでくる。
機械油の匂いも充満し、それが野郎どもの汗のにおいと混じって、どえらいこっちゃあ、だ。
「おいくら?」
「しめて二万ゴドルだな」
「うん? マーカスのおっさん、一体五千ゴドルって言ったなかった?」
「馬鹿野郎、エルティナイトが、どれだけデカいと思ってやがる。二体分だぞ」
「ひぎぃ」
マーカス戦機工場の真ん中で、俺は理不尽を訴えた。
「俺は小さいんだから、まけちくりぃ!」
「却下だ」
だが、当時の俺は幼く説得力が無かったのであった。
「くそう、出費がかさんでばかりだぁ」
「あい~ん」
「……そうね、ここいらで大きく稼いでおきましょうか」
とヒュリティアと共にキアンカ戦機協会へと向かう。
目的は依頼掲示板の美味しいお仕事である。
「……うん、見つけた」
「何を?」
「アクアトラベンシェルの納品」
「クッソ早ぇな」
大方、ジェップさんが情報を流したのだろう。
まぁ、こちらはそれを利用させてもらうつもりだが。
「アクアトラベンシェルって余ってたっけ?」
「……クロナミの冷蔵庫にたんまりと」
というわけで、アクアトラベンシェル三十個で、五千万ゴドルの稼ぎになりました。
そして、納品先の豪邸で何故かそれを調理させられて追加報酬をいただく。
追加で一千万ゴドルは美味しいです、はい。
「世の中には、とんでもない金持ちがいるもんだぁ」
「……そして、美味しいものに目が無いのはカモ同然ね」
そのお金持ちはグマプッカの成金【カネェ・モットルド】伯爵である。
エンペラル帝国の中堅層ではあるが、とても商売上手で、各企業との太いパイプラインを持っているらしい。
「案外、カモにされてんのは俺たちかもな」
「……否定できない」
さっき作った料理も、最新式の超大型冷蔵庫に保存しておき、大切な客に振舞うそうだ。
そう告げたカネェさんの、してやったり顔、ときたら……。
「……エル、アクアトラベンシェルの調理方法は、まだ誰にも教えていないわよね?」
「いつもの居酒屋のマスターには教えた」
「……なら大丈夫ね。特許を申請しましょう」
「特許? そんなものまであるのか」
「……当然でしょ」
この第六精霊界には特許制度があるらしい。
それを利用して、アクアトラベンシェルの調理方法を公表しガッツリと儲ける、という算段だ。
民衆は美味しくアクアトラベンシェルを食べることができるし、俺たちも潤って一石二鳥というのだから、やらない手は無いよなぁ?
「ふっきゅんきゅんきゅん……これで精霊戦隊はあと十年戦える」
「……といいわね」
情け容赦ないヒュリティアさんのツッコミに、俺は「ふきゅん」と鳴く羽目になるも、これをおケツを締めることによってカバー、悲しみの放出を未然に防ぐ。
かくして、俺たちは一億ゴドルもの特許料を得るに至る。
そして、それが一瞬で借金返済で消滅した。
ここに至り、俺の悲しみは限界を突破し、遥か天空へと俺を導かんとする。
「放屁せざるを得ない」
「……我慢」
ぎゅむっ、とおケツを掴まれては出るものも出ない。
結局、悲しみは放出されず、世界に平和が訪れたとかなんとか。
ぷじゃけんなっ!
