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59食目 精霊戦隊エレメンターズ

 ◆◆◆ ガンテツ ◆◆◆


 格納庫へと向かう。


 機獣どもとやり合うのは十年ぶりか。

 この腕が錆び付いていない事を願うばかりだ。


 いや、それよりも……自分にまだ、これだけの情熱が残っていたことの方が驚きだろう。


 エリンの母親を守り切れなかった後悔の念は、わしに半引退の道を選ばせる。

 わしの時代は当に終わっていた、それを証明して見せた深緑の悪魔。


 しかし、その悪魔は奇妙な戦機によって撃破されたという。


 見せてもらうぞ、その力を。

 証明してほしい、可能性の力を。


「お爺ちゃん! こっち!」

「……サーティーン」


 エリンが手招きするそこには、わしの愛機【デスサーティーン】の姿。


 TAS‐013‐プロトタイプ・スチムルト。

 世界初となるスチールクラス戦機、そのひな形。

 今となってはオンボロ、と言われても仕方のない機体だ。


 しかし、当初は新素材と圧倒的なパワーとで暴れ回った畏怖の対象であった。


 数機作られた内の一機をわしが受領、数々の激戦をこいつと共に潜り抜けてきた。


「へへっ、お互いに歳を取ったもんだな」


 黒い機体は返事の代わりに駆動音をもって応える。

 エリンがエンジンに火を入れたのだ。


「後はお願い!」

「おう、ありがとよ」


 エリンと入れ替わるようにコクピットへと乗り込む。

 やはり、若い頃のようにはいかない。少しもたついた。


「さぁて、覚えているかな?」


 頭では忘れていても身体は忘れていなかった。

 自然に手が動く。多数のスイッチ、それが何なのか触れる前に思い出した。


「なんじゃ、戦いなんぞ、もうまっぴらじゃなかったのか」


 苦笑する。

 シートベルトを締めた時には、もう機獣を八つ裂きにしたい気持ちでいっぱいだった。


 コクピットハッチが閉まり、一瞬の暗黒に包まれた。

 だがそれも、メインモニターの起動で払われる。


 高揚する気持ち、それは入り口で引っ掛かっているエルティナの機体ですぐさま鎮火させられてしまう。


「こりゃっ! 早う出んかい!」

『ふきゅ~ん! ふきゅ~ん!』


 なんとか外に出たエルティナの機体。

 そんなに無駄な突起部分があるから、入り口に引っかかるんじゃ。


「まったく……こりゃあ、先が思いやられるの」


 装備を確認。


 預けた当初のまま、ビームライフル【BR‐03型】とビーム剣【BS‐02型】。

 どれも、よく扱い慣れた武器たちだ。


「よぉし、デスサーティーン、出るぞい!」


 機体を勢いよく駆け出させる。

 早いところ、この振動に馴染みたいからだ。


 薄暗い格納庫から晴天の下へと飛び出す。

 デスサーティーンの黒い装甲は、日の光を受けて輝きを湛えた。


『おぉう、ガンテツ爺さんの愛機も格好いいなぁ!』

「そうじゃろ? あの蛙なんぞとは違うのじゃよ!」


 スチムルトの直接の系譜である【フロウガルム】は、どうしてああなってしまったのか。

 性能だけを追い求めて外観を無視した結果、あのように歪な外見になってしまった。


 スチムルトのようにマッシブな逆三角形の体形ではなく、極端な逆三角形になってしまったのだ。


 ハッキリ言って、あの戦機に乗っている連中の気が知れん。


『……お喋りはそこまで、来るわよ』

『おう、マカセロー』


 とここでエルティナの嬢ちゃんの機体、エルティナイトが前に出る。

 話によれば、やたらと頑強な戦機らしいが……。


「いやいやっ!? そんなレベルじゃないじゃろ、アレ!」


 レ・ダガーの二連装ビームマシンガンの直撃を受けてダメージを負わない、とかなんの冗談じゃ!?

 規格外にも程があるじゃろうが!


