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60食目 チーム登録と今後の活動

 ◆◆◆ エルティナ ◆◆◆


 クロナミの慣らし運転がとんだものになってしまったわけであるが、被害はゼロだったので多少はね?


 そんなわけで、レ・ダガーが何故、あんなところでチョロついていたのか、だが。


 結論としては、そんなこと知るか、おやつの時間だっ!


 という流れになり、俺が【たこ焼き】を作ることになった。


 どういうわけか、クロナミのキッチンには、たこ焼き専用の鉄板があるのだ。

 これはもう、確信犯の犯行を疑うべきである。


「ふっきゅん、ふっきゅん」


 鼻歌を歌いながら……もとい鳴きながらまぁるい食べる宝石を焼き上げる。

 外はこんがり、中はトロトロが好ましい。


 そして、タコの足は冷蔵庫の中にセッティングされているという用意周到ぶりよ。


「明石焼きもいいなぁ」


 だがしかし、お出汁は無いため諦めざるを得ない。悲しいなぁ。


「エリンちゃん、ウスターソースは?」

「ふっふっふ、たこ焼きのソースは専用の物を使うのがキアンカ流だよ!」


 なにそれこわい。


 エリンちゃんはスッ……と壺を差し出してきた。

 それは結構な大きさであり、蓋を開けると豊かな香りが広がってきたではないか。


 これは紛う事なきウスターソースの香り。

 だが、俺の知るウスターソースの香りとは微妙に違う。


「うちのは酸味を強くしているんだぁ」

「マジに自家製か」

「そうだよぉ。キアンカは昔から、たこ焼きがソウルフードだからね」

「じゃあ、お好み焼きも?」

「あれはトッペルボトのソウルフード」


 どうやら、各町にはソウルフードが存在しているもよう。

 そういえば、結構たこ焼きの出店を見かけるのは、そう言った理由だったのだろう。


「そうなのかぁ、俺もソースを作ってみようかな?」

「あ、それいいかも。ソースって個性が出るから」


 色々と楽しみができたところで、たこ焼きの完成。

 こんがりと焼き上がって美味しそうである。


「あ、【我が家ルール】ってある?」

「え~っと、うちは、掛けるのはソースだけ、かな?」

「分かったんだぜ」


 自家製たこ焼きの掟は絶対である。

 これを破った者は、もれなく白い目で見られてしまう事であろう。

 基本的にはソースを用意した者の意見を聞くことで、これらは回避できる場合が多い。


 たこ焼きは儀式なんやなって。


 というわけで、マーカスさんちルールのたこ焼きをいただく。


「「「「「いただきま~す」」」」」


 食材に感謝を込めてパクリんちょ。


 はふはふ、ほふほふ、と口に空気を入れ出ししてたこ焼きを冷ます。

 すると、たこ焼きの半熟生地と秘伝ソースが混ざり合い、なんとも言えぬ味わいに変化したではないか。


 なるほど、このソースならば他は不要、と断じられる。

 ソースに必要なコクと味の濃さはとろ~り灼熱のたこ焼き生地と出会って新たなる味へと進化を果たす。


 それだけではくどくなってしまうのだが、ソースの強い酸味がそれらを包み込んで、後口を爽やかにしてくれるのだ。


 その効果は、すぐさま次のたこ焼きに手が伸びる、というもの。


 このソースっ! 食べ休むという行為を許してはくれないっ!


 魔性、まさに魔性のソースっ! 深い、深いぞっ!


「ごちそうさまでした」


 結構な量を作って、余るかなぁ、と思っていた時期がありました。

 はい、ものの見事に山盛りだった、たこ焼き、が消滅いたしましたとさ。


「じゃあ、そろそろキアンカに戻ろうか」

「うん、レ・ダガーの件もついでに報告しないとな」


 まさかチーム申請前にチーム活動を行う事になるとは。

 まぁ、誤差だよ誤差、ということで、これを有耶無耶にする。






 キアンカに戻った俺たちはマーカス戦機工場にクロナミを停泊させて、戦機協会へと向かった。

 そして改めてチーム申請書を提出する。


「はい、今度こそOKだよな?」

「はい、確かに必要条件を満たしていますね」

「おいぃ、密かに自分の名前も書きこんでるぞ、このねーちゃん」

「はい、受理されました」


 そして、この笑顔である。


 尚、クロヒメさんは幽霊部員的な立場であり、受付の仕事もあるので現段階では常に一緒には行動できない、と漏らしている。


 だが、俺は察した。


 狙ってる、彼女は純粋な戦機乗りに戻らん、と狙っているのだ。その機会を。


 そして、容赦なく、おれをモフろうと目論んでいることも。


「マジで震えてきやがった」

「うふふ、楽しみねぇ」


 表情は笑顔そのものだが、まったく目が笑っていねぇ。

 獲物をロックオンした鷹の目だ。


 珍獣、食われちゃ~う!


