65食目 アクアトラベンシェルを堪能し尽くせ!
まだまだ続くよアクアトラベンシェルの調理。
刺身と煮込みは試した。あとは焼きだ。
バーベキューコンロの焼き網にアクアトラベンシェルを載せてどうなるか観察。
だが、焼き網に乗せた瞬間、パチュッ、とサザエが殻の中で爆ぜてしまった。
どうやら、ただ焼くだけではダメらしい。
「むむ、また問題発生かぁ」
「難しいものだね、料理って」
ヤーダン主任は失敗が続く調理に難しさを覚えているようだ。
「これは調理法が確立されてないから難しいのであって、調理の仕方が判明していたら簡単なんだぜ」
「そういうものなのかい?」
「機械の設計図を見て作るのと一緒かな」
「あぁ、そう例えられる、と僕には分かり易いかな」
なるほど、とヤーダン主任は結構ボリュームがある乳房を抱えた。
身体が細いわりに胸が大きいので、実際のサイズよりも大きく見える。
Fくらいはありそう。ありそうじゃない?
「う~ん、ただ焼くだけじゃダメか……」
「じゃあ、鉄串を刺して焼いてみたら?」
「それじゃあ、発案者のエリンちゃんに、その作業を任せよう」
「任せてよっ」
うん、まさか鉄串をアクアトラベンシェルの殻ごと貫通させるとは思わなかった。
いくら、ぷにぷにしているからって、その発想に至るのは、ある意味で才能だ。
「はいっ」
「お、おう」
手渡された鉄串を受け取る、とまたしても直感が働く。
今日の俺は妙に冴えているようだ。
鉄串は網には載せず焚火の周りに串を刺し、じっくりと焼き上げる方法を選択した。
「むむ、アクアトラベンシェルの旨味が鉄串を伝って流れちまう」
「勿体ないのう」
「……じゃあこれ」
ヒュリティアさん、ないすでーす。
メッサモドキの肉をアクアトラベンシェルの下に刺し、旨味成分を頂戴する、という方法だ。
これなら勿体ないことが無い。
メッサモドキの肉は焼いても旨味成分が流れない不思議な肉であることは、先ほど焼いてみて確認済みである。
アクアトラベンシェルの方も、今のところは爆ぜたりしていない。
焼き始めて五分、アクアトラベンシェルに変化が起こった。
なんと、黄金色に輝き始めたのである。
いったいなんなんだ、この食材は。面白過ぎるだろう。
先ほどからワクワクが止まらない。
手を掛ければ掛けるほどに、色々な表情を覗かせる食材に夢中になる。
「もう良さそうじゃの」
「うん、じゃあ食べてみてくれい」
鉄串からアクアトラベンシェルを外して皿に載せる。
それをガンテツ爺さんに渡した。
彼はアクアトラベンシェルを殻ごと口にしたではないか。
「殻ごといった!?」
こりこり、ぽりぽり、という賑やかな音が聞こえてくる。
噛み締める度に頷くガンテツ爺さんは、徐々に不気味な笑みを見せ始めた。
「ど、どうしたんだぁっ!?」
「ふひっ、ふひひひっ! こりゃあ、堪らんわい!」
そして、残っていた焼きサザエを盗られまい、とガツガツ口の中へと放り込み完食。
ぶはぁ、と盛大なため息を漏らす。
「美味い! それしか言いようがないわい!」
「これは実際に食べてみないと分からない系だな」
次々と焼き上がるアクアトラベンシェルを皆に配って実食。
確かにガンテツ爺さんの言うとおり、美味いの一言に尽きる。
なんと表現すればいいのだろうか……海の旨味を凝縮して、熱という調味料を加えた、ではそのままの表現か。
とにかく、言葉では言い表せない。
「これは、なんというか……身体ではなくて魂が喜んでいるっぽい」
「……妙な表現ね」
エリンちゃんの発言に妙な違和感を感じる。
しかも、よくよく見ると彼女がぼんやりとだが、青く発光しているのが見て取れた。
しかし、それに誰も気づいていない、という事実に俺は「ふきゅん」と鳴いた。
「妙というか、なんというか……うっ」
その時の事だ。
体の芯というか、それよりも、もっと奥深くにある何かが反応を示した。
ドクン、という感覚がそれを鮮明に自覚させる。
でも、だからどうした、なんだよなぁ。
なので、続く言葉はこれだ。
「うんばらほー」
「……なんでその言葉が出たのか聞いていい?」
「軍事機密だからダメ」
「……それならば仕方がない」
というわけで、うんばらほーの謎は守られたのである。
「いや、しかし、美味しいね」
モリモリと食べ進めるヤーダン主任。
どうやら、アクアトラベンシェルの串焼きがお気に召したもよう。
「……ねぇ、ヤーダン主任」
「うん、何かな?」
「……さっきよりも、なんだか大きくなってない?」
「どこがだい?」
「……おっぱい」
「えっ?」
ヒュリティアの指摘に彼女は思わず胸を抱える。
「た、確かに……大きくなっているっ!? どういうことだっ?」
「ひえっ、私のも大きくなってる」
なんと言う事でしょう、エリンちゃんの【ほどほど】のパイパイも大きくなっているではありませんか。