 ……と驚いてばかりもいられんか。


「やれやれ、復帰戦は驚きの連続じゃの」

『……すぐに慣れるわ』

「だといいがのう」


 さり気なく、狙撃銃の一撃でレ・ダガーを二機同時に仕留めるヒュリティアのお嬢ちゃんは、流石は銀閃の名に恥じない動きだ。


 あれは、わしの全盛期でも手を焼くであろう。


 それに比べて、エルティナのお嬢ちゃんは……。


『おんどるるぁあっ! ちょこまかするんじゅあぬえぇぇぇぇっ!』

『キャイン!』


 どたばたと剣っぽい物を振り回しながら無茶苦茶に暴れ回っているだけであった。

 とにかく、全てが雑、そう表現せざるを得ない。


 しかしだ、その行動が計算済み、としたらどうか。


「やりやすいのう」

『……エルが引き付けてくれているからね』


 そう、わしらは立ち回り易いのだ。


【エルティナイト】という盾が、敵の注目を一手に引き受けてくれている。

 その間に、わしらは各個撃破を行って行けばいいだけ。


 このような戦法は昔では考えられない。


「今はこの戦い方が主流なのか?」

『……まさか。エルだけよ』

「なるほどのう」


 ビームライフルから放たれた閃光が鋼の獣を貫く。

 爆発し四散する獣に、他の獣が気付いた。


「おっと、暴れすぎたかの?」

『……来るわ』


 なるほど、ほどほど、が丁度いいということか。


 素早い動きで間合いを詰めてきた。

 考えるまでもなく、ビーム剣を使用し近接戦を敢行する。


 いやはや、まったく、身体というものは大したもので、しっかりとタイミングというものを覚えておるもんじゃ。


 デスサーティーンが逆手に構えた光の剣は飛び掛かってきたレ・ダガーを見事に真っ二つにして除けた。背後で爆発が起こる。

 これに手応えを感じたわしは、続けて二機目を撃破、三機目も仕留める。


『……本当に十年も乗っていなかったの?』

「本当じゃよ。三十年も戦い続けておりゃあ、忘れたくても忘れられんのじゃろ」

『……エル、もたもたしていたら、全部ガンテツお爺さんに持ってゆかれるわよ』

『おいばかやめろ、エルティナイトの活躍が無いとか反則でしょう?』


 相も変わらず、レ・ダガーの猛攻を涼しい顔で耐えきるバカげた耐久力。

 あれが、ルフベルが言っておった【精霊戦機エルティナイト】なのだろう。


 なるほど、大したものじゃて。

 課題は攻撃技術か。


「エルティナの嬢ちゃんは、本格的にカウンターを覚える必要があるのう」

『んの~! それ一番苦手なヤツ!』


 エルティナイトが剣を大降りする。

 当たり前だが、そんな攻撃に当たるレ・ダガーではない。


「ほっほ、こりゃあ、鍛え甲斐があるのう」

『……ビシバシやっちゃって』

『不穏な会話が聞こえた、訴訟』


 戦闘中におこなう会話ではない。

 しかし、どうしてだろうか。それが、当たり前のように思える、この余裕。


 それを証明するかのように、十機もいたレ・ダガーは、その全てを残骸へと変えた。


「一昔前は、レ・ダガー一機でも脅威だったんじゃがの」

『技術の進歩ね』

『精霊戦機に敵はいぬぇっ! でも、特訓は勘弁な』


 こうして、精霊戦隊の初陣は勝利に終わる。


 改めて感じたこと、それはエルティナイト、ルナティックの二機が異常であることだ。


 ルナティックは魔改造を施した、とのことであるが、それだけでは証明できない力を時折発揮していたようにも思える。

 エルティナイトに至っては、もうわけが分からん。


 レ・ダガーの攻撃はゴッズクラスの機体でも無傷とはいかないはず。

 であるからして、昔から機体を軽くすることを目標として戦機は開発され続けている。


 当然、中には捻くれた機体もあるが、これはその極地ともいえる機体だ。


 その巨大な体躯に尋常ならぬ分厚い装甲、頑強さとパワーを前面に押し出した規格外の機体、そう感じずにはおれん。


 そもそもが、これは戦機なのか、という疑問すら浮かぶ。


 関節をひとつとっても、既存の戦機の関節機構ではない。

 いったい、こいつはなんなのか……興味は尽きないところじゃ。


 まぁ、共に過ごしてゆく内に、色々と分かってくるじゃろう。




 クロナミに戻ったわしらは戦機から降り、エリンからの祝福を受けた。


「皆、お疲れ様~! 無事でよかったよぉ!」

「エルティナイトが負けるわけないんだよなぁ。だから、安心していいぞ」


 と訳の分からぬ自信を見せつける耳長の幼女。

 よく考えたら、このお嬢ちゃん自体が謎の塊じゃったか。


「まずはお疲れじゃったの」

「ふっきゅんきゅんきゅん、あんなの疲れた内に入らないんだぜ」

「……同じく」


 互いを労いつつ、艦橋へと向かう。


 さて、機獣は撃破したものの問題は残った。

 何故、連中が徒党を組んでキアンカ周辺にいたかだ。


 それを調べる必要がある。




 わしはこの時、まだ軽い気持ちでおったのじゃろう。

 しかし、これは長い長い戦い、その始まりに過ぎなかったことを後に悟る。


 今はただ、久々の戦い、その勝利に酔いしれていたかったのだ。


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[一言] まさに、攻撃する盾…
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