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55食目 エリシュオン・惑星攻略軍

 ◆◆◆ 大佐 ◆◆◆



「報告を聞こうか、【C・スルト】大佐」

「はっ、我が第六精霊界侵攻軍キアンカ方面軍は基地を失い、その戦力を失いました。また、建造中の試作兵器【ス・ティガース】を出撃させましたが、これも撃破されました」


 どよどよ、と騒めき声が室内に響いた。


 私が招集された場所は、軍議室。

 ある意味で尋問室ともいえなくともない場所だ。


 精密機械で構成された壁には録音機能があり、どんな小さな呟きも収集され記録されるので迂闊な言葉は決して用いることはできない。

 仮にそのような発言を口にしようものなら反逆者として処分されてしまうだろう。


 もっとも、ここに集まった者たちはそのような言葉を口にはしないだろうし、そして、する意味もないと信じている。


「にわかには信じ難いな……基地の陥落もだが、ス・ティガースは生半可な戦力では墜とせまい。貴公の自信作ではなかったのか?」


 軍帽を目深に被っていた初老風にデザインされた機械人がそれを外した。

 その顔は歴戦の将を思わせる。

 事実、彼は歴戦の将でもあり、数々の惑星を陥落させてきた猛将だ。


 その名を【A・ヴァストム中将】という。

 私が初て下に就いた上官であり、そして、最も尊敬するお方だ。


「はっ、それが一撃で消滅させられました」

「何……?」

「これが、その映像となります」


 映像はあまりの衝撃に乱れている部分はあるものの、確かな証拠として十分納得させる力を持っていた。


 巨大な雄姿を見せるス・ティガースは、たった一機の戦機が放った巨大な火球によって蒸発せしめられてしまったのだ。


 声を失う将校たち。A・ヴァストム中将も僅かに顔を顰める。


「これは、間違いようのない【脅威】だ」

「はっ」

「C・スルト大佐、着席を許可する」

「了解であります」


 ようやく腰を落ち着かせることができた。

 この映像がなければ、私もただでは済まなかったであろう。

 A・ヴァストム中将はともかく、他の将校たちは私に良い感情を持てはいないだろうからだ。


「だが、これは脅威であると同時に、チャンスでもある」

「と申しますと?」


 A・ヴァストム中将はテーブルの上で手を組むと口元を隠すかのような姿勢で意見を語り始めた。

 この喋り方は彼の癖のようなものである。


「この戦機を手に入れる。無論、パイロットもだ」

「それは、困難であるかと」

「承知の上だ。それだけの価値がある、といえよう」


 彼の鋭い眼光に気圧される将校たち。

 実際、私も彼の圧に抗うのは相当な労力を要している。


 ただ、その威圧感の中に我々はこれ以上ない頼もしさも感じているのは事実だ。

 何故ならば、A・ヴァストム中将がこの姿勢で語った時、その目標を達成できなかった事は、一度たりともないからだ。


「C・スルト大佐。Dチームの使用を許可する」

「ディ、Dチームでありますか? しかし彼らは、惑星ティエリ攻略作戦に参加中では?」

「もう終わったよ。堕落した星の住人たちでは手応えも何もない、と不満を漏らしていた」

「そ、そうでありますか」


【Dチーム】。


 それはA・ヴァストム中将配下のエリシュオン星人三名で構成される戦闘特化チームだ。

 それぞれに専用の機体が与えられているエースパイロットで構成されたこのチームは数々の作戦で多大な戦果を挙げた事で知られている。


 ただし、このDチームは扱い難い事でも有名だ。

 一言でいえば【戦闘馬鹿】。

 とにかく強敵と戦うこと以外に興味がない。


 そして、その特殊な出生もあってか機械人のボディではなく【生身の肉体】を所持している。


 そのため機獣を操縦する際は【コネクトコード】の接続ではなく、エースパイロット同様にマニュアル操作をおこなう。

 彼らの脅威的な腕前は、我が軍の中でもトップクラスという凄まじさだ。


「ですが、彼らでは件の戦機を破壊してしまいかねません。当然、そのパイロットも……」

「それなら、それで構わん。脅威がなくなるだけの事だ」


 手を解いたA・ヴァストム中将は姿勢を正し、今後の方針の修正を告げる。


「諸君、聞くのだ。観測チームより【精霊王】の波長をキャッチした、との報が入った」

「な、なんですとっ!?」


 どよめく将校たちは、しかし、その理由がよく分かった。


 精霊王……それは第六精霊界の頂点にして絶対の守護者であった。

 我が【エリュシオン・惑星攻略軍】もヤツに対しては相当な痛手を被ったものだ。


 しかし、精霊王は約二百年前に、突如として消失した。

 原因は不明であるが、大規模な光素爆発があったことから、何者かと交戦し相討ちになった可能性が高い、と当時は推測されていた。


「せ、精霊王が存命している、というのですかっ!?」

「落ち着きたまえ、F・ドモリス少将」


 少し小太りな機械人F・ドモリス少将は、低く落ち着きのあるA・ヴァストム中将の声に平静さを取り戻したようだ。