 ぷるぷる、と白目痙攣する俺を雑に回収したガンテツ爺さんは、「それじゃあの」とスタコラサッサしてくれたのであった。




「助かったもう駄目かと思ったよ」

「息が吐かないほどの恐怖か。大袈裟じゃなぁ」


 とはいうものの、束縛される、という行為が怖いのである。

 俺は自由になりたいのだ。


 とはいえ、束縛が待っている元の世界へと戻りたい気持ちもある。


 どっちを選ぶべきかは悩み所さん。


「……取り敢えず、これからの方針は?」


 マーカス戦機工場へと戻った俺たちは、マーカスさんにチーム結成を報告。

 エリンちゃんは自宅にて、いつも通り過ごす。


 チームとして活動しない期間は、個人の自由、が精霊戦隊の基本方針である。


「取り敢えずはクロナミを拠点として活動するから、必要物資の搬入から、かな?」

「それがええじゃろな。わしも家に戻って必要な物を持ってくるわい」

「僕はトッペルボト支店に連絡しないと。ラウン支部長に長期データ収集許可を申請しなきゃ」

「……私たちはベッドの搬入だけね」

「悲しいなぁ」




 というわけで、早々にやることが無くなった俺たちは情報を求めて戦機協会の掲示板へとやってきた。


 ここには、戦機乗りたちが様々な情報を書き残してゆく情報交換の場だ。

 中にはくだらない書置きもあるが、やはり貴重な情報も眠っているもので……。


「おん? こ、これはぁっ!?」


 俺の目が、ギュピーン、と不自然に輝きだした。


 掲示板の隅っこに書かれた、その文章。

【アクアトラベンシェル】発生の時期、を見つけたからに他ならない。


 まったく知らない名前だが、絶対に食材の予感が、ぷぃんぷぃん、する。

 これは調査待ったなしだ。


「ヒーちゃん、これっ!」

「……アクアトラベンシェル? 聞かない名前ね」

「これ、探そうぜっ!」

「……食材じゃないかもしれないわよ?」

「いいや、俺の直感が言っている。これは食材で、俺が求めているものだ、と」


 ヒュリティアは「う~ん」と少し悩んだが、今晩はホットドッグという事で手を打ってくれた。


 それから暫しの間、中古ショップを回り必要品を見て回る。

 結局はただのウィンドウショッピングとなったが、有意義な時間をヒュリティアと共に過ごせたので良しとする。


 やがて日は暮れて、情報収集には打って付けの時間帯になってきた。

 今の時間なら酒場にほろ酔い気分の野郎どもが溢れ返っているだろう。


 というわけで早速、聞き込み開始。


「おっちゃん、アクアトラベンシェルって知らない?」

「あん? アクアトラベンシェルか?」


 いつもの酒場で一仕事終えた戦機乗りたちから情報を引き出す。


「はは、ガキでも、ただじゃあ情報はやれねぇなぁ」

「はい」

「おっ?」


 そう来るだろう、と思ってマスターにキッチンを借りて【鶏肩肉の塩こうじ焼き】を製作してきた。

 しっとりと柔らかく、それでいてボリュームのある部位だ。

 それを塩こうじに付け込んで味わい深く焼き上げた物である。


 こいつは間違いなくキンキンに冷えたエールにぴったりだ。

 丁度、おっさんが飲んでいるのがそれに当たる。


「とんでもねぇ悪魔っ子だな。将来、悪女になるぜ嬢ちゃん」


 そういうと、おっちゃんはフォークで鶏肩肉を突き刺し口へと放り込む。

 二度、三度、咀嚼してゴクリと飲み込むと、勢いよくエールを喉へと流し込んだ。


「ぷっはぁ! 堪んねぇっ!」

「ふっきゅんきゅんきゅん……そうだろう?」

「おおよ。そうそう、アクアトラベンシェルだったな?」

「それそれ」

「アクアトラベンシェル、数十年に一度、陸に上がってくる深海の貝類だ」


 おっちゃんは実は戦機乗りではなく、様々な情報を取り扱っている情報屋だったらしい。

 だからだろう、俺のことも実は知っていたのだ。


「まさに【食いしん坊】だな。あの情報に飛びついてくるとは思っていたが、こんなに早いとは思わなかったぜ」

「確信犯だったのかぁ」

「俺の名は【ジェップ】。情報屋ジェップの通り名で知られている」

「エルティナなんだぜ」

「よろしく、未来のナイト様」


 俺たちはがっちりと握手を交わし、アクアトラベンシェルについて語り合うのであった。


 尚、ヒュリティアは一足早く、ホットドッグ専門店にて存在感を発揮していたという。


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[一言] この情報屋、できる!
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