数日後、俺たちはナベド活火山へと出発。
いつもの面子に二名ほど加わっているのは、それだけ今回狙っている食材の獲得難易度が高いこと、ともうひとつ……。
「機獣たちが、ここら辺で見かけられたって本当なのかな?」
クロナミのリビングルームのソファーの上で膝を抱えるエリンちゃんは、不安そうな表情を見せる。
そう、ナベド火山に機獣らしき存在が確認されたというのだ。
食材のゲットの前に、連中をしばかざるを得ない。
いないに越したことは無いのだが、いるのであれば近隣の住民たちが危険に晒されるのは明白である。
であるならば、騎士を目指す俺が放って置くわけがないんだよなぁ。
「話は聞いてるけどさ、あたしは移動砲台くらいにしかならないよ?」
「それで十分じゃて。ナベド活火山は足場が悪いからの」
「クロナミの減った砲門じゃあ、機獣には対応しきれないものね」
クロナミの新たなる顔とは……まぁ、新しくはないけど、ワイルド姉貴とクロヒメさんだ。
クロヒメさんはちゃっかり精霊戦隊のメンバーなので特に問題は無い。
一方のワイルド姉貴は正式なメンバーではなく【サポート】としての参加である。
戦機協会に登録している戦機乗りは、時折、協会より招集が掛かるのだが、チームに所属していない者はチームから助っ人として呼ばれる場合がある。
今回は人手が足りない、ということで丁度暇をしていたワイルド姉貴が助っ人一覧に登録されていたので起用となった。
もちろん、呼び出しを受けた戦機乗りは、これを吟味して断るのも自由である。
クロヒメさんは、この日のために有給を使ったらしい。
何故にそこまでするのか、これが分からない。
はい、嘘でございます。もう理解しておりますとも。
現在、わたくしめは彼女の膝の上で、おっちゃんこ、させられております。
動けねぇ珍獣は、ただの珍獣だ。
「機獣が出るって噂がなけりゃあ、手を煩わせることもなかったんじゃがなぁ」
「それは別にいいさ。暇してたし」
ワイルド姉貴は半裸に近い格好でソファーでくつろいでいる。
男時代、即ち前世であれば、間違いなく突撃していたことであろう。
だが、俺は幼女に慣れてしまっていた。
悲しいくらいに反応を示さない。
まぁ、でっかい【おっぱい】には反応しないこともないが、それはお子様がお母ちゃんに甘えたくなる衝動に近い。
全くもって、TS転生は度し難いものであるな、と思ったりする。
別の喜びがあるだろう、とかなんとか思っていたが、そんなものは無かった。
俺の行動って、どっちかと言えば男女共有であるからして。
食う、寝る、遊ぶ。これが俺のジャスティス。
したがって、性別なんていらねぇんだよ! ぺっ! ということになる。
悲しいなぁ。
「えーっと、なんで僕は、こっちの姿にされているんだい?」
「ワイルド姉貴が参加してるからかな?」
「いや、確かに彼女は魅力的ではあるけど、僕は女性の裸は見慣れてるから」
ヤーダン主任は女性での参加。
ワイルド姉貴がいるから仕方がない。
そう若気の至りはあまり許されないのだ。
そんなヤーダン主任をねっとりと見つめるワイルド姉貴。
まさか、という【いやぁん】な予感が頭を過る。
「あんた、可愛いねぇ? あとで一汗流さない?」
「え?」
「すたぁぁぁぁぁぁっぷ! それ以上はいけない、いかせない!」
「あいあ~ん!」
残念なことに、ワイルド姉貴はそっちのお方であった。
このままでは、いろいろと危険が自己主張しまくるので、なんとしても百合を越して向こう側に行っちまうのを阻止しなければならない。
あぁっ!? ヤーダン主任の柔らかな肌が、ワイルド姉貴の褐色の肌に侵略されようとしているっ!
このままでは、色々な意味で、この物語が、あぶなぁ~い!
「こりゃ、じゃれるのは後にせんか」
「あぁん、いけずぅ」
そんな危険な状況は、ガンテツ爺さんがなんとかしてくれました。やったぜ。
そもそも、俺はクロヒメさんにホールドされちまっていて身動きが取れない。
「助かった、もう駄目かと思ったよ」
「ヤーダンが言うなら分かるが、なんでおまえさんが言うんじゃ?」
「さだめゆえ」
「分からんわい」
ズバッ、とツッコむガンテツ爺さんは、我がチームに必要不可欠である。
ヒュリティアの場合は、ツッコミで死者が出かねないので注意が必要だからだ。
「ところで、ヤーダン主任」
「なんだい?」
「暑くないの?」
ヤーダン主任は白衣を着こんでいて、見ているこっちが暑苦しく感じる。
一応、リビングは冷房を利かせているのだが、節約のため涼しいとまではいっていないのだ。
「あぁ、この下は水着だよ、ほら」
「見せなくても良いです」
がたっ。
「もちつきたまへ」
「あぁ、突きたいねぇ、もち」
両手をワキワキさせながらヤーダン主任に接近するワイルド姉貴を、俺はいよいよもってクロヒメさんの拘束を逃れて阻止せんとする。
こりゃあ、早急に彼女に激辛カレーを食べてもらって男に戻ってもらわないと、いろいろと死者が出る。
『……そろそろ、ナベド活火山よ』
少し貯めのある独特の喋り方は、クロナミを操縦しているヒュリティアだ。
クロナミの操縦に慣れておきたい、という申し出を受けて彼女に頼んだのだが、初めてとは思えないほどの腕前を披露している。
尚、俺が運転したところ、早速船体を擦ってしまったので降ろされた。鳴きたい。
「むっ、もうか。かなり飛ばしておったみたいじゃの」
「まずは【ノミユの町】に寄るんだっけか?」
「うむ、山に入るには遅すぎるしのう。一晩明かして、早朝に入るのがええじゃろ」
こうして、俺たちはまずノミユの町で一晩明かすことになる。
新たな町には、いったい何が待っているのであろうか。
俺は真っ平な胸に期待を抱きつつも、町への到着を待ったのであった。