 彼は優秀ではあるが、突然のトラブルには弱い部分がある。

 そのため、彼の傍には必ず沈着冷静な副官が配属されていた。


「精霊王の波長が確認されたのは二回。キアンカ方面とプッカヒーコー方面でだ」

「そこに精霊王がいる可能性が高い、と?」

「C・スルト大佐。これはあくまで推測なのだが……精霊王は【転生】を果たしたのではないだろうか?」


 A・ヴァストム中将が突飛な意見を口にした。

 しかし、誰も頭からそれを否定したりはしない。


 ここに集まった者たちは、いずれも【魔法】や【法術】なる自然エネルギーを使役する者たちとの戦闘経験がある。

 それは即ち、【ファンタジー世界】と呼称されるであろう惑星を制圧した経験を持つ者たちなのだ。


 したがって、摩訶不思議な現象であろうとも、ある程度の耐性や認識を持ち得ているのである。


「時間経過的にも十分に可能性はあります。我々も機械人の身体に【ソウル】を入れ替えすることによって【偽転生フェイクリーンカーネーション】を行っておりますからな」

「然り。故に精霊王がこの世界に戻ってくる事自体はおかしなことではない」


 冷静になったF・ドモリス少将は自身の推測を述べた。

 それをA・ヴァストム中将が肯定する。


「問題は、どれほどの力を取り戻しているかだ。力に問題を抱えている場合は、その存在を隠し力を蓄えることだろう」

「そうなれば、探し出すのは容易ではない、と?」


 私の問いにA・ヴァストム中将は少しの間を置き答えた。


「C・スルト大佐」

「はっ」

「貴官に精霊王捜索の任を与えると同時に、補給物資と補給人員を与える。これをもって精霊王捜索部隊を編成し、ヤツの発見、及び抹殺せよ。同時に件の戦機、及びパイロットの確保もだ」

「了解であります」

「よろしい、では速やかに任に付きたまえ」

「失礼いたします」


 私は敬礼し、その任を受領、部屋を後にした。




 その通路での事だ。

 鋼鉄の通路を行く私を、三人の粗野な男たちが立ち塞がった。


「よぉ、C・スルト大佐」

「きみたちは……そうかDチームだな?」

「おうよ。これからアンタの下に着くことになった」


 三人のリーダー格の男が、荒々しい闘気を撒き散らしながら私に顔を寄せてきた。

 恐らくは、私の度胸が、どれほどのものかを確かめたいのであろう。


「ふ、戯れは程々にしていただきたいものだな。きみたちは私の下で働くことになるが、一向に好きにしてもらって構わない」

「ひゅう、大した肝っ玉じゃねぇか、おっさん」


 おおよそ、軍人とは思えない身なりのDチームは、その性格も同様であった。

 どう見てもゴロツキ、口の悪い者は彼らを【山賊】とまで言う。


 Dチームのリーダー格、【ルオウ・デイシ大尉】。

 彼は生身であるため、機械人に与えられる階級文字ランクを持っていない。


 伸び放題の黒髪に赤い瞳が爛々と輝いている野人、それが第一印象となるだろう。

 しかし、彼は好戦的で力技を好むが、時として冷静であり、技をもって敵を制圧することができる極めて優秀な戦士でもあった。


「きみたちを縛り付けても、その縄を引き千切ってしまう事は目に見えている。であれば……」

「自由にさせておいた方が互いに得、と?」

「理解が早いな、ズーイ・ヤーハ中尉」

「俺たちの事は調べ済みってか?」


【ズーイ・ヤーハ中尉】はDチームの中では沈着冷静なタイプであり、話が通じる相手ではある。

 しかし、その本質は他の二人と同様であり、一度火が付くと決して止まらない戦闘狂であった。


 容姿としては高身長でチーム内では一番背丈がある。

 二メートルに届くのではないだろうか。

 しなやかな体形は一見すると女性のようにも見られる。

 それは紺色の長髪と整った中性的な顔がそうさせるのだろう。


「ばっはっは! そりゃあ、ありがたい! 俺たちゃあ、細かい指示なんぞ実行できんからな!」


 Dチーム最後の男は、【モヴァエ・シシム中尉】という。


 巨漢の男であり、いかにも山賊と、いう風貌の男である。

 しかし、彼はDチームのストッパー役であり、細かな配慮もできる優秀な人材だ。

 だが、彼もやはりDチームの宿命からは逃れられず、また、その太く逞しい腕から幾つもの物資破損の始末書を生み出していた。


 丸刈りの頭に伸び放題の赤い眉毛、赤い瞳。頭とは対照的に毛深い身体、と彼も相当にインパクトが強い人物である。


「これより、第六精霊界へと転移する。きみたちは準備を済ませ15・00時までに旗艦【ム・ヨーキ】に着任せよ」

「了解だ、暫く厄介になるぜ、大佐」

「あぁ、期待している」


 彼らと固い握手を交わす。

 どうやら、彼らとは上手くやってゆけそうだ。


 それはきっと、私の【本質】も彼らと同じだからだろう。

 だからだろうか、私は与えられた任務の達成を確信したのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] エリュシオン? 我こそは、「極楽軍」と名乗っているような連中ですな。
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