「美味しく調理された食材が気を利かせて、部分的な成長を促した……?」
「……その可能性は否定できない」
そして、まったく成長しない俺たちは、完膚なきまでに幼女である。
「いや待て、ヒーちゃん。その胸の膨らみは?」
「……いやーん」
棒読みいやーん、はいかがなものであろうか。
その幼女のバストは豊かであった。
「なんなんじゃ、これは。わしの女房が調理しても、このようなことは無かったぞい」
「うん、なんというか、さーせん」
「……エルが調理すると、極当然のように発生するから」
フォローになってないフォロー、ありがとうございます。
「まぁ、その内に治るんじゃね? 死にゃあせんせん」
「身も蓋もないね。まぁ、僕の場合は男に戻ればいいだけだし」
「わ、私は正直、嬉しいから戻らなくてもいいかなぁ」
ヤーダン主任とエリンちゃんは問題無いようだが、ヒュリティアはよろしくないもよう。
「……バランスが悪い」
「あぁ、上半身にお肉が偏ってるな」
ヒュリティアは、おヒップがそのままなので違和感を感じるもようである。
幼女だから仕方がない。
「ガンテツ爺さんは変化が無いんだな」
「男が巨乳になったら気持ち悪いじゃろ。アクアトラベンシェルが空気を読んだんじゃないのか?」
「アクアトラベンシェルは賢いお方」
というわけで、アクアトラベンシェルの調理方法を幾つか確立し、キアンカへと引き返す。
追加でアクアトラベンシェルをゲッツしたのは言うまでもない。
その日の晩、俺たちはアクアトラベンシェルを手に、いつもの酒場にレッツラゴー。
ジェップさんにドヤ顔を見せつける。
「こりゃあ、驚いた。まさか本当にアクアトラベンシェルを獲得してくるだなんてな」
「ふっきゅんきゅんきゅん、どやぁ」
まさかのアクアトラベンシェルの獲得に、ジェップさんも思わず脱帽する。
どうやら、俺がアクアトラベンシェルを獲得できるとは微塵も思っていなかったようだ。
「いや、それよりも、メタルサンショウウオモドキはどうしたんだい?」
「倒して食った」
「いや、返答の内容がおかしいから」
とはいえ、俺は事実しか言っていない。
まぁ、論より証拠だ。
持って来たアクアトラベンシェルとメッサモドキを調理して食べさせれば、きっと納得を示すであろう。
というわけでマスターに許可を得て台所を使わせてもらう。
作るのはアクアトラベンシェルの刺身と串焼き、後はミルフィーユである。
おっさんであるジェップさんは、これらを清酒と合わせるのがよかろうなのだ。
そして、ちゃっかりガンテツ爺さんもご相伴に預かる気満々な点について。
ま、ええわ。
「それよりも、ヤーダン主任」
「なんだい?」
「男に戻らないの?」
「お昼に食べ過ぎたせいで、晩御飯が食べられなくてね」
「あぁ……すっげー食ってたもんな」
そんなわけで、ヤーダン主任は、ちょっとエロい白衣のお姉さんのままであった。
「はい、出来上がり。調理方法さえ分かれば、あっ、という間だぜ」
「ふぅむ、見事だな」
これにはマスターも思わず唸った。
試食をしてもらったが、店のメニューに載せたい、と意欲的である。
だが、これは色々と限定メニュー的な料理であることを示唆。
納得をしていただいた。
「うおっ、これがS級食材か!」
「食べたことが無かったんかい」
「そりゃあ、そうさ。たかが情報屋が口にできる物じゃあない」
刺身、清酒、と交互に食べ進めるジェップさんは既に出来上がりつつあった。
ついでにガンテツ爺さんも出来上がりつつある。
「ふふん、これで俺の実力が分かっただろ」
「うんうん、これならば、次の食材の情報も教えられるなぁ」
「なぬぅ?」
ビコン、と俺の大きなお耳が立った。
ジェップさんは、アクアトラベンシェル以外の高位食材の情報を持っている、というのだ。
「活火山に生える、という大根を知っているかい?」
「むっ、【グツグツ大根】じゃな?」
「おや、流石はガンテツさん。知っておりましたか」
「ふん、相変わらず意地が悪い奴じゃ」
ガンテツ爺さんは、くい、とお猪口の清酒を飲み干した。
機嫌を取るかのように、空のお猪口に徳利の清酒を注ぐジェップさんは悪い表情だ。
「アクアトラベンシェルを獲得して、更に調理できるのであれば、グツグツ大根も余裕でしょう」
「ふん」
こんな情報を聞いて引き下がるようでは、食いしん坊エルフの名が廃る。
「どこに、グツグツ大根はあるんだ?」
「流石はエルティナさんだ。情報料は、このアクアトラベンシェルの料理で手を打つとして……」
「どうせ、グツグツ大根も食べたいんだろ?」
「いや~、見抜かれてますねぇ」
わざとらしい、が変に嘘を突かれるよりかはマシである。
こうして、俺たちは次なる食材を求め準備を始める。
戦機乗りの仕事?
もちろん、並行して行う。
危険地帯での戦機乗りの仕事の依頼は、まったくもって後を絶たないのだから。




